モリア伍長とアイザック
走っても、走っても老人の家は現れずガソリンのメーターをリアムが気にしだしたちょうどそのころモリア伍長が帰還した。敵の攻撃隊が潜んでいるかどうかくまなく探索して安全を確保しての帰還だった。
「ご苦労。モリア伍長」
「ロビンソン教官、お疲れ様です」
「おいおい教官はよしてくれ。いまはただの物書き件中佐の使いぱっしりだよ」
「教官……」
モリアは被っていた飛行帽をはずしアイザックに見せた。
「これは士官学校を卒業してはじめての出陣に教官から頂いたものです」
そうだっけなととぼけた態度のアイザックを無視してモリアは続けた。
「いまのあなたは過去にとらわれて未来を見ようとしていない、あの戦場で大切なものを失ったのはあな
ただけではないのです。失礼します」
教え子の背中を見送るアイザックは内ポケットからキセルを取り出して火をつけた。
「はあ~教え子に見透かされるとは老いたな俺も」
リアムなんでお前はいつでも前を向けるんだ。大切なものが目の前で壊されていくのはもう嫌なんだ。もう背負いたくないんだ俺は。
舗装された道をはずれ、誰も知らないような細い道を行く。やがて、赤く塗装された小さな木造の家が
見えてきた。小さなエンジンがついた二輪車の横にサイドカーを止めた。
「いやはや、助かりましたとてもていねいな運転。さすがですな」
老人がそう言うとなぜかシンシアが嬉しそうにしていた。側車から降りると家の中から女性が出てきた。四十代くらいの家政婦さんのようだ。緑のスカートに白のエプロン姿。
「おじいさん、どこをほっつき歩いてたんですか」
リアムがびくつくほどの大声を出した。
「何も言わずにはいかいしないで下さいなこっちにも都合があるんですよ」
「いやはやなんとも」
老人が、申し訳なさそうに言った。
「そうそう、こちらは親切な軍人さんだ。紹介しますこの人は家のお手伝いさん」
「まったく。私は買い物にいきますから軍人さんにお茶をお出しするなら粗相がないようにお願いします
よ」
お手伝いさんが二輪車にまたがりさっそうと走り去る。
手を振った老人がふたりをお茶に誘った。