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可愛いは正義!

「これより! ソードマスターキリバと魔王クルルベルの尋問を開始する!!」


 案の定、魔王を子分にしたということで、俺は怪しまれている。なぜ、魔王を撃退せずに子分にしたのか。もしかしたら、魔王に操られているだけなのでは? そして、中から侵略しようとしているんじゃないのか? と。

 そんなこんなで、俺とクルルベルは尋問されることになったのだ。

 王都アブロラから近い広大な草原。

 そこには、多くの人々が集まっている。その中心に居るのは、俺と魔王クルルベル。そして、尋問官達。まさか、こんな大勢の前で尋問をするとはな。


「あの子が魔王?」

「どう見ても、可愛い女の子じゃん」

「なんかこう、守ってやりてぇ! って思える感じの」

「あー、それ、わかるわ」

「こら! 相手は、魔王なのよ? 見た目に騙されちゃだめよ!」

「そ、そうだな、わりぃ」


 皆、初めて見る魔王の姿に興味津々だ。古くから、魔族とは人類の敵とされており、子供達はそのことを絶対教えられ、育っていく。

 大昔初めて魔王が侵攻してきた時は、多くの犠牲を払った勇者が仲間と共に撃退したと言う。なので、こうしてまた魔王が侵入したことに、世界は最大限の警戒をしていたんだが。


「……」

「ひっ!?」


 尋問官の一人である、髭の長い老人に睨まれ、魔王なのに怖がるクルルベル。だが、そんなの関係ないとばかりにテーブルの中央にとある道具を置いた。

 

『やほー、まさか魔王と対面するなんて思ってもいなかったよ』


 円形の台座には左右に分かれた色違いの宝玉がある。そして、中央に座っている小さな生命体。服など一切着ておらず、裸を晒しているようだが、違う。

 

「も、もしかして精霊さんですか?」

『そうだともー。わたしは、真実を見分ける精霊クロッツァ。そして、わたしの左右に浮かんでいる宝玉だけどね、黒は嘘、白は真実を表すものでね。もし、君が嘘をついていれば、黒の宝玉が輝く。で、白はその逆ってわけさ』

「クロッツァの力は本物だ。下手な嘘など、すぐ見分けられる。さあ、魔王クルルベルよ。覚悟はよいな?」


 まったく、こんな気弱な女の子に対してそれはないと思うぜ尋問官さん。とはいえ、相手は、世界の敵である魔王。

 本来なら、尋問などせず命を奪うのが普通なところ。それに、クルルベルだけじゃなくて俺も怪しまれている。クロッツァ相手だと、どんな嘘も、薄っぺらい紙も当然。

 さて、ちゃんとフォローしつつこの場を切り抜けるか。この可哀想で、可愛い魔王のために。


「では、ひとつめ。貴様は、なぜこの世界へとやってきた? やはり……世界征服か?」


 人々は、ごくりと喉を鳴らす。


「そ、そんなこと企んでいません! た、確かに大昔この世界を侵略せんと私と違う魔王さんが来たみたいですけど、わ、私はただイジメでこの世界に来ただけなんです!!」

「イジメ?」

「魔王が?」

「でも、あの子だったらイジメたくなるのも、いてっ!?」

「馬鹿言ってないの」


 クルルベルの答えに、人々が騒がしくなる中、クロッツァの判定はというと。


『しっろだよー』

「ば、馬鹿な……白、だと?」


 白の宝玉が強く輝いていた。つまり、嘘ではないということだ。尋問官の二人もそうだが、見学人達も驚きを隠せないで居た。


「嘘だろ? じゃあ、本当にイジメで?」

「魔王がイジメられるって……魔界も色々あるんだなぁ」


 なにやら、ほっこりした雰囲気が滲み出ているのを見て、髭の尋問官が更に睨みを強くする。


「はわわ!?」

「次だ! 次は、キリバ殿」

「ああ、なんでも聞いてくれ」


 クルルベルの次は、俺のようだ。しかし、俺は余裕の笑みを浮かべて尋問官と対峙する。


「では、キリバ殿。あなたは、なぜ魔王クルルベルを殺さず、子分などにしたのですか?」

「この子が可哀想で、可愛かったから。最初は、切り殺してやろうって思ってたんだけど」

「い、今は思ってないですよね? あ、兄貴」


 不安そうに顔を覗いてくるクルルベルに、俺は最大限の笑みで肯定した。


「ああ、もちろんだ」

「ほっ……」


 さて、クロッツァの判定は?


