それぞれの正義3
ゲルマンに銃口を向けたままゆっくりとリアムの元に歩みを進めるアイザックは、意外にも冷静だった。
「大尉、たった今大佐が援軍を引き連れて突入した。もうおしまいだ」
リアムはアイザックが嘘やはったりが上手くないのを知っている。おそらく本当のことだろう。しびれた肘がだんだんと動き始めたリアムの横にアイザックがつけた。
「そうか、私の負けか・・・」
ゲルマンが軍服の内ポケットに手を突っ込んだ。そして透明な液体が入った小瓶を取り出した瞬間リアムは咄嗟にゲルマンに向かって走った。
「やめろ!!」
蓋になっていたコルクを外しその液体を口につける寸前のところをリアムは小瓶目掛けて思い切り蹴り上げる。宙に舞い小瓶の中の液体が床に落ちるのとリアムがゲルマンの胸倉を掴むのはほぼ同時だった。
「なにしてんだ。これだけのことをしておいて自殺なんて許すわけないだろ」
「じゃあ・・・お前が殺してくれるのか?リアム」
そうつぶやいたゲルマンの声はリアムやアイザックが良く知る眠りについた恋人にささやくように優しい声色だった。
「殺せるわけないだろ。あんたを俺たちが殺せるわけがないんだよ・・・」
「そうだと思ったよ。は、人間柄にもないことをするもんじゃないな」
リアムはその場に崩れ落ちた。それから床の絨毯を思いっきり叩く。
「なんで俺たちに一言相談してくれなかったのですか?どうして頼ってくれなかったのですか?俺たちは大尉にとってそれほどまでに頼りない存在だったのですか?答えてください」
アイザックはハンドガンのグリップを持つ手を震わせながら言った。それでもゲルマンは口を開かず下を向いていた。
「答えてください」
バン!
何かが破裂する音が聞こえて、ゲルマンは倒れた。音がした方へリアムが視線を向けるとグラント議員がさきほど吹きとばされたハンドガンを持ちふらつきながら立っている。
「ざまーみろ。反逆者め」
そう吐きすてたグラント議員にリアムは、銃口を向けて躊躇なく発砲した。弾丸はグラント議員のこめかみすれすれを通過し、グラント議員は再び意識を失った。
「大尉!!」
「無様だな。これが私の最後か・・・」
アイザックは必死に弾丸が貫いた腹の部分を抑え流れ続ける血を止めようとする。
「大尉。あなたはどうして」
リアムはゆっくりとゲルマンに近づいていく。
「リアム、アイザックこの国はもはや廃れてしまった。だから気をつけろ国の上層部はもう帝国に魂を売っている」
「分かった。大尉もう喋らなくていい」
虫の息にも満たないほど弱弱しい声でゲルマンは続ける。
「訳も分からず連れ去られて、暗い森の中で、怖かったろうな、心細かったろうな、ごめんな。お兄ちゃん、こんなことでしかフィオナの仇をうってやることが出来なかったよ」
全身の力が抜けていく。ゲルマンはゆっくりと右手を上げた。その手をリアムはしっかりと掴んだ。
「俺たちがあんたの意思を継ぐ、あんたをないがしろにしたこの国を必ず変えるよ。だから安心して眠ってくれよ・・・兄貴」
死に際に見せたゲルマンの笑顔は安らかで昔見た優しい兄のような朗らかな笑顔だった。




