勝負後の
「ただいまー!!」
「……ふう」
「ありゃりゃ、なんか予想通りってところだけど」
「本当に、敵さんを持ち帰ってきちゃいましたね」
死の手紙を貰い、一人で敵の大将と戦ってきた俺は、笑顔で仲間達の所へと戻ってきた。しかし、仲間達はなんだが反応しつらい表情をしている。
おそらくその理由は、俺の腕の中に収まっているカトレを見てのことだろう。そう、俺は勝負に勝ち無事カトレを子分として迎え入れたのだ。カトレも観念したかのように抵抗もせず、俺に運ばれていた。
「なんだよお前ら。せっかく無事に戻ってきたのに」
「いやさ、普通に受け入れたいけど。その子、どうしたの?」
「予想はつくがな」
「もちろん、俺の子分にしたんだよ。よいしょっと」
当たり前かのように説明し、カトレを下ろす。
すると、カトレはすぐ頭を下げ口を開いた。
「どうも。子分のカトレだよ。今までのことを許してとは言わない。僕は、ただ兄貴であるキリバについていくだけだ。どうやら、子分のやったことは兄貴の責任らしいからね」
「てことで、クルルベル。待望の後輩だ」
「え? 後輩、ですか?」
じっとしばらくカトレを見詰めた後、クルルベルは手を差し出す。
「よろしくお願いします、カトレ」
「敬語はいらないよ。歳は、僕のほうが上だけど。今の僕は君の後輩ってことになるからね。むしろ、僕のほうが敬語を使ったほうがいいかな?」
手を握り締めながら首を傾げるカトレ。
「い、いいですよ。そのままのカトレでお願いします。これからは、兄貴の子分として一緒に頑張りましょう!」
「ふう……それはいいけど。君は、もうちょっと魔王としてしっかりしたほうがいいと思うよ?」
「そう言われましても」
クルルベルに魔王らしくしろというのは無理な話だろう。いやぁ、それにしてもこれで魔界も容易には攻めては来れないだろう。今回は、アファロアの命令でただちょっかいを出してきただけのようだけど、その命令を下されたカトレを子分にした今……いや、逆にむきになって攻めてくるか?
その辺りは、ママと相談だな。
「いい雰囲気のところ失礼!」
噂をすればママが介入してきた。
「アファロア様のことですね」
「そのとーり! 今月の勝負も私が勝ったはずだよ! なのになんで攻めてきちゃったのかな?」
「あの、今月の勝負というのは?」
そういえば、皆は知らないんだったな。俺は、皆にも教えていいんじゃないかとママに伝えると、首を縦に振ってくれる。
そしてカトレを加えて、さっそくママは今月の勝負とやらの内容を話し出す。
「簡単に言えば、世界を守るための創造神同士の勝負。それが一ヶ月に一度行われるんだよ」
「そんな勝負があったんだ」
「しかも、一ヶ月に一度って……結構やってるんだな。世界を守る戦い」
俺も初めて聞いた時、その勝負を見た時は驚きを隠せなかった。
「アファロアはねぇ、自分の世界を創ってからは、姉である私にちょっかいを出してくることが多くなったの。だから、一ヶ月に一度勝負をすることで、その間は絶対攻めてこないっていう約束をしてるはずなんだけど。どうしてなの?」
直接アファロアからこっちの世界にちょっかいを出すように言われたカトレに、一瞬にして視線が集まる。
「それは」
「それは?」
いったいどんな理由なんだ? まさか、約束なんて破るものなんだよ! みたいな子供っぽい理由なのか? それとももっと深い理由が?
