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第1話『まだ霊は出ない』

 8時5分。

 その日はハナから最初の授業には遅れる気だったが、目が覚めるとギリギリ間に合いそうな時間だった。

 (はぁ・・・いくか)

 気乗りはしなかったが、滑り落ちるようにベッドを降り、朝飯を食べるために自室を出た。

 食卓を見てみると、メモに『これで何か買って下さい』と書かれた食パン(加工なし)が置いてあった。

 「えっ、物々交換?」

 一瞬戸惑ったが、母はたまに抜けているトコロがあるので、気にせずそのままパンをかじった。


 母が働き始めたのは3年前。

 『コーヒーを買ってくる』と言って出かけたまま父が帰って来なくなり、それからは母は1人で生活を支えている。

 あの時、父はコーヒーを飲んだ後にコーヒーを買いに行ったのだから、不審に思うべきだったのかもしれないが、もう言っても仕方のない話だと思う。

 それよりも今は早く働いて母を助けてやりたい。

 『高校だけは行け』と母に言われたので行くことにしたが、母のたまに見せる疲れた顔を見るたびに歯がゆい気持ちになってくる。


 そんなコトを考えながらの登校だったので足取りは重かったが、朝礼の時間には何とか間に合った。

 ちなみにうちの家族も個性的な人ばかりではあるが、この柳下高校の生徒も個性的な人が多い・・・と言うよりもキャラの薄い人間は少々キツいかもしれない。

 「安田、今日は遅かったな!」

 同じクラスの東くんに声をかけられる。

 この東くんという人間は、ここでは致命的な程にキャラの薄い人間である。

 無論、ここでは生きていけない。まさに生ける屍みたいな存在。

 「あぁ、おはよう東くん。今日もあれだな」

 当り障りのない会話だけをして自分の席についた。

 「おっす安田!」

 「安田君おはよう」

 教室に入るなり数名のクラスメートが話かけてきた。

 決して俺がクラスで人気者だ、というわけではない。

 理由はおそらく昨日の文化祭での事。

 

 文化祭当日の放課後には後夜祭が開かれ、夕焼けと『2006柳下祭』の字にかたどられた焚き火が雰囲気を作っていた。

 俺はそれに流され、木津栄(きづ さかえ)という女優の畑野浩子がちょっと残念になったような顔の娘に告白してしまったのだ。


 「ホントに木津さん告白したの?」

 「どうだった?オッケーもらえた?」

 ひっきりなしにぶつけられる この質問責めが嫌で、今日はわざと遅刻しようとしただが・・・やっぱり俺はあの人の子どもだ、どこか抜けてる。


 「木津さんのどこが良かったの?」 東くんの質問に俺はハッとした。

 (言えない・・・他の娘と違ってキャラが濃くないからなんて。それだけの理由だなんて絶対言えない)

 俺の沈黙は (東くんがこの学校では屍人も同然だから) 無視をした、という自然な流れとしてみんなには捉えられていた。


 当人の木津は少し遅れて登校してきた為、余計な質問はされずに済んでいた。

 安田は斜め前の方向の姿勢良く座っている木津を眺めながら、ある事を考えていた。

 (オッケーだったらどうしよう)


 あの日、安田はまだ返事をもらってはいなかった。

 『少し待ってほしい』という有りがちな言葉を頂戴しただけで、すんなりと帰ったのである。

 家に帰って一晩過ぎた後の安田は、平常心以外のなにものでもなかった。

 (木津って微妙だよなぁ。あれで性格良かったら付き合っても良いんだけど、わかんないしなぁ)

 自分から告白したとは思えない程、自分勝手な考えを頭に巡らせながら、安田は黒板の文字をノートに写す作業を続けた。

 結局、全ての授業が終わるまで安田と木津は一度も話をするコトは無かった。

 (あいつ、まさか焦らし系?)

 安田は帰り支度をしながら、ふとそんな考えが頭をよぎった。

 もし彼女が焦らし屋なら=(性格わろし)の方程式ができる。

 顔が微妙で性格悪し(わろし)だとすると、いよいよ自分から告白したのに速攻フるという暴挙に出なければいけない。

 だが安田は暴挙だとわかっていても自分の身を守るためなら何でもできる勇気があった。

 (よし、何がなんでもあいつをフるぞ)

 安田が意志を固めたその時、木津が話しかけてきた。

 「話あるんだけど。ここじゃなんだから、ちょっと付き合って」

 「断る!」

 安田は間髪入れず言ってやった。


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