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4・その男は悪劣な笑みを浮かべていた。

 【渡り鳥ギルド】。別名【狩人の家】、狩人と旅人の共同ギルド、傭兵ギルドなんて呼ばれてもいる。国が正式に認めている公式ギルドであり、その役割は様々だ。

 何でも屋なんて揶揄される事もあるが、高い通信技術から国家間の潤滑剤になる事も多い。


 魔物が闊歩する世界を歩く上で、このギルドに所属しないのはよっぽどの悪人、或いは馬鹿だ。魔物の素材の買取口もあり、少ない規則に従えばいくつもの特典を得られる。

 所属者は緊急時ギルドの求めに応じ、魔物の危機の時は戦わなくてはならないという義務、大きな問題や犯罪を起こさない等、ごく普通の事項が続く。

 重要なのはこの銀板には緊急連絡魔術が書き込まれており、非常時はここに連絡が入り、その上、身分詐称が出来ないよう、最初に文字を浮かび上がらせた時に【魔力紋】と呼ばれる魔力の特徴が登録されるという事だ。


「普段はそのギルド証にはあなたの能力が表示されます。表示内容は各自で意識すれば隠せますので、能力や身分の証明に困った時に見せるといいでしょう。」

「偽装は出来ないけど、隠す事は出来るのかい?」

「勿論、情報は重要ですから」


 カリーナはイルの手元を思わず注視してしまった。なにせここまでイラつかせてくれた男なのだ、さぞやすごい能力をもっているんだろうと皮肉気に見据えた。

 男はギルドランク最低のFと書かれたカードに、手慣れた様子で魔力を流した。そこに書かれた文字を見て、男は暗く鬱蒼と嗤い、大事そうに懐にしまった。

 カリーナには理解できなかった。【30】と、カリーナには読めない1文字が書かれたカードの何処に嗤う要素があったのだと。


「ありがとう、カリーナさん」

「え?」


 男は手を振って去っていった。彼に自分は名乗っただろうか?いや、この街で容姿端麗な事で有名な自分の噂を何処かで聞いていたのだろう。それよりも、彼はあんな美しい薄紫色の瞳をしていただろうか?

 カリーナは首を傾げたが、やがて小さな疑問だったと、その男に関する情報を他の記憶に埋没させていった。






 ギルドに登録したばかりの男は今度は今夜の宿と金策を探す為に街をぶらついていた。


 彼は自身の名前の半分である【イルリュジオン】としか、そこには映っていないが、それでもカードは彼にとって面白い物だったらしい。ウチテル、いや、イルはカードの【30位】と書かれた文字を見つめてもう一度嗤った。


「(あっちでは500位にも入れないのに、こっちでは世界で30番目に強い事になるのか。世界最強になるのが楽そうだ。)」


 このイルの皮肉気な笑みの意味が伝わる相手が居ないからか、彼はさっきのギルドの受付嬢の事を思い起こしていた。


「(彼女は茶髪と茶色い眼に反応しなかった。これが無難って事かな、大分イケメンって”言われ”たし。)」


 イルは無感動にカリーナを思い起こした。彼女の情報はあまり必要なかったが一応、雑学が得られたと思えば大分楽が出来たのだろう。

 そんなことよりもこの世界の神について、二柱も情報を得られた方がでかい。彼らに知られない様に行動を控えなくては。彼らは過干渉を嫌う。

 一瞬とはいえビビってしまった。別世界では拷問、恐喝、殺人、盗み、まではした事がある為だ。

 流石にこちらの世界に来てから無罪だった為に二柱の神も本当の犯罪歴まではわからなかったらしい。勿論登録さえしてしまえば犯罪行為は可能だろうが、これらはそこまで必要な行為ではない。


 そこまで一気に思考して、イルは仕事内容を思い出す。


【鬼の子の回収。死体の場合、全て回収し、目撃者も対処する事。】


 文化圏毎に持ち込んでいい物が法で決められている為、必要最低限のテントや調理器具等、大事な持ち物を纏め、異世界に行く為のゲートから一歩踏み出した先はこの街のすぐ外だった。草原で無かった分マシだったが、この街に入る際も大変だった。


『身分証を、無ければ銀貨3枚だ』

『え』


 街の扉、重厚な門の前には門番が居り、入る時に検閲が入ったのだ。持ち物は”特殊な方法”で運んでいた為、問題無かったが、この世界の金が無かった。

 その為、魔術を使う時の擬装用に普通の指輪をつけていたのだが、それを門の外の商人に即効で買い取ってもらった。

 指輪自体に代わった所は無い。使われている物、技術もこの文化圏では一般的な物だ。その為、銀貨15枚にしかならなかったのだ。恐らく買い叩かれたのだとわかっている。指輪を取り戻すことを早々に諦めた。

 ギルドに入ったのは身分証と、金策の為。一応、門番も鬼ではなく、通行証明書と呼ばれる物(木片)をくれ、それとギルド証を持ってくれば銀貨2枚は返してくれるとのこと。

 もちろん、回収済みだ。つまり、現在の所持金が銀貨9枚、じゃなく11枚だ。


 イルはさっきの受付嬢に見せた様な【下心ありありで意味深な笑み】を控え、真顔になる。

 受付嬢カリーナの内心の揺れを見て存分に【下心】とやらを満足させたイルはもう一度、嗤ってから街並みに溶け込んでいった。


 イルにとって彼女は一欠けらも魅力的に映らなかったことに、カリーナは気付けなかった。

【渡り鳥ギルド】別名【狩人の家】と呼ばれる協同組合。

【魔力紋】魔力と呼ばれるエネルギー、その個人差のある特徴の事。


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