解決後の
なんとか問題になっていた黒い森の原因は解明、解決した。尚、俺は予想以上の体内マナを放出して、次の日になっても若干の疲労感が残っている。
「あー……肩が凝ってる。というか体全体が、重いなぁ」
「聞いたよ? あの森を復活させるために、体内のマナを使ったんだって? 本当、やることが壮大っていうか、むちゃくちゃっていうか。あたし達も、キリバが普通の人じゃないってことは知ってるけどさ」
「いやぁ、さすがの俺もこの通りだ」
「他の皆さんも驚いてましたよ? 本当に森が半日で元通りになったって」
あの後、森は元通りになったのだが、ギルド側は、そんなことがありえるのか? と半信半疑のまま調査隊を向かわせた。その結果、本当に一面黒かった森が元の緑豊かな森へと戻っていたことに驚いたそうだ。このことは、王都中はもちろんのこと、他のところにも伝わっていることだろう。
「これで、キリバはますます注目されちゃうね。子分ができて、今まで以上に張り切っちゃったのにゃ?」
疲れてる俺の頬をにやにやと笑いながら突いてくるエルカに、反論しようにもそういう元気が今の俺にはない。現在は、休憩も兼ねて、エルカ、リーミアの二人で喫茶店に訪れている。
クルルベルは、一度魔王城へと戻り、シルム達と色々作業しているそうだ。子分とはいえ、いつもいつも俺の傍にべったりというわけにもいかないからな。俺は、縛り付けるのは嫌いだ。それに、クルルベルも大分こっちの生活に慣れてきているみたいだからな。
「そうだよ。子分に加えて、後輩ちゃんからも応援されちゃってな」
「後輩……あぁ、カルミナさんのことですね」
「まさか、カルミナもキリバと同じ存在だったなんてね。もう、あたし達の周りはそんな奴ばっかかぁ! てギルドで叫んじゃったよ」
たはー、とそのことを思い出し、エルカはため息を漏らす。そんなエルカに、リーミアは自分が注文したケーキを切り分け食べさせた。
「私的には、エルカちゃんも大概だと思うんですが」
「あたしなんて、二人に比べれば大したことないよー」
エルカは、ただの人間じゃない。狐人族と呼ばれる亜人のひとつなんだ。大きな獣耳に、太い尻尾が特徴的だが、普段はそれを隠して過ごしている。
狐人族は、魔族と同じく魔法に長けた種族だ。ただ、魔族と違って独自の術を編み出しそれを一族だけで伝え合っているという。なので、その術の秘密を知るために狐人族を探す者達は多い。逆に狐人族は、術の秘密を知られないために己を偽って過ごしているとか。
「あたしは、一族の中でも最弱だからねぇ」
「あの実力で最弱って……」
エルカの言っていることは本当なのか、嘘なのか。彼女の実力は、俺達が十分理解している。実際、冒険者カードの登録も、種族を偽ることができるほどの術の高さを誇っている。冒険者カードは、体内のマナやその者の姿をスキャンし、そのままカードに自動的に刻まれる。なので、エルカの場合は体内マナすらも偽っているということだ。
「それよりリーミアー、ケーキー」
「はい、わかりました」
今日は、俺と同じでエルカはだらだらしている。いつも一緒に居る世話焼きのリーミアは、自分で食べようとしない彼女にケーキをまた口へと運ぶ。
「こうして、三人でのんびりしてると昔を思い出すな」
「そうですね。当時のキリバさんは、今ほど有名……でもなかったですね」
「だねだねー。キリバってば、駆け出しの頃から有名だったよね」
「そういうお前達だって、有名だっただろ? 女の子二人だけってのもあるけど、どちらも前衛職じゃなかったんだから」
当時の二人は、ルーキーウィザード、ルーキーヒーラーという後衛職だけのパーティーなうえに、どちらも美少女だった。寄ってくる男達は多かったのを今でも覚えている。それゆえに、あの馬鹿勇者からもパーティー参加を誘われたんだがな。
「懐かしいねぇ。あの時、キリバが来てくれなかったらどうなってたか」
「本当ですね……あのままだと、エルカちゃんが」
そう、あの時まだ俺と二人がこうして一緒に喫茶店に来るぐらいの仲じゃなかった頃。案の定、二人は色んなパーティーに絡まれていた。
そして、かなり強引なパーティーに絡まれ、二人はピンチに。そこへ、たまたま通りかかった俺が二人を助けたってことだ。まあ、俺が助けなくても。
「そうだな。あのままだとエルカが魔法をぶっ放して相手側が大変なことになっていたかもしれないからな」
「発射直前だったんだよ、あの時。後、数秒遅かったら、発射してたねぇ。出来立ての《エクスプロージョン波》を」
あの頃からエクスプロージョン波を完成させていたのはすごいことだ。《エクスプロージョン》は上級魔法なので、ルーキーで覚えているのはほとんどいないだろう。
本来ならば、いきなり上級ランクになっていてもおかしくはなかっただろうが、実力をも偽っていたためルーキーからの始まりだった。どうして、隠していたのかは狐人族だとばれないためだそうだ。上級魔法は、どれだけ魔法の才に長けていても覚えるのは苦労するものだ。
特にエクスプロージョンは、広範囲に加え破壊力もどの魔法よりも桁違いに高い。なので、それを覚えているだけで、普通に尊敬されるが、狐人族なんじゃないかと疑われる。当時のエルカは、今のように元気一杯な性格じゃなかったんだ。なんていうか、警戒心の高い獣っていうか。
そんなエルカが唯一信用していたのが、リーミアという心優しきヒーラー。正直、エルカに比べれば特質した才能はなかったのだが、世話好きで、一度決めたら簡単には曲げないその意志の強さが、エルカの信用を勝ち取ったのだろうと俺は勝手に解釈している。
「あっ、そうだ。ねえ、キリバ。あのゼルドが言ってた主様とは会ったんだよね?」
「会ったというか、声を聞いただけだな。けど、実力はかなりのものだろうな、ありゃあ。空間転移の術を使っていたからな」
空間転移の術は、上級魔法の更に上にあると言われる最上級魔法。または、古代魔法とも呼ばれる類のものだ。それを扱えるウィザードは、今のところ一人しかこの世界では確認されていない。ただ、その一人がゼルド達が言っていた主様なのかと言えば、可能性は低いだろう。
なにせ、空間転移を唯一使えるのは、もう何百年も生きていると言われている霊山に住んでいる仙人なのだから。俺も実際に会ったことは無いが、噂通りならばかなりのじいさんなんだろうな。
「空間転移を使えるってことは、かなり厄介ですね。突然現れて、不意打ちをするってこともできますから」
「だけど、この王都は大丈夫だ。なにせ、俺のママが居るからな」
「そうだったね。結界的なものを王都を囲むように張ってるんだっけ?」
「そうだ。いくら空間転移で来ようとも、簡単に弾かれるだろうさ」
とはいえ、結界を張られているのはこの王都だけだ。他のところは違うため、不意打ちの可能性は十分にある。
「っと、ママで思い出した。そろそろケーキを持っていかないと、また頭突きをされてしまうな」
「じゃあ、あたし達も行くよ」
「お邪魔してもいいですか?」
「もちろんだ。きっと、ママも喜ぶはずだ」
ママからケーキを買って帰って来てと言われたことを思い出し、俺は二人と共にケーキを選んで、自宅へと急ぐのであった。




