秘密結社
シンシアたちが地下室から出ると外は警報がなっていた。夜遅くにたたき起こされた若い軍人たちや武装した施設の職員があわただしく廊下を駆け回る
「どうした何があった?」
モリアがこの混乱に乗じて若い兵士に尋ねると兵士は早口に答えた。
「侵入者だ。見つけ次第殺せ」
モリアが頷くと兵士はどこかに走り去ってしまった。
「完全に包囲されてどこにも逃げ道はないですよ。どうします?」
あとから来た二人に問いただす。
「特になにも考えずに助けに来たからその後のことなにも考えてない」
「それは困りましたね」
老人が他人事のようにつぶやく。
「どっちにしろ車での逃走は無理よ。でも空からなら・・・」
「ここから格納庫まで近いです。行きましょう」
夜は深くなる、暗い空は淡く光る三等星をモリアの瞳に映した。風ひとつ吹かない熱帯夜となった今夜は気温も上がり寮のシャワーが恋しくなる。
格納庫の前には予想通り戦闘機が並んでいた。真っ黒に塗られたその大型戦闘機は、巨大な鳥のようだ。
「懐かしいな旧型の大型戦闘機だ」
モリアは思わず声を漏らした。モリアたちは入り口のハッチをあけて中に入る。
「この機体を誰が動かすんだ」
ノックスが不安そうにつぶやくとシンシアはモリアを見て言った。
「適任者がいます」
モリアはスイッチを捻った。エンジンの中で、始動モーターが唸りだす。
爆音とともにプロペラが回りだした。
大型の戦闘機がゆっくりと動き出す。
「いくぞ」
モリアはスロットルレバーを全開へと押し込んだ。森の中の施設でキーンと高音のエンジン音が鳴り響く。滑走路を走るどんどん速度を上げて道路を突っ走っていく。がたがたと揺れる機体。速度計の針が上がりそれがある一定の数値を突破するとモリアは押さえていた操縦桿を引いた。
機体は空へと舞い上がり、少しずつ上昇していく。
「飛びましたね」
シンシアは安心したようにいう。
「しかし、追手がくるかも油断はできません」
「いやそれはない代表を助けに来る途中施設の重要箇所にいくつか時限爆弾を仕掛けたからな」
ノックスの言葉に胸を撫でおろすモリアは外の景色を眺める老人が気になっていた。
「ところであなたたちは何者なんだ? おじいさんはなんでさらわれたか思い当たりあるの」
機首の風防から外の景色ばかり見ていた老人はこちらを振り向いて口を開いた。
「今から二百年前、東西の国の権力者が世界平和のために作った秘密結社がある。その秘密結社の名は銀の麦・・・」
「ちょっと待ってくれ話が見えない。何を言っているんだ」
「伍長黙りなさい。おじいさん続けてください」
シンシアがモリアを注意してまた老人は話し始めた。
「銀の麦は時代とともに暗躍していきました。ある時は戦争を治め、またある時は発展途上の小国に手を差し伸べた。そして守り続けてきたのです。世界を動かすことが出来る宝を」
「宝?」
操縦桿を握るモリアが宝という言葉に反応した。
「そうです。その宝は使う人によっては世界を平和に導くことも破滅に追い込むことも出来てしまう。私たちは代々その宝を隠し守り続けてきました。いやはやまさかその宝の一つが帝国に奪われてしまうなど毛頭考えられませんでしたよ」




