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勇者を探しに

「さあ、お前達!! あの馬鹿を迎えに行くぞぉ!!」

「おー!!」

「お、おー」

「兄貴。あの馬鹿とは、誰のことなんですか?」

「そうだ。とんでもない馬鹿ならば、魔王様を近づけるわけにはいかない。さっさと教えろ。答え次第では、魔王様と共に、僕は帰るぞ」


 ノリが悪い奴だな、こいつは。俺は、いつまで経っても連絡もよこさず、帰ってこない馬鹿勇者を迎えに行くために、エルカ、リーミア、クルルベルの三人を連れて旅立とうと思ったのだが、やはりというか必然なのか、シルムがついて来た。


 こいつは、やたらと俺のことを毛嫌いしている。おそらく、最初に出会った時、あっという間にやられたことを根に持っているんだろうな。

 せっかく容姿はいいのに、こんなにもつんつんしているのは、もったいない。


「今から会いに行くのは、お宅の魔王様を倒す予定だった勇者のことだよ」

「勇者なのに馬鹿なのか?」

「ああ、勇者だけど馬鹿だ。実力は、本物なんだがな。おまけにすごい女好き」

「それは貴様もだろ」

「俺は違う! 俺は、可愛い好きなだけだ!!」


 決して! 女好きとかじゃない。いや、嫌いというわけではないけど。可愛ければ女だろうと、動物だろうと、おまけに無機物だろうと大丈夫だ。

 

「なんだそれは。結局、変態なのには変わりないではないか!」

「変態ではない! 断じて!!」


 これは、ただ純粋な好きという気持ちだ。そこに変態要素があるなんて、俺は悲しいぜ……。確かに、あまり興奮しすぎると変態チックになってしまうだろうが、仕方がないこと。

 好きなものを前にして、興奮するなということが無理な話なんだ。


「お前にだって、あるだろ? 好きなものや好きなことの一つや二つ! それを思えば、自然と気持ちが高まってこないのか? そんなもの! 好きという気持ちにあらず!!」

「おー! いい語りっぷりだね! キリバ! あたし、そういうあんたのストレートなところ嫌いじゃないよ!」

「さすが、エルカ! 俺は、いい友を持って幸せだ!!」

「うん!」


 がしっと、手を繋ぎあい、俺とエルカは更に絆が深まった。


「こ、これが人間同士に友情……!」


 そして、そんな光景を見て、クルルベルは感動していた。俺は、手を繋いだままドヤ顔を決めて、口を開く。


「そうだぞ、クルルベル。だが、この友情は人間だけのものじゃない。魔族であるお前にだってできることだ」

「わ、私にもできますか?」

「ああ! なので、まずはお試しということで、俺と友情のハグを」

「誰がさせるか! 貴様! どさくさに紛れて、魔王様に抱きつこうなど!!」


 と、また盾になるように前に出てきたので、俺は。


「ならば、お前を抱く!!」

「またかー!?」

「ま、また?」


 鎧があるためかなり固い抱き心地だが、まあよしとしよう。それにしても、こいつ男のくせにいい匂いがするな。俺には、そっちの趣味はないけど、こいつの容姿ならば、そっちに目覚めてしまう男達が多くなるかもしれないな。

 なにやら、リーミアが困惑しているようなので、この辺りにしておこう。そろそろ出発しないと、日が暮れてしまうからな。


「友情に深め合いも、このぐらいにして、そろそろ行くぞ」

「誰が、貴様と友情など深めるか!」

「ツンデレだね。恥ずかしがちゃって」


 俺の言葉に否定的なシルムに対して、エルカがぽんっと肩に手を置く。


「ち、違う! というか、なんだツンデレとは!?」

「まあ、ツンデレは後でデレるだろうから、よしとして」

「だからツンデレとは!」

「バッカスが居るところまでは、馬車で行く。日が暮れる前には、到着したいな」

「そうだね」

「おい! む、無視するな!!」

「し、シルム落ち着いて」


 行くのはいいけど、あいつがまだそこに居ればいいのだが。召喚した召喚師や王からも勇者のことを探してきてくれって正式に頼まれたからな……あいつ、マジで何をしているんだか。



