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神の小屋で

「それで。その子は何なんだ? 皆、わかったように笑ってるし」

「だから、言っただろ? 俺のママのところに行くって」

「はあ? ……お、おい。まさか」


 周りには、俺の母親らしき女性の姿はない。そして何よりもこの家は他に部屋などはないのはわかる。普通ならば、他の部屋に居ると思うだろうが、それもないだろう。

 そんなわけで、バッカスも馬鹿とはいえ、気づいたようだ。

 

「そうだ。今俺の膝の上にいるこの小さくて愛くるしいのが、俺のママだ」

「愛くるしいママ、ローリメデスでーす!! キリバの母親と創造神なんかをやってるまーす!!」

「は、はあ!? 創造神? ローリメデスって言ったら、あの俺を」

「そうだよ、バッカス。君を召喚したのは、私!」


 いえーい! と驚くバッカスにピースサインをする我が母。案の定驚いたけど、思った以上の面白い顔と反応だな。

 くっくっく。この顔が見たかったんだよ。おっと、笑うのは心の中だけにするか。今は、緊急事態だからな。そろそろ本題に入らないと。


「まあ、紹介も済んだことだし。さっそく」

「ま、待てよ!!」

「なんだよ? 今は緊急事態なんだぞ?」

「お前! その子が、お前の母親で、更に創造神ローリメデスなんて簡単に信じられるかっての! てか、もしその子がローリメデスだったとしたら、その子供ってことは」

「そうだよ、神の子だよ」

「私達も最初は、びっくりしましたけど、キリバさんの力はこの目で見てしまいましたから」


 まだ信じられないバッカスの変わりに、エルカとリーミアが答える。信頼している仲間達の偽りのない言葉に、さすがのバッカスも徐々に受け入れていく。


「だ、だけどさ。なんで」

「気づかなかったのも無理はねぇよ。俺は、この世界を監視する係りとして生み出された。普段は、神としての力は隠してる誰も気づかないんだよ」

「ちなみに、あたしも神の子だったり」

「なにぃ!? か、カルミナもか!? ……って、まさかお前が俺のお供に選ばれたのって」

「お? さすがに気づいたね。そうだよ、私が命令を下したの。キリバが一番の適任だったからねぇ。それなのに、勝手にキリバを追放しちゃってさぁ。本来だったら、元の世界に帰しちゃってるところなんだよぉ?」

「うっ!?」


 本気で睨まれたことで、バッカスも気圧されてる。これで、俺のママが神だってことは完全に信じてくれただろう。さて、やっと本題に入れる。ここまで長かったな、思った以上に。


「そんじゃ、話すぞ。バッカス。まずお前は狙われてる」

「狙われてる? まさか、俺を騙して閉じ込めた奴か!?」

「いや、それはわからない。けど、闇の力が関わっているのはわかる。俺を誘い込むために生み出したであろう歪みの中にお前を閉じ込めたクリスタルと同じものがあったからな」

