シンシアの英断
リアムたちがセントラルに向かい出発して数時間たつ。モリアは朝のトレーニングを済ませたあと日課の飛行訓練を行っていた。
機体を左右に滑らしたり高度を上げて急降下したり自分と機体が一心同体になる感覚を養っていた。昔は重力が少しかかっただけで気を失って同乗していたアイザックに怒られていたことをモリアは思い出していた。
当時は戦争中だったために訓練生の訓練実習期間が三ヶ月省略され同期生がたくさん戦地に借り出されていた。
その中でも特別爆撃隊。通称雷神隊はパイロットなら誰しも憧れる花形でモリアも当然その部隊に志願していたが見送られてしまった。
その理由は身長の高さからだった。スピードと攻撃を重視して極限まで軽くした機体はパイロットの命など二の次に考えた設計だった。そのためコックピットも狭く百七十五センチ以上のパイロットはどんなに優秀でも選抜されることはなかった。モリア伍長の身長は百八十五センチで涙ながらに諦めた苦い思い出がある。
ジパング公国は島国のため資源が諸外国と比べて乏しかった。しかし航空技術は優れていて経験豊富のパイロットが次世代の若者の育成に貢献したこともあり空の戦いでは連戦連勝。アイザックもリアム中尉も凄腕のパイロットで雷神隊の一員だったがモリア伍長が配属されたのは大型爆撃陸上攻撃機の部隊であった。
「伍長。お疲れ様です」
訓練が終わったモリアは軍の食堂で遅めの朝食をとっているとシンシアが隣の席に腰を下ろした。今の時間は朝から勤務していた軍人の休憩時間でシンシアの他にもたくさんの軍人がコーヒーやティーを嗜んでいる。
「中佐。お疲れ様です」
「伍長見送りのあとの訓練でしたか精が出ますね」
「いえ、自分は日々の日課をこなしただけのことです」
シンシアは微笑むとコーヒーにミルクを注ぎかき混ぜた。すると黒からまろやかな茶色に色が変わる。
モリアとシンシアは階級こそ違うが第八十三期に士官学校を卒業した同期生だ。モリアにとっては最大のライバルであり目標のパイロットだった。
シンシアはコーヒーを飲みながら他愛もない話をモリアに話し出した。コーヒーをかき混ぜるカチャカチャとした音が響く。
「私の友達でアンナっていう子がね結婚するのよ。だからこの間お祝いに行ってきたんですよ・・・・・・」
そんな特に内容もない話を休憩時間いっぱいまでするとシンシアは仕事に戻ってしまった。モリアは食べ終わった食器を台に戻すと飛行訓練場に走った。
コーヒーカップをスプーンで叩いて音を出していたのは周りの軍人にその内容を聞かれたくないため、モールス信号を応用したのだ。その内容を理解したと同時にシンシアが今から実行しようとしていることに驚愕した。
そして誰にも見つからないように昨日整備が終わった軍用車があるコンテナに向かうとそこにはシンシアが待っていた。
「ここに来たということはもう後戻りはできませんよ」
「シンシア本気でいっているのか?むちゃだ無謀すぎる」
シンシアは頷いた。そしていった。
「今からアマルド氏の私有地に向かいます」




