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プロローグ

「キリバ、お前をパーティーから追放する」

「はっ?」


 それは突然だった。俺の名は、キリバ・オーギル。魔王を倒さんとする勇者のパーティーのソードマスターとして加わっている。

 他にも、ウィザード、ヒーラーの二人を加えた四人パーティーだ。ウィザードの名前は、エルカ。ヒーラーの名前は、リーミア。二人とも、美少女という言葉が相応しい容姿だ。俺達は、勇者であるバッカスにより選ばれた冒険者達。


 元々、俺達は凄腕の冒険者として活躍していたんだが、突然魔界から魔王が現れたのだ。まだ、動きはないのだが、人々はいつ魔王が侵攻してくるかと怯えていた。そこで、すぐに勇者たる素質のある者を異世界から召喚したのだ。

 それがバッカスなのだが……問題がある。こいつは、すごい女好きってことだ。実力はあるのだが、女好きなのが問題だ。

 バッカスが入れと言った時、部屋に入ってきたのは剣を腰にぶら下げた美少女だった。

 いかにも女だからって舐めないでよ! みたいな強気な性格をしていそうな見た目とツインテールだ。


「誰?」

「やっと、お前の代わりになるソードマスターが見つかったんだ」


 わかっていた、わかっていたさ。こうなることはわかっていたんだよ……。


「ば、バッカスさん? 代わりって」


 と、少し気弱な性格をしているヒーラーのリーミアが首を傾げる。うん、お前の思うことはわかる、マジでわかるぞ。


「言葉どおりだよ、リーミア。この子、ソードマスターのカルミナがキリバの代わりに俺のパーティーに加わるんだ」

「え? そんなこと初めて聞いたんだけど」


 更に、ウィザードであるエルカがとんがり帽子を頭から取り、ぽかんっとした表情を作る。


「今言ったからな」

「この野郎」

「というわけで、キリバ。今までありがとうな」

「ありがとうじゃねぇよ、なんだよいきなり」

「だって、お前男だし」


 はいこれだー。まったく……確かに、美少女だけのハーレムパーティーっていうのは、男の憧れだけど。ここまで、露骨に切り捨てられるとさすがの俺も傷つくぞ。


「ねえ? この人、本当にあたしより弱いの? 見た感じ、あたしより強そうに見えるんだけど。それにキリバって確か」

「ああ、確かこいつは冒険者としては有名だったみたいだが、俺には関係ない。パーティーは俺が決めることになってるんだ」


 そういえば、いつの間にかこいつが決めることになっていた。だが、それは増員の決定権で、入れ替えは違うような……。


「大体、こいつみたいな冴えない奴が、俺の栄光たる勇者の歴史に刻まれるなんて真っ平だ! はっはっはっはっは!!!」

「……」


 ここまで馬鹿だとは思わなかった。


「そもそもこいつの使っている剣術は、どうも俺の趣味に合わないっていうかさー」

「この野郎、言いたい放題いいやがって……」

「ば、バッカスさん。ちょっと言いすぎじゃ」

「なに言ってんだ? いちいち変な鎧を纏うとか、臆病者って感じがしてさ」


 鎧を纏うのが、臆病者だって? 確かに、こいつは当たらなければいいってことで、鎧なんてものを装備していないけど。

 つーか、俺の……あいつの鎧を馬鹿にしやがったな、こいつ。


「おっと、そこまでだ! それ以上は、いかに俺でもぶちキレるぞ!!」

「キレろ、キレろ! なんだったら、そのままの勢いで魔王でも倒してこいよ! まあ、一人じゃ無理だろうけどな!」


 お前だって、いかに勇者だろうと一人じゃ何にもできないくせに……。戦いはともかく、それ以外は全部俺任せなくせに。

 一人で魔王を倒して来い? 一人じゃ無理だろうけどな? ……上等じゃねぇか。


「あー……わかったよ!! 追放上等!! お前みたいな馬鹿と組むなんてこっちから願い下げだ!! それに、魔王だって俺が倒してきてやるよ!! 待ってろや!! 馬鹿勇者!!」

