ぶつかり合う白と黒
「なあ!」
「なんだい!」
「なんでお前は、勇者を狙ってたんだ!?」
激しいぶつかり合いの中、俺はどうしても気になっていたことを問いかける。俺達の予想では、世界の救世主たる勇者を悪にすることで、世界を混乱させるためなんじゃないかと考えていたが。どうも違うような気がするのだ。
「そんなの簡単だよ!!」
ガキィン! と俺の大剣を弾き、にやりと笑みを浮かべ答える。
「アファロア様のご命令だったんだ。ローリメデス様が選んだ勇者とやらが、どんな奴なのか確かめて来いって」
「へえ。それで? どうだったんだ実際」
「力はあるようだったけど、人間性としては君のほうがまだマシかな」
「そりゃあ、どうも。てことは、別に世界を混乱させようとかそういうことは考えていなかったってことか?」
「まあね。魔王達は、色んな世界を支配しようと奮闘しているようだけど。僕は、そんなものには興味は無い。もちろんアファロア様も。だけど……今、興味あるのはことごとく僕の邪魔をしてくれた君」
大剣を大きく振り上げ、大地へと叩きつける。轟音を鳴り響かせ、大きな裂け目を生み出し、激しい衝撃波が俺へと一直線に迫ってくる。
猛々しくも、真っ直ぐな攻撃だ。
「それは、どうも!!」
そんな攻撃を、俺も真正面から受けてたった。同じく大剣を地面に叩きつけ、衝撃波をかき消す。
「世界を混乱させようとしていないんだったら、これからどうするつもりなん、だ!!」
思い切って大剣を投げつける。そんな行動に、カトレは驚きつつも横に飛び回避した。
「だから言っただろ? 君の命を奪うって」
「じゃあ、例え話だ。俺がお前に勝ったとしたら、どうするつもりなんだ?」
背後にあった木に突き刺さった大剣を抜き取り、俺は再び問いかける。俺の命を奪うというのは、理解している。わざわざ手紙まで渡して、殺すとか宣言したぐらいだからな。
ただ、この勝負で俺が勝ったとしたら、もう目的はなくなる。
いや、もしかしたら俺を殺すまで、生きている限り諦めないとか言い出すかもしれないが。念のため聞いておこうと思ったわけだ。
「そうだね……大人しく魔界に帰る、と言いたいところだけど。転移するための力を蓄えるまで時間がかかるから。しばらくはここに居るよ」
「へえ。でも、俺達がそれを許すとでも思ってるのか? 悪者さんよ」
「思ってないよ。じゃあ、君はどうするって言うんだい? 僕が負けたら」
おっと、まさかそんなことを聞かれるとは。
当然と言えば当然のことなんだろうけど。カトレが負けたらか……ふむ、じゃあこういうことにしておくか。
「よし。お前が負けたら、俺の子分になれ」
「こ、子分? それは、クルルベルみたいにかい?」
「ああ。俺の傍で、お前のことを監視する。今後、悪さをしないようにな。勝者絶対、敗者は言うことを聞くこと。魔界では、強さこそが絶対なんだろ?」
大剣の切っ先を突きつけ、俺はにやりと笑う。
さあ、どうでる?
「……ふふ。いいよ。その提案のってあげるよ。もし、僕が君に負けるようなことがあったなら、君の子分でもなんでもなってあげるよ。でも、大丈夫かい? 僕は、こっちに来て色々と迷惑をかけてるよ。クルルベルと違ってね。そんな僕を傍に置いておくなんて、どうかしてるんじゃないのかい? 君」
「罪ってのは償うものだ。お前は、俺の子分として犯した罪をこの世界のために働いて償ってもらう。それに俺は」
カトレを見詰め、はっきりと言い切った。
「お前を気に入った! 可愛いからな!!」
「なんだい、それ? まさか、僕のことを女の子だって勘違いしてるのかな?」
「いいや。お前が男だってことは、クルルベルから聞いてる。しかし、可愛いってのは何も女の子だけに使うものじゃない。可愛い動物、可愛い服、可愛い人形、可愛い子供……つまり、お前は可愛い!!」
「馬鹿みたいな理由だね。身の危険を感じるから」
大剣の柄をぐっと掴み。
「死ぬ気で君の命を奪うから!!」
大剣が二つに割れ、片刃の二本の剣となった。相変わらず戦い方は真正面から攻めてくるが、剣が二本になったことにより攻め手が増えたと言えよう。
「身の危険とは侵害だな。それはこっちの台詞なんだが!!」
そっちが手数で増やすならば、こっちだって増やそう。大剣を普通の剣のサイズへと縮め、俺はもう一本の剣を生成させる。
「クルルベルのことも、そうやって子分にして愛でてるのかい!!」
「生憎と、クルルベルは最初から無害でな! 俺は、あいつの事を護る為に子分ってことで傍に置いてるだけだよ!!」
「くっ!?」
確かにカトレは強いが、俺も負けていない。眼にも留まらぬ連撃により、カトレの剣は一本吹き飛ぶ。
「そういえば、彼女は他の魔王から無理やりこっちに転移されたんだっけ。物好きな人間だね。魔王を子分にするなんてさ」
手が痺れたのか。何度も手首を振りつつも残った剣を構えるカトレ。
「俺、ただの人間じゃないんで」
一気に決めるべく、俺は更にリミッターを一段階解放させる。
「さすがはローリメデスの子。桁違いの神力だね……じゃあ、僕も」
目を瞑り、精神統一をした後。
「本気の本気でいくよ」
爆発的に溢れ出る桁違いの魔力。これは、クルルベルに匹敵する。いや、もしかしたらクルルベル以上かもしれない。さすがは、魔王とは違った実力者。
「一撃で決めるぜ」
神力を刃に纏わせ、二本の剣を重ねる。
すると、一本の光の刃となった。
「決められるものなら」
受けて立とうとばかりにカトレも剣同士と魔力を重ね合わせ光の剣を生み出す。
「決めてみなよ! 僕が、逆に命を奪ってあげるから!!」
「やってみろよ!!!」
一斉に駆け出す俺達。一斉に振り上げる光の剣。
そして、一斉に振り下ろした。
ぶつかり合う二色の光は、反発するかのように弾ける。その衝撃は、草木を激しく揺らし、近くを通り掛った小鳥達をも吹き飛ばす。
「僕の体は、簡単には手に入らないよ!!」
「勘違いするな! お前は、マスコット的な存在として傍においておくんだよ!!」
「それは、それで身の危険を感じるよ!! はああっ!!!」
「負ける、かぁっ!!!」
更に力を練り上げると、ついには俺達の体を包み込みほどの膨大な光が放出された。その光の中で、俺達はまだまだ戦い続けた。
だが、それは永遠に続くわけではない。
どちらかが勝つか負けるまで。
そして……決着はついた。
勝者は。




