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追憶のリアム  作者: うさみかずと
連邦からの亡命者
3/25

お墓参り

 ポロイの駐屯基地はこの最大の軍事施設である。故に敷地内にありとあらゆる商業施設が設けられている。


 特に最上階にある部屋から窓の外を眺めると豊かな自然が一望できる。あそこの見えるのはここから十キロほど離れたところのある田舎町ローズタウンである。


 多くの生徒の下宿先であり職人の集まるこの町は義理と人情と伝統あふれるところだ。


「凄く綺麗ですね」


 ヴィンズは景色を眺めながら言って、リアムに振り向いた。


「ここの土地は連邦の侵攻を受けなかったからですよ。でも地上戦になった地域もある」


 そう言うとヴィンズはコーヒーを一口のみ首を振った。


「それはお互い様です。私の故郷も多くの民が命を落とした、あなたたち雷撃隊の攻撃でね」


 二人が座る席の後ろには下仕官クラスの軍人がその様子を監視していた。


 ヴィンスは警戒する軍人を見渡しながら皮肉交じりにこたえる。


「大変ですねどこの軍人も。私は丸腰なのにあんなに気を張って」


「あなたの今後は帝国の判断に委ねます」


「同盟国も大変ですね。自分の国のことなのに自分で判断できないまるで飼い主に従順な犬のようだ」


「犬は賢い動物です。自国を裏切るようなことは決してしない」


 リアムは言った穏やかな口調だが確実に相手の痛いところをついていた。


 上層部からの一報が入った。


「大佐、たった今あなたの身柄は我が軍が預かることになった。しばらくは窮屈な思いをするが丁重に扱うことは約束する。またゆっくりはなしをしよう」


 手錠をかけられ連行されるヴィンズはリアムに言った。


「先の海戦で追撃の悪魔と恐れられたあなたと話せて楽しかったよ。またお話しましょう。リングトン中

尉」


 冷め切ったコーヒーを一気に飲み干すとリアムはデスクに戻った。イレギュラーな事態があったものの

午後からの仕事がたんまり残っている。


「おつかれさん。どうだった連邦の英雄は」


 リアムのデスクに座っているアイザックはのん気に娯楽雑誌を読みふけりながら言った。


「堂々としてた。あいつひとりに帝国軍はしてやられた訳が分かったよ」



 ふんぞり返ったアイザックを蹴っ飛ばし席に着くとメモがあることに気がついた。


「シンシアちゃんがさっきまでいたんだ。お前をさがしていたぞ」


「中佐が?」


「図書館で待ってるってよ」


 別館にある図書館は生徒や一般人が利用する資料館のようなものだった。大衆文芸から東西の歴史書ま

で幅広いジャンルの書物が管理されている。本を手に取ることも読むこともないリアムのとって無縁な場

所だ。


「リアムさんお待ちしてました」


「敬語は辞めてくれませんか中佐、私はあなたの部下なのですから」


 

 リアムが中佐と呼ぶシンシア・ルル・スティングはまだ幼さのこる少女のようだった。実際にリアムより若く、細身の体に、整った顔立ち大きな碧い瞳は澄んでいた、まっすぐに伸びた髪の色は煌びやかな赤色だ。


「わかりました、中尉大事な話があります。ここではできないので外にでましょう」


「御意、ドライブに付き合えということですね」


リアムが運転する軍用のサイドカーは舗装がされていない固い土の上をがたがた音をあげながら走っていた。


 シンシアは、側車から景色を眺めていた。ジャガイモ畑を越えてから五キロほど走ったところで、リアムはスピードを落とした。横を向いてシンシアに話しかけた。


「話とはやはりヴィンズ大佐のことですか?」


「そうです。そのことで帝国から返事がきました」


 シンシアは顔をリアムに向けた。目が合ってリアムは前を向く。


「こんなにはやく帝国が動くとは思いませんでした」


「問題はそこなんです。いつもなら先延ばしにして遅らせる帝国が緊急事態だからといって一日もたたないうちに返事をくれるなんておかしくないですか?」


「帝国はなんと?」


「一週間後ヴィンズ大佐を帝国にわたします。中尉は要人輸送機を護衛して下さい。それが今度の任務です」


「……メンバー編成はこちらで決めていいですか」


 リアムは運転しながら、のんびりした口調で言った。


「はい任せますが、今回は私も同乗します」


「中佐もですか?」


「はい。セントラルに直接かけ合っています」



 小川にかかる橋を越えて小高い丘の上には小さな教会がある。あぜ道にサイドカーを止めてエンジンを切る。その教会は先の大戦で戦死した全ての人の慰霊碑がある。今日は二人にとって大切な日だった。


「姉さん誕生日おめでとう」


 シンシアはカトレア・ルル・スティングの名前が彫られている場所に手を添えた。生きていれば二十九歳になっていた彼女は特別攻撃隊の一員でリアムの上官でもあった。


 手を合わせて少し丸くなったシンシアの背中を離れて見守っていると七十歳を過ぎたほどの男性が歩いてきた白髪頭であて布だらけの赤いシャツに、サスペンダーつきのズボンをはいていた。


「お参りですかな」


「同胞に近況報告をしにきましてね」


「そうですか。私は息子に会いにきましてその帰りで」


 シンシアがこちらに気がつくと会釈をして笑った。


「お嬢さんも軍人さんですか? 驚いたこんなにかわいい軍人さんもいたのですね」


 自分の容姿を褒められてうれしそうにでも照れ隠しに軽く敬礼をするシンシアは年頃の女の子そのものであった。歩きながらシンシアが老人に訊ねる。


「おじいさんはもうお参りはすみましたか」


「ええ、もう帰るところです」


「でしたらお送りしますよ」


「すぐそこのウチなので、それに若者の逢い引きの邪魔はしませんよ……もし時間があるならどうですかなウチでのんびりしていきませんか」


 リアムはあたりを見渡した。木と草原と山しか見えない。確認をするために、シンシアに向いた。すでにシンシアはサイドカーの側車に老人を乗せていた。


「すいませんね~」


 シンシアはリアムの後ろのサドルに座った。


「中佐」


 リアムが小声で聞くと、


「いいじゃないですか中尉。旅は道ずれ世は情けともいうでしょう」


 シンシアは笑いながら前に手をまわす。


「俺たちは軍人ですよ。旅人じゃなくて」


「気にしない。気にしない」



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