『しっろーだよよー』

「なぁにぃ!? あ、あなたは魔王に操られているのではないのですか?」

「いや、全然。ただ普通に、守ってやりてぇなぁって」

『しっろだみー』

「ガッテムッ!! クロッツァよ! 真面目に判定しているのか!?」

『なに? 私の判定に文句あるの? 言っておくけど、私は一度も嘘をついたことはないよ」

「うっ……」

「で、では次は私から」


 髭の尋問官さんが、おかしくなってしまったところで、別の尋問官が動き出す。今度は、つるっつるのはげた尋問官だ。


「魔王クルルベルよ、もう一度聞きます。あなたは、この世界を侵略しようとは思っていないんですね?」

「は、はい! 誓って! 私は、ただ平和に暮らしていたいだけなんです……」

『しろしろー』


 なんだか、適当になってきてるな。この精霊ちゃんと判定しているんだろうか?


「なるほど……では、キリバ殿」

「ああ」

「あなたは、魔王を子分にして、何をしようとしているのですか?」

「まあ、子分を守りつつ、世界を守ろうとはしてるってところか。もしかしたら、クルルベルをイジメた奴が攻め込んでくるかもしれないからな」

『しろだよ』

 

 あっ、なんか普通に戻ってきてる。


「ならば、即刻魔王を魔界へと帰すべきだ!」

「あっちからは、こっちへ転移できるが、こっちからあっちへ転移する術はない。それは、尋問官殿もわかっているはずだろ?」

「そ、それは」


 それに、クルルベルだけではなく他の魔族や魔王城まで転移しなくてはならない。並大抵の転移術では、無理があるだろう。

 

「魔法に関しては、魔族のほうが上手だ。それは、大昔からわかっている事実」

「では」

「殺すのもなしだ。昔がなんであれ、無抵抗で何も悪いことをしていない者を殺すとかしたら、どっちが魔族なんだって言われるぜ?」

「し、しかし」

「す、すみません! すみません! やっぱり、私はお邪魔虫ですよね。この世界に居るだけで、多大なご迷惑をおかけしますよね……!」

「こらこら、お前が謝ることじゃないって」

「でも、この世界にとっては魔族は、魔王は」


 まったく、本当に魔王なのか? こいつは。俺は、よし! と気合いを入れ、立ち上がる。人々の視線が俺に集中する中、天へと拳を突き上げ、叫ぶ。


「何かあった時は、俺が全て責任を背負う! だから、安心しろ!! それに、馬鹿だが! 勇者も居るんだ!!」


 勇者、という言葉に人々は活気ある声を上げる。


「そ、そうだ! 馬鹿だけど、勇者が居るんだ!」

「ああ! 女好きで、馬鹿だけど!」


 なんだかんだで、バッカスは勇者だ。世界を守るために召喚された選ばれし者。その影響力、この通りだ。


「そして、これだけは言わせてくれ!!」


 今度はなんだ? と再度俺に視線が集中する。


「可愛いは!!! 正義だとっ!!!」




・・・・・




「おー、今戻ったぞー」


 魔王クルルベルを子分にした日から、早くも一週間が経った。久しぶりに、俺はとあるところへと訪れていた。

 俺が住んでいる王都アブロラの隅っこ。まったく人が集まらないような本当に端っこ。まるで、そこだけが空間から切り離されているかのような場所に、俺は迷うことなく歩いていく。


「こ、こんなところがあるんですね、王都には。なんだが、悪寒がするっていうんですか?」

「あぁ、それはあれだろうな」


 俺の背後に隠れ、びくびくと震えているクルルベルに少し悪戯っぽく伝えた。すると、突然空間が歪む。


「はにゃ!? く、空間が!?」

「神様が居るからだろ? お子ちゃまだけど」

「誰がお子ちゃまデスローイ!!!」

「甘い!」

「はぶ!?」


 寂れた景色から、どこかの一人部屋へと一変する。すると、容赦もなく子供が跳び蹴りを仕掛けてきたので、俺はそれを正面から受け止め、ぎゅっと抱きしめる。


「おー! マジで久しぶりだなぁ、お前の抱き心地! やべぇ、マジ落ち着くわぁ!!」

「や、止めろ! このロリコン!! あたちはお前の抱き枕ではない!!」


 俺の腕の中で、逃れようと暴れているのは、金色のツインテールが良く似合うロリっ子。こう、抱くとマジですっぽりと収まる小ささ、子供なのに大人びた言葉遣い、子供のような甲高くも可愛い声。

 

「この一週間、我慢した分! 思いっきり楽しむぞぉ!!」

「止めろと言ってるのにぃ!!!」

「あ、あの兄貴?」


 一週間も我慢した分、思いっきり抱きしめているところへ、子分であるクルルベルの声が耳に届き、正気に戻った俺は、一度落ち着き、振り返る。


「わりぃ。まずは、自己紹介だな。こいつは、鍛冶神チュルメだ!!」

「はなちなちゃいー!!」

「か、神様……?」


 ま、信じられないだろうな。俺の腕の中で、暴れている子供が神様なんてな。

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