・・・・・



 馬車で移動すること数時間。

 休憩を挟みつつだったけど、日が暮れる前には到着することができた。警備兵達も居るため、ここはかなりしっかりした村なんだろう。

 丁度いい、バッカスのことを聞いてみるか。


「止まれ。何者だ、お前達は」

「俺の名は、キリバだ。そして、エルカとリーミア」

「どもー」

「ヒーラーをしています、リーミアです」

「あ、あなた方は、勇者バッカスの」


 さすがは、勇者効果。まあ、あいつの効果がなくても、俺達は何度かこのマビロ村に立ち寄ったことがあるから顔は覚えてもらっているだろうけど。

 さて、次が問題だが。


「ああ。次に、クルルベルとシルムだ」

「は、始めまして。クルルベルと言います」

「ふん」


 あーあ、ご機嫌斜めだ。


「クルルベル? どこかで、聞いたことがある名だが」

「……そうだ! 魔王クルルベル!」


 やはり、ここまで名はちゃんと知れ渡っているようだな。だとしたら、当然あの馬鹿にも知れ渡っているはずだが。


「落ち着いて、二人とも。確かに、彼女は魔王だけど。無害だから」

「た、確かに噂ではあの尋問で、完全無害とわかったと聞くが」

「ほ、本当なのか?」


 やはり、魔王という名がまだまだ恐怖という影響を与えているためか、無害であるクルルベルのことを怖がっている。


「本当だとも。ほれ」

「ひゃうっ!?」


 無害だということを証明するために、俺はクルルベルを抱き寄せ、頭を撫でて見せた。クルルベルは、抵抗することもなく、ただただされるがまま頭を撫でられている。

 後ろでは、それを止めようと剣を抜きかけているシルムをエルカとリーミアが全力で止めていた。


「う、後ろのはともかく、彼女は」

「ああ……普通の女の子にしか見えないな。本当に魔王なのか? なんか、威厳が無いというか。怖がっていたのが、馬鹿だった感じになる」

「ひ、ひどい!? でも、嬉しいです!」


 なんだか、同じようなことがあったなぁ。傷ついているのか、嬉しいのかどっちなんだって。ともかく、これでクルルベルが無害だということはわかってくれたようだ。

 さて、ここからが本題だが。


「聞いていいか? ここに勇者バッカスが来ているはずだ。今、この場に居るか?」

「勇者バッカスならば、この先にある村長の家に居るはずだ。お供の少女と一緒にな」


 よかった。まだ居るみたいだな。だったら、どうして戻ってこないのか。それは、本人に直接聞けばわかること。警備兵との挨拶もほどほどに、俺達は村の中へと入っていく。

 先ほどの警備兵達との会話を聞いていたのか、村人達が馬車から降りてくる俺達の事を興味あり気に見詰めていた。


「人気者だね」

「ただ、怪しいものを警戒してるだけじゃ……」


 と逆に怯えている魔王様だが、そうじゃない。彼らが警戒しているのであるならば、物陰に隠れているはずだ。それなのに、そんなことをせずに中には近づいて来ようとしている者達も。

 だが、ある奴が居るため、思うように近づけない。


「……」


 この魔王様の側近であるシルムが彼らを睨んでいるからだ。


「ここだね」

「そんじゃ、入るぞ」


 木の扉を開き、俺達は中へと入っていく。


「おーい、バッカス。迎えに来てやったぜ」

「あいつなら居ないわよ」

「はっ?」


 入ってすぐ見つけたのは、バッカスが俺の代わりに連れてきたソードマスターカルミナだった。そして、あの馬鹿勇者がいないことを告げるのであった。

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