エピローグ
罅割れた真っ白な世界に、幻想的な銀の髪をした少女が一人跪いていた。
両足の膝をつき、力尽きたかのように両の掌は地に置かれている。
――なにがしかの戦いの跡なのだろうか?
少女の周囲は、激しく歪にゆがみ、傷つき、崩れている。
その姿は、全てが消え去ってしまった戦場で、ただ一人残されて泣き崩れているようにも見えた。
そのまま跪いた少女が俯いていると、ぽたり、ぽたりと地面に赤が滲んでいった。
――真っ白な世界に、赤い色が点々と散り、華を散らしていく。
「くつ……う……ふぅ……」
辛そうに少女が苦悶の声を漏らした。
少女は、地についていた右手を慌てたように持ち上げると、出血を抑え込むように顔に押し当てる。
しばらくして、少女が顔面に当てていた手を離すと、掌にはべっとりと血が付着していた。
金色に輝く双眸が大きく見開かれ、薄い表情の中にも明らかな驚愕の色が見て取れた。
「……しまった。……でも、」
動揺する少女の声には、なにに対する後悔だろうか、明らかに予想外の事態に対する悔やみの色が混じっている。
だが、その声はどこか満足げな、何かを成し遂げたかのような雰囲気も同時に纏っていた。
――確かに、後悔することはある。
――でも、それでも絶対に無駄なことなんかじゃない。
あたかもそう世界に語りかけるかのような自信に満ちた声だった。
今にも溶けて消え去りそうな、雪の結晶を思わせる容貌に似合わず、強い意志が感じられる。
そして、そのまま満足げな表情で少女は言葉を続けた。
「……猫ほづみん、あんなに可愛いとは……卑怯……」
悔しそうに、でもどこか誇らしそうな声音でそうつぶやいた。
「……ふりふりとか……みゃあとか……『ちょべりぐ』」
ふふ、ふふと怪しげな笑みを浮かべる少女は、整った顔の中心付近から垂れ落ちる、興奮の滴を拭い去った。
「めざせ、『はっぴーえんど』! ……ほづみんは、『はっぴーえんど』のほうが好き……だから、そのためにも……」
そうして、真っ白な少女――雪華は再び決意を込め、無表情の中にもきりりっとした凛々しい表情を浮かべると、前を見据えて歩き出した。
数歩歩くと、その姿は白い世界へと溶けるように消えていく。
――いつの間にか、その両手や地面を染めていた赤い滴は消え去っていた。
これにて『第一章「ラリカ=ヴェニシエスは猫と出会った」』はひとまず終了です。
第2章に関しましては、現在未推敲の状況でおよそ8万字ほどは書き溜めがあるのですが、各章完結後の投稿とする予定ですので、9月の投稿開始とさせていただきます。
ここまでお付き合いくださった皆様、どうもありがとうございます。
引き続き、「ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。」をよろしくお願いいたします。