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追憶のリアム  作者: うさみかずと
連邦からの亡命者
7/25

日の出とともに

 夜。


 リアムは眠れなかった。軍の所有する寮に住んでいるために、いつでも出動できるようになっていた。本来二人で使うはずの部屋は一人では持て余すほど広い。必要なものしかない殺風景な部屋の窓ガラスから寝巻き姿のリアムが映っていた。


「・・・・・・」


 老人から預かったペンダントを睨みつけて考え事をしていた。


 窓ガラスはひび割れてサイドミラーは破損しぼろぼろになった車だったが走れないことはなく幸いした。


 アイザックの運転で基地に戻りシンシアに報告を入れた。


「あの老人が今回の騒動に関わっているのは確かです。明日にでもあの辺いったいを調査させてください」


 いつもならすぐに許可をくれるシンシアだが顔を曇らせていた。


「リアムさんの話が確かならそれはできません。あの先はアマルド氏の私有地でこちらの権限で調査できないのです」


「アマルド?それってあのアルフレッド・アマルドのことか!鉄鋼業から新技術の開発。たくさんの事業に手を出している大富豪のアマルド社長」


 アイザックがぽんと手を叩きながら言った。


「そうです。調査をしようにも困りましたね」


 リアムは雲の流れを確認するために外を眺めた。


「中佐。セントラルのジェシ・バレンタイン大佐に連絡してください」


 驚いたアイザックはリアムを振り返る。リアムの目はまっすぐにシンシアを見ていて、シンシアの頬がみるみる赤くなっていく。


「おいおいセントラルの本社に直談判か。無理だぞ追い返されるに決まっている」


「リアムさん。お、お気持ちは分かりますが、もしアマルド氏が事件の首謀者だったら・・・・・・」


 シンシアやアイザックが言うことは最もだ。アルフレッド・アマルドは別名死の商人と言われていて、あの戦争でずいぶん儲り甘い蜜を吸い尽くした奴だ。


 闇の噂では戦争派遣会社を設立して紛争や小国の戦争に経験の豊富な人材を送り込んでいるらしい。


「大丈夫です。それに・・・・・・」


 ポケットに入れたペンダントを服の上から握り締める。リアムにはどうしても確認したいことがあった。


「分かりました。リアムさんとアイザックさんは明日セントラルに飛んでください」


「中佐。俺も行かなきゃだめっすか?」


「行って下さい。リアムさんと連携できるのはあなたしかいません」


 さんざん文句をたれた後シンシアの真剣な命令に断りきれずにしぶしぶ承諾した。


「お前は師匠に会いたくないだけだろう」


 リアムの言ったことはおそらく図星だ。アイザックは体をくねくねさせながらそっぽを向いている。


「あの人は俺をいじめるんだもん」


— — — — — — — — — — — — — — — — —



「ある組織、か・・・・・・」


 リアムはつぶやいた。蒸し暑さが残る熱帯夜のような夜に寝付けずにいた。


「なんだ?」


 窓枠ががたがたと揺れた気がした。リアムはベッドから起き上がり、明かりをつける。


 窓を勢いよく開けた。


「ひゃ!」


 窓の外にいたのは顔を真っ赤にしたシンシアだった。生暖かい風に黒髪が揺れてシャンプーのいい香り

を振りまいていた。


「ちょ、中佐どうされた?」


「ち、違いますよ。決してその夜這いとかではなくですね。あの・・・・・・」


「夜這い?」


 リアムがそう言うと自分の口からでた言葉にはっとして思わず手を離した。


 反射的に腕をつかんだリアムはシンシアの体を部屋に引っ張った。


「ここ、三階ですよ。なにかあったんですか?」


「一瞬走馬灯が見えました・・・・・・」


「答えになってませんよ」


「・・・・・・。ここでお話してもいいですか?」


「中佐分かってますか。夕食後の男女の交友は原則禁止されています。ばれたら始末書行きになりますよ」


「大丈夫です。それを取り締まるのは私ですから」


「職権乱用ですね・・・・・・まあいいでしょう。しかしこんな時間に男子寮から女性の声が聞こえるのはよろしくないので屋上にいきましょう」


 寮の屋上からは星空がよく見えた。あんまり見とれているとシーツを干すための物干し台に足をぶつけてしまう。


 リアムとシンシアは自分たちと同じくらいの手すりの前にいた。



「ヴィンズ大佐はポロイ基地の保護下に置くことになりました」


「どういうことですか?今度は中央政府とやりあうと言うことでしょうか」


「・・・・・・。決定事項ですこのことは私と一部の将校しか知りません」


 しばらくして、リアムは微笑んだ。


「すいません。意地悪な質問でした。軍人は上の命令には逆らえない中佐も私も・・・・・・」


「ごめんなさい」


「大丈夫です。明日は早いですからもう寝ましょう」




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