「はいはい、いってらー」

「ちょ、ちょっと! キリバくん!?」

「き、キリバさん、待ってください! いくらなんでも無茶ですよ!!」


 無茶? はっはっは、大丈夫だよ二人とも。ぶっちゃけ、俺はそこの馬鹿勇者よりも……強いからな。







「おらあああああ!! 雑魚は、退けぇ!! 死ぬぞおおおっ!!!」

「ひいい!? な、なんだこの鎧はぁ!?」

「つ、強すぎる!? こいつ、人間なのか!?」


 魔王城のある場所はすでに特定できていた。そもそも、魔王は隠れるようなことをしていないというか。まるで、見つかってもいいみたいな感じだったしな。

 それが、逆に人々を不安にさせてしまっているんだ。隠れないということは、それだけの実力があるということだからな。

 監視は、常にやっていたから、いつ動いても情報がすぐ勇者や世界中に広まる。


「言っておくが、俺は今ひじょーに!! 腹が立ってる!! 激おこなんだよおおお!!!」

「ぎゃあああ!?」

「ふあああああっ!?」


 魔王城に勢いよく飛び込んだ俺は、剣の風圧だけで魔族達を薙ぎ払っていく。用があるのは、魔王だけだ。雑魚にいちいち構っている暇はない。


「待て! 侵入者よ!! 我は魔王様の側近にして」

「雑魚は退けって言ってんだよ!!」

「なにぃ!?」


 なにやら、魔王の側近とやらが目の前に現れたが、俺はそこいらに居る敵と同じように吹き飛ばす。


「ま、待て!! 貴様……!!」


 待たない。待っていられない。さっさと魔王を倒して、あの馬鹿の馬鹿面を拝みたいからな。いやぁ、楽しみだ。

 馬鹿にした男が、魔王を倒した事実を知った時の顔を。勇者として、召喚されたくせに結局何もせずに、ただ遊んでいただけの遊び人だと世間から思われるあいつの顔が目に浮かぶ!


「ここかあぁっ!!」


 強大な魔力を察知し、明らかに巨大な扉を剣があるというのに、俺は蹴り破る。


「ひっ!?」


 侵入したところには、人影が一つ。玉座の近くで、なにやらお着替え中だったようだ。全身を黒い鎧で覆っているが、肝心の頭だけは覆っていない。

 これじゃ、正体がばればれだ。

 腰まで長い黒い髪の毛、赤と黄金の双眼。若干幼さが残るが、魔族なので子供ということではないだろう。顔を隠す前に、俺が入ってきたことで、びっくりしたのか兜を持ったまま硬直していた。


「あ、あの」

「お前が魔王だな?」

「え、えっと」

「魔王だな?」

「その」

「魔王! だな?」

「は、はいいい!! ま、魔王です!!」


 と、涙目で元気のいい返事をした。なんだか、若干可哀想にな感じだが、相手は魔族の総大将たる魔王だ。


「名前は!!」

「クルルベル・フィア・アガレスタです!!」

「そうか! じゃあ、魔王クルルベル!!」

「はい!!」

「俺は、ソードマスターキリバ!! 悪いが、お前を殺させてもらう!!」

「ひええええ!? お、お助けください!」


 ……なんだこの魔王。なんて、ひ弱な性格をしているんだ。これが、魔族の王? 

 なんか、うん、なんかなぁ。

 ぷるぷる震えるその小動物のような姿に、徐々に戦意を消失していく。やはり、俺には無理だ。明らかにこいつは無害。そして、可愛い。俺に、命を奪うことなんてできない。


「……お前、魔王だよな?」

「は、はい。確かに、魔王ではあるのですが……別に世界征服を企んでいるとか、そういう邪悪な考えはないと言いますか」

「どういうことだ?」


 剣を下げ、纏っていたフルプレートの鎧を解除した。


「私は、争いごとが嫌いで、静かに暮らしたいって思ってて」

「ふむ」

「他の魔王さん達は、世界征服は魔王としての嗜みだって言うんですけど、私は違いまして」

「ほうほう?」


 淡々と説明するクルルベルの目の前まで近づき、その場にどかっと座り込む。


「だから、ずっと魔界でのんびりしていたんですけど……その」

「なんだ? 言ってみろ」

「に、遭いまして」

「なんだって?」


 小さい声だった故、最初になんて言っていたのかわからなかったので、聞き直すと。


「イジメ遭ってしまったんです! 他の魔王さんから!! いきなり! いきなり私のお城をこの世界に転移させたんです!!」

「……」


 イジメって……魔族の世界も人間の世界みたいに大変なんだなぁ。しかも、王がイジメられるって。それに、魔王って複数も居るのか、いやこっちの世界でも王様は複数居るけど。


