セントラルの攻防2
リアムたちの行く手を一台の戦車が阻む。本部の入り口にドンと構える戦車は圧倒的な存在感でリアムが打ち込んだ鉛球をいとも簡単にはじき返すと戦車を盾にする敵の軍人が威嚇するように乱射する。建物の陰に身を潜める、あと百メートルもない本部までの距離。
「しかし、一般人が居なくてよかったな。巻きこまれたら大変だった」
アイザックはそう言って胸を撫でおろした。
「そんなことよりどうします? これ以上先には進めませんよ」
リアムは考えた。ここで突っこめばハチの巣にされる、もしくは戦車にやられる。裏道から侵入することも考えたが、敵に待ち伏せされていたらおしまいだ。リアムはゲルマンの用意周到さを熟知していた。
「おい、リアム」
「なんだ。少し黙ってろ」
「違う、なんか聞こえないか?」
「まさかもう一台・・・」
「違う、少尉。空からだ。プロペラの音が聞こえる」
アイザックがそういった。その時、ダダダダとマシンガンのような音が聞こえて、空の上から雨のように戦車に弾丸を浴びせる。
三人は空を見上げた。大型の爆撃戦闘機が本来ならありえない低い高度を滑空していた。
「おいおい、大型のしかも操縦が難しい旧型をああも見事に操縦するのは、俺の知る限り奴しか知らない」
「モリア伍長だ。リアム」
頭上に砲撃を放つもモリアはぎりぎりのところでかわし今度はキャタピラに銃弾を浴びせた。運よくどこかの燃料タンクにあたったのか戦車はその場で炎上しハッチから何人か人が出てきて退避し始めた。
モリアは問答無用で敵を一掃する。そしてある程度攻撃した後、何事もなかったかのように飛行場の方角へ飛び去ってしまった。入り口が完全に手薄になった隙を狙ってリアムたちは突入した。
意味も分からず叫ぶもの助けを求めるもの敵も味方も分からずに銃を乱射するもの入り乱れて本部の中は地獄と化していた。リアムたちは銃弾が飛び交う中を走り、国家公務員および無関係な人たちの救出を行おうとしていた。
一階の中央ホールはすでに血の海になっていて生存者の見る影はなくリアムたちは上の階に向かった。
「生き残りがいたぞ!! 殺せ」
敵の軍人がこちらに気が付き問答無用で乱射した。リアムたちはすぐさま壁の後ろに身を隠し応戦する。
「リアムどうする? 多勢に無勢じゃ勝ち目はないぞ」
アイザックは次々に数を増やし距離を詰めてくる敵を見て尋ねた。
「そういう時はこうだ」
リアムは懐から手りゅう弾を取り出して口でピンをぬいた。そして素早く敵のかたまり目掛けて投げると一斉に回避を始める。数秒ほどたって爆発した手りゅう弾は床に落ちてあるガラスの破片も一緒にふっとばし飛び散った破片が敵を襲う。衝撃が収まるのを待ってリアムたちは前進する。
「お前そんなものどこで拾ったんだ」
「旧指令室にあったんだよ。使う機会はないと思ったけどさっそく使う羽目になるとは」
マクガイアは二人に後ろを走り、追手を追撃していた。エレベーターが壊れているので階段を使って上の階に上がる。重役の国家公務員ほど上の階にいる、上にいけばいくほど警備が厳しくなるはずだからまだ制圧されてはないだろう。
「殺せ」
前方から不意に現れた敵にリアムたちは一瞬反応が遅れた。しまったと思ったその時に武装した軍人が数人でなだれ込み敵を撃った。
「大丈夫ですか」
その中の一人が言った。
突然声をかけられたリアムは声のした方へ首をむけた。
「下から上がってきたということは援軍が来たと言ことですね。私はトーマス少尉です」
「少尉ありがとう。状況はどうなっている」
「ここから上の階にグラント議員と他十数名の国家公務員が人質としてとらわれています。救出行こうにも敵が上の階にいく道を封鎖して近づくことが出来ません」
リアムの横にいた男が銃弾にあたり倒れた。
「くそあと少しなのに」
「俺が囮になって敵の標的になろう。揺動にはなるだろ」
アイザックの言葉にリアムは発狂した。
「揺動ってここから議員たちがいる部屋にいく道はどこも敵がいるんだぞ」
「だから中からだめなら外から攻めるんだよ。壁伝いに移動すれば奴らを挟み撃ちにできるだろ」
「お前正気か? 万が一見つかったら死ぬんだぞ。身を隠すとこもなければ、足を滑らせてもおしまいだ。仮に敵の後ろをとったとしても、百パーセント成功するわけじゃない」
リアムは首を立てには振らなかった。必ず成功する作戦でなければ実行するわけにはいかない。
「リアム、頼む。大尉を止めてくれ。大尉を救えるのは俺じゃない、お前しかいないんだ」