「……僕にもよくわからない。その勝負のことも始めて聞いたからね」
「本当か? 嘘ついてるんじゃないだろうな」
カトレに色々とやられているバッカスは、まだ信用ならないらしく怪しいと睨んでいる。
「嘘なんてつくはずがないだろ。僕は正直者なんだ」
「正直者ねぇ」
「君は、別の意味で正直者だよね勇者バッカス」
「どういう意味だよ?」
「君、僕が操ってた女性の言葉をすごく真に受けていたじゃないか。明らかに怪しいはずなのに」
そういえば、カルミナは明らかに怪しいとか言ってたな。バッカスを誘っていた女性もカトレが操っていた人形だったってことか。
「お願いします、勇者様。私達の村を助けてください! って声に聞き覚えはないかい?」
突然ちょっと成長した女の子の声をあげるカトレに、バッカスは目を見開く。
「あれはお前だったのか!?」
「正確には、僕が操っていた人形の声だけどね。うまかったでしょ?」
「こ、このガキ……!」
「わー、兄貴ー、勇者が虐めるー」
明らかに棒読みな声をあげながら、俺の背後に隠れるカトレ。しかし、可愛い子分に頼られては兄貴として役に立たなければならない。
「こら、バッカス。勇者として、子供を虐めるのはよくないぞ」
「なんで俺が悪いみたいになってるんだよ。今までの騒ぎはそいつのせいだろ! 俺は被害者だぞ!?」
「それは、だからごめんって」
「ちゃんと謝れよ!?」
「ま、まあまあ。バッカスさん、落ち着いてください」
なんだかんだで、カトレはすぐ馴染んでくれたな。クルルベルと違って、あまり人見知りじゃないから当然と言えば当然か。
「話を戻すが、その神々の戦いというのは。どんな内容なんだ?」
おっと、シルムが話を戻してくれた。それを聞いて、皆はそうだった! とばかりに再びママに視線を戻す。
「それは簡単だよ。攻められるのは私の世界だから、勝負の選択権は私にある! だから、いつも勝負は私が決めてるんだよ!!」
「た、例えば?」
「じゃんけんとか」
「……え? じゃ、じゃんけんですか?」
神々の戦いということだから、予想もつかない勝負をしているんじゃないかと想像していたのだろう。しかし、ママの口から出てきたのはまさかのじゃんけん。
「そうだよ。他にもかくれんぼとか、腕相撲とか、トランプとか。私は、あの時以外は負けなしなんだよ」
「あの時とは?」
「皆も知ってると思うけど。初めて魔王がこの世界に攻めてきた時だよ。あの時の私はちょっと調子にのってたんだよねぇ。だから、後一歩のところでアファロアに負けちゃったんだ」
そこからママは、もう油断することも、調子に乗ることもなくアファロアとの勝負に一度も負けることはなくなった。ただ、クルルベルがこっちに飛ばされたことはママも予想外だったようだ。魔界に住む者達の転移能力がそこまでのものだったのかと。
「だからさ、今月も私が勝ってるからあっちからこっちに干渉するのはだめなはずなのに……これはちょっと文句を言いに行かないと! キリバ! そういうわけだから、一緒に来て!!」
「おっす。じゃあ、クルルベルにカトレ。お前達もついて来い」
念のため、魔界の神様にそっちの主戦力は俺の子分にしてしまったぞって伝えておかないとな。ついでに、そんなことはしていないと言った時の証人として。
「私達もですか?」
「僕は構わないよ。まあ、正直アファロア様に会わせる顔がないんだけど」
「その辺りは、俺がなんとかする。もうお前は、俺の子分なんだからな。てことで、お前達。もうしばらく待っててくれ。ちょっと、ママと出かけてくるから」
開かれる光の門にママが突撃していくのを見守り、俺は立ち上がる。
「はいはい。いってらー。あたし達は、とりあえずいつも通り依頼でもこなしてるから」
「帰りをお待ちしております」
「そのガキには、まだ言いたいことが山ほどあるんだ。ちゃんと連れて帰れよ」
「ま、魔王様! 僕も一緒に」
クルルベルが行くならば自分もとシルムが立ち上がるも。
「大丈夫だよ、シルム。必ず戻ってくるから。皆と城の事、お願いね?」
「……畏まりました。無事の帰還をお待ちしております」
最後に睨まれつつも、俺は二人を連れて光の門を潜っていった。




