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消えた勇者

「どういうことなんだ?」


 バッカスがいないと言うソードマスターのカルミナに、俺は問いかける。カルミナは、はあっと深いため息を漏らし、説明してくれる。


「あたしにもわからないわよ。依頼が終わったから、帰ろうとってことになったのに、ここに居続けてさ。そしたら、突然昨日消えたのよ。ちょっと出てくるって言ってね」

「……逃げたのか?」

「でもなんで……」


 おそらく、俺達と会いたくなかったんだろうな。それか、マジで消えたとか……どちらにしろ、王城からの命令だ。なんとしてでも、あの馬鹿を見つけ出して連れ戻さなければ。

 はあ、まったくなにやってるんだあいつは。


「ところで、そっちのびくびくしている子が、噂の魔王様かしら?」

「は、はいぃ……そうですけど」

「ふーん」

「あ、あのなんでしょう?」


 物珍しそうに、カルミナはクルルベルを観察する。目つきが鋭いせいなのか、その威圧感に身を縮めている。シルムは、カルミナがクルルベルに何かをしようとした時のためにまた剣を構えていた。

 こいつ、何かあるとすぐ剣を構えるな。


「ふむ。噂通りね」

「ど、どんな噂なんでしょうか?」

「めちゃくちゃひ弱そうな見た目」

「はぐっ!?」

「幸薄そう」

「あうあっ!?」

「魔王っていうか、ただの町娘。……まあ、強大な魔力はさすがは魔王ってところね」


 なんという容赦のない言葉攻め! シルムが抜刀しそうだったので、俺は片手でそれを阻害しつつ落ち込むクルルベルを慰めるため頭を撫でる。


「この程度で、落ち込むなんて。魔王ならしっかりしなさいよ」

「ま、魔王だって、落ち込む時ぐらいあります!」

「あんまりこいつを虐めないでやってくれや。打たれ弱いからさ」

「そうみたいね。ごめんなさいね、あの馬鹿のせいで、イライラしていたものだから」


 あー、わかるわかる。最初は、頼りがいがある奴に見えるけど、一緒に居続けると馬鹿さ加減がわかってきて、イライラしてくるんだよなぁ。

 

「だったら、なんであいつと一緒に居たんだよ」

「勇者と一緒に居たほうが、稼ぎが良さそうだったから」

「素直な理由だな」

「世の中、そんなものよ。結局のところ金がなくちゃ生きていけないわ」


 おっしゃるとおりで。


「ねえ、カルミナ。あたし達さ、バッカスを王都に連れ戻さなくちゃならないんだよ。だからさ、協力してくれないかな?」

「それは、冒険者としての依頼かしら?」


 どこまでも金に強欲な子だな。

 そういうのは、嫌いではないけど。こういう子ほど、信頼できるからな。


「まあそうなるな。これは、王城からの命だ。勇者を連れ戻せば、ちゃんと報酬がでる。その何割かをお前に分ける」

「具体的な金額は?」

「えっと、とりあえず前金で五十万ユルン」

「勇者捜索の依頼にしては少ないわね」


 そうだな、前金とはいえ世界を救ってくれる勇者を探す依頼にしては少ない。


「これもあの馬鹿勇者が散々遊びまくったおかげなんだよ」


 王様も世界を救うためだ。勇者に協力は惜しまない! とか言っちゃったせいで、あの勇者様が調子こいてな……。


「そう……じゃあ、その六割でいいわ。とりあえずは」


 八割ぐらいを要求してくると思っていたが、まあ六割ならいいだろう。こっちは、勇者のおかげでそれなりに稼がせてもらっているからな。

 それに、これは魔王を討伐するための必要経費として蓄えられていたものの一部だ。本来ならば、勇者パーティーに与えられるもの。そんで、カルミナは俺の代わりに入ったソードマスター。


「わかったよ。だから、一緒にあの馬鹿を連れ戻すのを手伝ってくれ」

「ええ。それにぶっちゃけ、魔王がこんな状態なら、もうあの馬鹿勇者は元の世界に帰されるんでしょ?」

「それはどうだろうね。まあでも、可能性としてはかなり高いかもだけど」

「バッカスさんは、魔王を倒すために召喚されたんですもんね。もしかしたら、バッカスさんも元の世界に帰されるとわかっていて」


 逃げている可能性がある。勇者という役目がもうできなくなってしまったからな。このまま残っていても、ただの金齧り虫となるだけだろうし。

 中には、魔王を子分にしてしまった俺のほうが役立つんじゃないのかって言われてるし。


「さっさと、探すなら探すぞ。ぐずぐずするな」

「なんで、こいつこんなに偉そうなの?」

「それは貴様もだろ?」

「あたしは別に偉そうにしてないわ。これは、友好的っていうのよ。ね? 魔王様」


 と、満面な笑顔で、クルルベルに同意を求めるカルミナ。俺から見ても、威圧しているわけではないな。さっきまでは、びくついていたクルルベルも、少し安堵した様子で首を縦に振る。


「は、はい。さっきまでの怖さがなくなりました」

「あたしは、信頼できる奴には友好的になるのよ」

「ふん。金で結ばれる絆か……さすがは、人間だな。絆のレベルが下賎過ぎて、思わず拍手をしたくなる」


 お? これは、喧嘩が始まる予感。エルカも、それを察したようでにやにやと見守り。リーミアは、やばくなったら止めようか杖をぎゅっと握り締める。

 ……まさか、叩くのか?