「魔王だからって、世界を侵攻するっておかしくないですか!? 戦いが嫌いで、平和を望む魔王だって居てもいいと思うんです!! ど、どう思いますか!?」

「あー、いいんじゃね?」

「ですよね!? ね!? あっ、私お菓子作りが得意で、毎日というわけじゃないんですけど。結構な頻度でキッチンで作ってるんですよぉ」

「ほう、それは食べてみたいもんだな」

「あっ! ここにまだあるんですよ。どうですか? お一つ」


 徐々に笑顔を取り戻していき、何もない空間から皿に乗った焼き菓子を取り出す。へぇ、収納魔法か。やっぱり魔族も使えるんだな。まあ当然のことか。魔法は、魔族がもっとも得意とするものだから。


「あんがと」


 焼きたてではないが、いい色合いだ。まるで金色に輝いているかのようなそんなクッキーを一つ摘んで、齧る。さくっと心地いい音を鳴らし、口の中の水分を吸い取っていく。しっかりと噛み砕き、胃袋へと届ける。一口サイズだったため、すぐになくなった。


「……」

「なんだ?」

「いえ、魔族の施しをこうも簡単に受けるとは思わなかったので」

「あっ、そういえばお前魔王だったな」

「ひどい!? でも、嬉しいです!!」


 どっちなんだよ。でも、嬉しい顔も可愛いからいいけど。


「実は、魔王って言われるのそこまで好きじゃないんですよ……だって、ただ力が強いからってだけで、魔王に奉られて……」

「ふむ」


 この分だと、この魔王は簡単に倒せる。倒せるけど、この剣でぶった切るっていうのはなんか可哀想だ。しかし、大見得切って、魔王を倒さずに戻れば、確実にあの馬鹿勇者に二倍、いや三倍は馬鹿にされる。

 それに加えて、世界からもソードマスターキリバは魔王城へと単身突っ込んだくせに逃げ帰ってきたとか言われるだろうな。……別に世間からそう思われるのはいいけど、あの馬鹿勇者からは嫌だな。


「あ、あの剣なんて持って何をしているんですか? や、やっぱり私をこ、殺すんですか!?」


 あー、やばい。せっかく戻ってきたのに、また怖がらせてしまった。


「……あっ、そうだ。なあ、魔王」

「は、はい?」


 別に倒さなくてもいいんだ。ただ殺すだけが、勝利への道じゃない。魔王クルルベルに、俺はとある提案を申し出た。クルルベルは、自分が助かるのならと簡単に了承してくれたので。


「き、キリバ様!? ご、ご無事で何よりです!」

「ああ、心配させたな」


 魔王城の外で待っていた監視係達のところへとクルルベルを連れて戻ってきた。あのごつい鎧は脱ぎ捨て、可愛らしい黒の洋服を身に纏っている。

 監視係達は、やはりというか当然のように、俺の背後に隠れているクルルベルを見詰めていた。


「キリバ様、そちらの少女は?」

「ああ、魔王クルルベルだ」

「な、なんと!?」

「この気弱で幸が薄そうな少女が!?」

「さ、幸薄いは余計です!!」


 監視係達にも、こんなことを言われる魔王って……ともかくだ。


「伝令だ!!」

「伝令? いや、それよりもなぜキリバ様が魔王を」

「そのことについての伝令だ。伝えるんだ……魔王は」


 魔王は? と俺の目の前に居る者達は一斉に首を傾げる。


「俺の子分になったと!!!」

《な、なんだってー!?》

「こ、子分のクルルベルです!! よろしくお願いします!!」

《あ、はい。よろしくお願いします》


 こうして、ソードマスターである俺は、単身魔王城へと突撃し、魔王を子分にしたという噂は、世界中に広まり、新たな歴史が動き出したのだ!

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