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ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。  作者: 弓弦
第二章「ラリカ=ヴェニシエスは立ち上がる(上)」
25/165

プロローグ[挿絵あり]

挿絵(By みてみん)

 ――私には、二つの夢があります。


 一つは、みんなが便利に幸せに暮らせるようにすることです。


 そしてもう一つは……


----------------------------------------------------------------------------


 ごつごつと赤茶けた岩肌が露出する山に挟まれ、私の村はあります。

 

 周りに(ろく)に森もなく、ただ広々とした草原だけがあります。

 畑を作ろうにも、地面を耕して出てくるのはごろごろとした石ばかりで、表面に出ている石をどけても、さらに大きな硬い岩が出てくるだけです。

 作物なんてまともに育ちませんでした。


 みんな、細々と家畜を育てて暮らしています。

 それだって冬には十分な食べ物もなくなるこの土地では、満足に育てることができません。


 そうです。

 この村はお金持ちではありません。


 ――ごめんなさい。見栄をはりました。

 この村は貧乏です。


 でも、この村にだって、ひそかな自慢があります。

 私たちの村のほとんどは、ハイクミア教徒です。


 だから、みんな空いた時間は本を書き写して過ごしています。

 王都や聖国では、決まった文言ばかり書き写している人も多いと聞きますが、私の村は、少しでも家計の足しになるように、送られてきた本を書き写す内職をしている人が多いです。


 そうやって送られてくる本には、いろいろな知識が詰まっています。

 王都の偉い学者様、聖国のお歴々、各町の有力者が書かれた本の写本も送られてきます。

 たくさんの本に触れて、みんな貧しい中でも、学のある人が多いんです。

 私も、村のみんなに負けないよう、たくさんの本を読み、書き写しています。



 ――初めて本を渡されて、一冊書き写したときのことは今でもよく覚えています。


 魔法紋章学や、魔法陣学を基にした術式学を前提とした『術式の多層化による汎用性の確保について』という、とてもとっても難しい内容でした。

 でも、お手本にしたくなるような、きれいな文章で書かれていて、夢中になって書き写しました。

 いまでも、その時こっそりと一冊多く書き写した本は、本棚に大事に大事にしまっています。


 そうして本を読んでいると、疑問に思ったこと、思いついたことがいっぱい出てきます。

 少し前に、思いついたことをまとめて、一冊にまとめてみました。


 偉い学者様が書くような、立派な本ではないです。

 でも、世界でたった一冊だけの、大切な大切な宝物です。

 なんだか、少し賢くなった気がして、『立派な人』になった気がして、

 毎晩、枕もとに置いて眠っています。

 

 そんなある日、私は村長さんに呼び出されました。

 小さな村です。村長さんのおうちだって、なんども訪れたことがあります。

 いつものように村長さんのおうちの戸をノックすると、村長さんが顔を出しました。

 どうやら、本を読んでいたようで、テーブルの上に置かれています。

 赤い表紙の、すこし豪華(ごうか)装丁(そうてい)の本でした。


 お家に入ると、椅子をすすめられたので、机を挟んで向かいあいました。

 村長さんは、目元の柔らかなしわを、いつもより少し固くしながら切り出しました。


「今日、呼び出したのは、リクリス。お前に伝えたい事があったからじゃ。――お前には魔法の才能がある。その歳にして、目を見張る知性もある。――王都の学校に通いなさい」


 唐突に切り出されたのは、私の王都行きでした。


「――そんなッ!? 村長さん、私、学校に通うお金なんてありません」


 村長さんの言葉に、思わず口をついて出たのは、お金のことでした。

 その日食べるものにも困っている我が家には、私を学校に通わせる余裕なんてありません。

 今日も、このあとは家畜のお世話に、内職のお仕事もあります。


「お金の心配なら必要ない。……お前が学校に通うための費用は、村の皆が出し合うことに決めたからの」


「えっ……」


 続いた、村長さんの言葉に声を失いました。

 『皆がお金を出し合う』ということは、この話は村のみんなが納得して決めたということだからです。


「どうして私なんかの為に、みんながお金を出してくれるんですかっ!?」


 確かに、私は魔法使いの生まれにくいこの村では珍しく、魔力を持っています。

 でも、それだけで村のみんなに応援してもらえるとは思えません。

 

「――この本は、お前が書いたのじゃろう?」


 そういって、村長さんは手元に置いていた本をこちらに押し出しました。

 装丁の痛まないよう、そっと押し出された本を受け取ります。

 赤い革張りの豪華な装丁の本を開きました。


 ――そこにあったのは、何度も何度も見返した私の文章でした。


 装丁は、私が持っているものより随分ずいぶん豪華でしたが、中身は確かに私の書いた本でした。


「どうして……?」


 一冊しかないはずの本が、村長の手元に置かれていることに驚きを隠せませんでした。

 改めて、手元の本を見返します。


「あ……」


 手元の本を見返すと、そこに踊っていた文字には見覚えがありました。

 何年も何年も見てきた、お父さんの文字でした。

 私に読み書きを教えてくれたのはお父さんです。間違えるわけありません。


「お前の所の父親が、私のところに持ってきたのだよ。娘は天才じゃとな」


 大切にしていた本とはいえ、常に持ち歩いていたわけではありません。

 きっと、その間に私の本を書き写したのでしょう。

 生粋きっすいのハイクミア教徒であるお父さんなら、造作も無かったはずです。


「儂も、その本を読んで思ったのじゃ。お前には才能があるとな。お前の才能を伸ばしたい。そう思ったのじゃ。だからリクリスよ。お前は王都に行き、もっと学んで来るのじゃ。学んで、いつかこの村を支えておくれ」


 ――村長さんのその言葉で、私の王都行きは決まりました。




 ――私には、二つの夢があります。


 一つは、みんなが便利に幸せに暮らせるようにすることです。


 そしてもう一つは、初めて書き写した本の著者。

 リベスのヴェニシエス、ラリカ=ヴェニシエスと会ってお話することです。

 

 



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◆◇◆ ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。 ◆◇◆

「ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。」
◆◇◆                   ◆◇◆

いつも応援・ご評価ありがとうございます。
これからも、お付き合い頂ければ幸いです。

*******↓ 『もうひとつ』の物語 ↓******

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