「あのクリスタルか……それで? 相手は来るのか?」

「まだわからない。だが、絶対来るだろうな。あんなことまでしたんだからな」


 わざわざあんなことをしてまで、俺を誘き寄せたんだ。何もしてことないのはおかしい。今は、何もしてこないようだが、いずれはバッカスを狙って何か仕掛けてくるはずだ。


「はあ……人気者はつらいぜ」

「はいはい。そうですね」

「なんて自信過剰な奴なんだ」

「し、シルム。そういうこと言っちゃだめだよ」


 まあ、勇者であるから世界に与えている影響は強いのは認めよう。ただ、こいつはこんな時でも自分にこんなにも自信が持てるなんて、ある意味尊敬するぜ、まったく。


「てか、狙われてるんだったら、こんなところでのん気に話してていいのかよ?」

「心配するな。下手な牢獄より、ここはよほど頑丈で安全だ」

「だって、創造神である私が住んでるところだからね!!」

「こんなボロ小屋がか?」

「ボロ小屋とはなんだぁ!! 追い出してやるぞ!!」

「はいはい、落ち着こうかママ。よしよし」

「ふにゅぅ……」



 自宅を馬鹿にされたことにより、バッカスに飛びかかろうとしたところを俺が何とか抑える。頭を撫でてやり、怒りを徐々に沈めていく。

 ママは、まるであやされた子供かのようにふにゃりとなっている。


「び、びっくりしたぁ……」

「あんたも馬鹿ね。相手は、この世界で一番偉い神よ? あまり怒らせるもんじゃないわよ」

「そうだよ。キリバが居なかったら、今頃何をされていたかわからなかったんだよ?」


 まったくだ。ママの機嫌を損ねれば、世界がどうなっていたことか。


「……あ、兄貴!」


 突然、クルルベルが叫び出す。その理由は、俺もわかった。近づいてきている……確実にこっちに。まさかこの中に居るのに察知したっていうのか? だが、相手がそれほどの相手ならこの中に居る存在がどういう相手なのかは理解しているはずだ。

 さて、どうくる?


「……」

「キリバ? まさか、来るの?」

「ああ。だが、この中に居れば安全だ。まずは、様子見をするぞ」


 後もうちょっと……四、三、二、一。


 コンコン。


 ノックしてきた。


「あのぉ、すみません。ここに勇者バッカスが居るとお聞きしたんですけどぉ」


 子供の声だ。聞き覚えがある。これは、あの渦の中から聞こえた主様とか言う奴の声だ。まさか、ノックをしてくるなんてな。

 これは俺も予想外だ。


「はーい」


 そして、普通に出て行くママ。バッカスは、自分を襲いに来たのだと剣を構えるが、俺はそれを制す。ここはまずママに任せるんだと。


「どなた?」


 迷いもなく玄関のドアを開ける。そこに立っていたのは、もう驚くこもない。頭の天辺から、ローブを被っている人物だった。ただ、今まで会って来た二人と違ってめちゃくちゃ慎重が低い。ママと同じぐらいだろうか?


「僕は、勇者バッカスを殺そうとしてる者なんですが」

「あ、そうだったんだな。でも、ごめんねぇ。勇者は、ここで預かってるの」

「どうしてもだめですか?」

「そうだなぁ」


 なんだか普通に話してるな。まるで、近所の人と世間話をしてるようだ。話の内容は物騒だけどな。一通り話したところで、ママはこちらを見詰め、創造の力でよくわからないものを創造した。赤い手がついてる銀色の棒。

 それをこちらへと伸ばし、赤い手でバッカスの頭を掴んだ。


「うおおお!?」

「はい。殺せるものだったら、殺してみてよ」


 と、バッカスを前に突き出すママ。


「ええ!? な、何を考えてるの!?」

「わざわざ殺しに来た奴の前に出すとは」

「さ、さすが創造神。やることが想像つかないですね。って、兄貴! ど、どうするんですか?」

「ふーむ……」


 皆が驚いてる中、俺は様子を伺っている。すると、ローブは懐から黒い刃のナイフを取り出す。


「じゃあ、失礼して」


 容赦なくバッカスの心臓目掛けてナイフを突き出す。


「お、おーい!? ちょちょちょ!?」

「はい、ストップ」

「む?」


 しかしながら、ナイフは届かず何も無いところで静止する。まるで、見えない壁に遮られているかのように。まあ、当たり前ってところだな。

 

「言っただろ? ここに居る限りは、安全だって」

 

 ここは、ママが認めた者じゃないと侵入することもできないし、どんな攻撃だって通さない。ママは、それがわかっていながら相手を挑発していたようだ。

 まあ、それだけじゃないだろうけど。


「この程度で済んでよかったね。これ以上、うちの子を馬鹿にしたり、虐めたらこの程度じゃ済まないかもよ? わかった? 勇者くん」

「は、はい……」


 やっぱり、まだ怒ってたんだ。

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