「言っておくけど、金での絆ってのも案外馬鹿にならないのよ? というか、魔族なあんたに絆云々言われたくないわね」


 確かに、金で結ばれる絆というのもあるにはあるな。今の俺達のように。


「貴様が、魔族の何がわかるというのだ。魔族の絆は、人間など比べ物にならないということを知れ! 僕と魔王様のようにな!! ね!? 魔王様!!」

「うん。私は、シルムのことをいい子だって思ってるよ」

「ほら見るがいい!!」


 なんだろう。若干二人の意思疎通が乱れてるような気がする。カルミナも、それを察して気がそがれたかのように眉を顰める。


「仲いいなお前達」

「どこがよ?」

「こんな奴と仲がいいなど、虫唾が走る」

「それはこっちの台詞よ。まあ、あんたとは仲良くしないけど、こっちの皆とは仲良くしていくわ。もちろん、クルルベルちゃんともね」


 もうちゃんづけか。本当に信頼できると思った奴には、友好的だな。それでいて、生活についてもしっかり考えている。

 これで、ソードマスターって言うんだからすごいな。こいつは、長生きしそうだ。


「じゃあ、あたしとも仲直してねぇ」

「リーミアです。改めて、よろしくお願いします、カルミナさん」

「ええ、仲良くしていきましょう。そっちの先輩もね」

「先輩?」


 各々握手を交わしていく中、俺に対して先輩と言って手を伸ばしてくる。クルルベルは、かなり気になってしまったようで、俺の服の裾をくいくいと引っ張る。


「ああ、たぶんソードマスターとしての先輩ってことだろ」

「あー、なるほど」

「それもあるけど、それとは別の意味での先輩なのよね」

 

 違う意味での? ソードマスター以外にも先輩後輩関係があるっていうのか? だが、他に考えられることって言ったら……いや、まさか。だけど、今は、そんな気配は感じられないし。

 握手を交わす中、カルミナはどう? わかる? みたいな顔でずっと見詰めていた。


「……」

「キリバさん? どうかなされましたか?」


 カルミナと握手を交わした後、じっと黙っていた俺を心配して、リーミアが顔を覗いてくる。ハッと我に帰った俺は、なんでもないと首を横に振る。


「じゃあ、メンバーも揃ったことだし!」

「さっそく、勇者さんを探しに行くんですね!」


 張り切るクルルベルの可愛い姿に同意したいところだったが。


「いや、今日はもう日が暮れる。探すのは、明日にしよう。今日はまず、勇者がいなくなったと王都に知らせるだけだ」


 外を見れば、もう夕日が沈んでいる頃だった。夜になってから、外を出回るのは、いつの時代でも危険がいっぱいだ。いくら実力があろうとも、迂闊に出て行くの自殺行為。

 なので、今日はこの村で寝泊りして、明日探すことにしよう。


「そ、そうですね。暗いと危ないですもんね」

「あなた達、泊まるところは決めてるの?」

「俺は、野宿にしようと思ってるけど」

「じゃあ、女子はあたしと一緒に村長宅の隣に泊まるわよ」

「隣?」


 あっ、そういえばなんか隣に建てられたばっかりだぜ! とアピールしている小屋があったっけな。


「そこで、あたしずっと寝泊りしてたのよ。元々、村人達の集会場のために作られたところだから、スペースも十分よ」

「でも、いいのかな? 急にそんな」

「大丈夫よ。ねえ? 村長」

「はい。バッカス様やカルミナ様は、もちろんのこと。キリバ様方にも、この村のピンチを救っていただいたご恩がありますから。遠慮なくお使いください」

「うおっ!? い、居たんだね。村長さん」

「気づきませんでした……」


 突然、奥から姿を現した初老の男性に、エルカやリーミアは驚く。そういえば、ずっと奥に居た気配がしたっけ。おそらく、俺達の会話に入る余地がなかったので、ずっと見守っていたんだろう。

 クルルベルも気づいていたみたいで、怖がってはいなかった。

 さすがは、魔王様だ。それとも、怖がりだから人の気配には敏感だったとかか? 何はともあれ、バッカス捜索は、明日から本格的に始まる。今日は、しっかり休んでおかないとな。

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