セントラルの攻防
正午。
セントラルの本部前に一般人に紛れて蠢く人の気配をマクガイアは見逃さなかった。本部から一キロ圏内には着々と殺気が漏れている。
「少尉、落ち着いて大佐をまとう」
マクガイアとフォアマンは敵の不穏な動きを予測してクーデターを起こされる前に殺気立ち、先走った不届き者を捕えようとしていた。
本部から二百メートルほど離れているホテルの屋上からライフルのスコープ越しに敵の動向を探るマクガイアは、フォアマンの言葉に静かに首を縦に振ると一度スコープから目を離した。
「准尉、中尉はともかく先輩は巻き込まなくてもよかったのではないですか? いくら大佐が援軍を要請する間の人手が足りないにしてもあの人に人はもう殺せない」
「アイザックのことか。大丈夫。彼は強いよ、それに少尉がついているなら心配ないよ」
マクガイアは少し跳ねた前髪を手でなおすと再びライフルを手に持った。その時遠方から聞きなれない何かが擦れるような音が地響きとともに聞こえてきた。そしてその音はどんどん近づいてくる。
「なんだこの音は? 准尉まさか・・・」
「いや、そんなことはないやつらが動くのは明後日だ」
その時二人が潜むビルのすぐ下でなにかが爆発したような音が聞こえて、火花が散った。
数秒後凄まじい爆音とともに本部から火の手が上がった。緊急サイレンがなりあたりは戦場になる。
「戦車だと!! あいつら本部に打ち込みやがった」
フォアマンはあまりの衝撃に思わず体を退けた。本部近くに潜伏していた青年将校たちが一斉に突撃する。
「くそ」
マクガイアとフォアマンは一気にビルを駆け降りた。今頃本部は混乱に陥り敵か味方か分からない状態で苦戦を強いられているに違いない。
「奴らは俺たちに盗聴されていることを見越して嘘の情報をばらまいたのか」
「おそらく、あの複雑な暗号を解読されることを逆手に取ったゲルマン大尉の策略でしょう」
外に飛び出すと本部はまるで戦場のように双方が入れ乱れていて銃声や爆音が響いていた。
「少尉!! 准尉!! 」
後ろから二人の名前を呼ぶ声。マルスは車を二人の横に停車させると顔を蒼白にしていた。
「これはいったい、クーデターは明後日のはずなのにどうして」
「曹長。お前は悪くない。はめられたんだまんまとね」
後部座席からリアムが外に出ると炎に包まれた本部を睨んだ。助手席に座っていたアイザックもすかさず外に出る。
「まずいぞ、中にはまだ大勢の人がいるはずだ。ゲルマンの姿は見たか?」
フォアマンは首を横に振る。
「大尉の姿はありませんでした。大佐にはさきほど連絡を、援軍が到着するまで動くのは危険です」
マクガイアは冷静に答えた。しかしリアムからは怒りの感情が漏れて、今にも突撃しそうな状態だ。
「俺は行く援軍なんて待ってられない」
「待ってください」
マクガイアはリアムの腕を掴む。
「中尉一人が乗り込んでなにが変わるというのですか。犬死ですやめてください」
「一人じゃないよ。少尉」
「先輩」
肩を叩かれたマクガイアはアイザックを睨んだ。アイザックは思わず苦笑いを浮かべる。
「リアムが行くというなら俺はどこへでもついていくこいつは俺の本の良さも分からないバカだけど貴重な読者なんだ。死なれちゃ売り上げにかかわるからな」
「お前の本など読んだこともないがな」
読者という言葉にリアムは突っこむ。
「そのくせに内容を熟知してダメ出しをくれるじゃないか」
アイザックはからかうように笑うとリアムはそっぽを向いて横暴な態度をとった。
「先輩。あなたが行くというなら私も行きます。軍人ではないあなたを死なせるわけにはいきません」
リアムは頷くとフォアマンに一礼した。
「准尉すいません。また命令に背きます」
フォアマンは微笑むとリアムの両肩に両手をおき力強く叩く。
「命令違反はお互い様さ。俺と曹長は総統閣下の屋敷に向かう。死ぬなよ」
三人は一斉にセントラル本部へと走り出した。




