小さき鍛冶神
「こほん! 改めて、名乗るぞ! あたちは、鍛冶神チュルメだ! お前が、子分魔王クルルベルだな!」
「は、はい!」
一通りチュルメの抱き心地を堪能したところで、互いに自己紹介をした。とはいえ、俺は両方知っているのでチュルメとクルルベルだけだが。
こじんまりとした部屋の中央には円形のテーブルが置いてあり、その近くには手を伸ばせば届く範囲に色んなものが置かれている。
「で? 今日は、何をしにきたのだ?」
律儀に、茶を入れながらチュルメが問いかけてくるので、俺は隣に座っているクルルベルの頭に手を置きながら説明を始める。
「お前のことをこいつに教えるのと、色々と聞きたいことがあったからな。神である、お前にな」
「……ふむ、まあいいでしょう。お前には、あたちの作ったものを使ってもらっているからな。あたちに答えられることなら、何でも答えてやろう」
茶を入れ終わり、チュルメはいつでもいいぞとばかりにドヤ顔をする。あぁ、いいなぁ、可愛いなぁこのドヤ顔。誰かに頼られるのがそんなにも嬉しいんだなぁ。
「じゃあまず、いきなりなんだが……お前、いやお前達神々は、この世界に来た魔王が世界に危害を加える奴じゃないってわかっていたのか?」
「うん」
間もなく即答ですか、なんて清々しい。まあ、そういうところも嫌いじゃないが。
「そこの魔王が、無害だということはわかっていたの。だから、本当は勇者召喚は必要なかったんだけど……人間達が、あんなにも必死だったからね」
「神としては、応えなくてはならないってことか。てことは、こいつは無害だったからあの馬鹿が召喚されたのか?」
でなければ、もうちょっとまともな勇者が召喚されていたはずだ。
「まあね。それに、この世界にはお前が居るからな。あたち達を信用させるお前がな」
「そう素直に言われるとはずいなぁ、あっはっはっは!! この! このぉ!!」
「や、やめなちゃい!? なんで、すぐ抱きつくんだ、お前はぁ!?」
「お前が可愛いからだよ!!」
それにしても、やっぱり神々はクルルベルがこの世界にとっては無害だってことは知っていたんだな。だが、人々から崇められる神々としては、応えないわけにもいかない。
かと言って、こちらから魔王は無害だ、と言っても世界中の人々がそれを信じるかもわからない。もしかしたら、その声は神々に成りすました魔王のものかもしれない。
「ということを、話し合った結果があの勇者ということだ。だが、お前が魔王を子分にするのは、あたち達も予想外だったけど……」
乱れた髪の毛を直しながら、俺達を見詰めるチュルメに対し、いやぁっと俺は照れながら頭を掻く。
「まあ、だが神々としては、お前が今後どう世界に影響を及ぼしていくのか。楽しみではあるのよ、それにお前には、あたちの手伝いも続けてもらわなくちゃならないし」
「手伝い? 何をしているんですか、兄貴」
「簡単だ。こいつが作っている武装を、俺が使う。ほら? お前のところに始めて突撃した時の鎧、覚えてるか?」
「は、はひ……」
……どうやら、あの時のことは若干トラウマになっているみたいだな。あの時の俺は、あの馬鹿勇者に挑発されて激おこ状態だったからなぁ。
「ああいう武装を、こいつが作って、俺がその実験台になっているんだ」
「そ、そうだったんですか。でも、どうやって兄貴とチュルメさんはお知り合いに? 普通、人と神が知り合うのは無理に等しいと思うんですが」
うーん、やっぱりその質問が来たか。まあ、隠すようなことはないし、答えるか。
「拾った」
「え?」
「だから、拾ったんだよ。なあ? チュルメ」
「う、うん。だが、あの時のことは、あまり思い出させないほしい……自分でも、泣けてくるから」
「……仕方ないなぁ、じゃあこれいるか? 土産だ」
と、落ち込んでいるチュルメに出したのは、今王都で流行っている茶葉だ。こいつは、一に鍛冶、二に茶というほど茶を飲むのが好きなのだ。
なので、案の定先ほどの暗い表情から一変。子供のように、目を輝かせ眼にも留まらぬ速さで茶葉が入った缶を受け取り、そっぽを向きながら。
「あ、ありがとう……」
「どう致しまして」
・・・・・
「キリバくん! 本当にすごいね! 君は!!」
「まさか、魔王を子分にしちゃうなんて、びっくりですよ」
一度クルルベルを魔王城へと送り、俺が自分が泊まっている宿に戻ると、ウィザードのエルカとヒーラーのリーミアが出迎えてくれた。
そういえば、クルルベルを子分にしてからしばらくは魔王城に世話になっていたから、久しぶりだな会うのは。
「それにしても、あの宣言はどうなの?」
「だめだったか?」
「いや、可愛いは正義って」
「俺としては、当たり前のことを言ったまでだ。それとも、クルルベルは可愛くなかったか?」
と、俺が真顔で問いかけると。
「か、可愛いかった、けどさ」
「なんだか魔王なのに、田舎の妹を思い出しちゃいました。すごく撫でたくなりました」
だろう、そうだろうとも。二人なら、わかってくれると思っていたよ。
「でも、どうやって子分なんかにしたの?」
「そりゃ、普通に子分にならないか? って」
「さすがに、それだけでは……魔王はならないと思いますけど」
だけどなった、それがクルルベルだ。
「ところで、あの馬鹿は?」
「あー、バッカス? あいつは、キリバくんが出て行ってすぐに新人さんと一緒に出て行ったっけ?」
エルカも、曖昧らしく覚えていそうなリーミアに問いかける。
「えっと、確かバッカスさんは、この近くにある村に向かったみたいですよ。新人のカルミナさんと親睦を深めるためにって」
「俺が出た後って……もう一週間は経ってるぞ? 何してるんだ」
「あれじゃない? 魔王がキリバくんの子分になっちゃって、勇者としての使命がなくなっちゃって、自分よりも有名人になっちゃったから、帰りづらい、とか?」
ありえる話だな。しかし、それでも何も連絡もないというのはおかしい。バッカスはともかくとして、あのソードマスターのカルミナは、何かしらの連絡があってもいいはずだ。
これは、何かが遭ったのか? ただあいつは、馬鹿だが実力は本物だ。それに、カルミナもソードマスターということは、同じく実力は本物だろう。
「そうかもねぇ。本来だったら、魔王をどうにかするのは勇者の役目だったのに、追放したはずのソードマスターが一人でどうにかしちゃったからね」
「そ、そういえば、バッカスさんはこれからどうなってしまうんでしょう?」
「うーん、もうやることもないし、元の世界に帰還するとか?」
「どちらにしろ、その勇者本人の現状がわからないんじゃ、考えても意味が無い。……よし、会いに行くか」
ついでに、クルルベルも連れて。今から、あいつがどんな反応をするのか楽しみだ。