第一八話「とあるヴェニシエスの功罪」
クロエはラリカを家に送り届けると、ゆったりとした服装に着替えさせ、ベッドに横にすると、毛布を上からかけて休ませた。
ベッドで休むラリカは、安らかな寝息を立てている。
その穏やかな寝顔を見て、ようやくクロエが言った事に納得出来た私は、安堵の息を吐き出した。
「そんなに、ラリカさんのことが心配?」
クロエが普段の間延びしたような口調と違う真面目な口調で、問いかけてくる。
「無論だ。今日一日でよくわかった。私の御主人は小さいからな。その割に、色々と面倒事を引き寄せる難儀な性質のようだ」
「そうねぇ。ラリカさんは、小さいのに良く頑張っているわ。……頑張り過ぎなくらいに」
「そのようだな。実は、今日までラリカがどんな生活を送っているのか、私もよく知らなかったのだ。正直ヴェニシエスだなんだという単語も、今日聞いたばかりでさっぱりだ」
「あら? そうなの。それは悪い事をしたわねぇ」
「一体、ご主人はどういう立場なんだ?ご主人からは、後で教えると言われているが、もし良ければ教えて貰えないか?」
「んーそうねぇ……いいわ。教えてあげる」
そういって、クロエは唇をきゅっと引き結んだ。
「私が、『ヴェネラ』というのは、知っているかしら?」
「クロエ=ヴェネラと呼ばれていたのは聞いた。社会的な地位のある立場なのだろうというのは朧気ながら理解できる」
「そう。元々、ヴェネラというのは、自分で言うのは面映ゆいけど、『尊敬される人』『智慧ある人』というような意味の言葉よ。そして、今は聖国から認められている位階の一つなの。どこの教会にも属さない代わりに、直接的な権力は持たない名誉職みたいなものね。一応、最初は七人いて、今も七人まで認定出来るわ」
「聖国というのは?」
「そこからなのねぇ……ミルマルならしょうがないかしら。私たち人間の宗教を取り仕切る国よ。最も信仰者数の多い、ユーニラミア教が中心となって、第二位のユルキファナミア教に代表されるようなその他の教派も集まって構成されているの」
「では、貴女はその国で認められて、ヴェネラになったわけか?」
「そういうこと。とはいっても、私は元々モグリのヴェネラだったのよ」
「モグリとは?」
「本来は聖国がヴェネラと呼ぶべき人物を選定して、認定された人物がヴェネラを名乗るのだけど、私が元々神器を受け継いできていた事や、まあ、ちょっとした功績があったことからヴェネラと呼ばれて、それを正式に聖国が認めたのよぉ」
クロエは、一息つくように大きく息を吐き出した。
「とにかく。私は一応聖国から認められているヴェネラなの。……でも、ここからが問題なのよねぇ。実は、ヴェネラは本来、弟子を設けて、ヴェネラを引き継いでいかないといけないのよ。弟子の中でヴェネラを継ぐ予定の者をヴェニシエスというの」
ラリカはどうやら、目の前の老婆の弟子にあたるらしい。
つまりはうちの御主人は将来的に重要な役職に就く見込みということらしい。
「さっき、ヴェネラは七人まで認定できると言ったのは覚えているかしら?」
「ああ」
「さて、貴方はそのうち何人が残っていると思うかしら?」
突然の問題形式だ。普通に考えれば、七人。
しかし、クロエが認定されていることや、『残っている』という表現から考えて、満席ということは無いだろう。
「五人」
前提条件が少なすぎて推測ができない。考えてどうにかなるものではないだろう。完全な山勘で答えてみる。
「残念。二人。私と、聖国に一人。そう、たった二人だけなのよ」
「そんなことがあるのか!?」
普通、そういう役職とは腐敗した権力の温床となりやすいはずだ。
権威づけの為にも、どんどん認定を行っていく方向になりがちだ。
「そうよ。他の五人分のヴェネラは、長い歴史の中、弟子に役職を引き継ぐことなく途絶えたわ。いえ、正確に言うと、残り五人のヴェネラのうち一席は生死不明につき――という扱いだったかしら。それだって、もう何世代も前の話よ。とにかく、今一般的な認識としては二席しか残ってないのよぉ……」
やれやれとでもいうように首を振りながらクロエはため息をつく。
「それに、ヴェネラというのは、卓越した魔法使いという前提があるのよぉ。でも、今の時代、魔法使いなんてまとめて魔力供給源になるだけで、個人の技量なんてそんなに重視されないのよ。まあ、そこまで至って、今いるヴェネラ二人の弟子問題が発生したの。二人ともきちんと引き継げるのかというわけね。世界中から目を向けられたわね。『弟子にしてくれ』とかいうお馬鹿さんが大勢やってきたのよぉ。もう、あんまりにも面倒だったから、森の庵に引き籠ってみたりもしたわね。でも、そうこうしているうちに、聖国のトップであるパトゥスたちから弟子について連絡があったの。『クロエ=ヴェネラは、魔力以外で才あるものを見出し弟子とすること』だったかしら。もう一人は、今まで通り、各地に派遣されているオフスから才能ある子を指名して弟子とさせたらしいわ」
悪意を持った見方をするなら、元々予定していなかったヴェネラには、実験的な弟子のつけ方をさせて後継者問題の対策を考え、順当にヴェネラとなったものには、今までどおりの決め方で引き継ぐということか。
「――なぜ、ラリカを選んだ?」
「はじめは、本当に偶然だったのよぉ。教会から『魔力以外で才あるもの』なんて指定が来たけど、見つける基準すら分からないし、そんなのやってられないと思って、弟子探しのやる気もなくしてさっき言った通り、聖国からの指示は無視して庵に引きこもってたのよ」
……それは、良いのだろうか。古今東西、賢者や仙人は世俗を離れて深山幽谷に住まうと言う話はあるが、実際に地位や名誉ある者が引きこもっていては駄目だろう。
あくまでそういった逸話は、世俗と切り離すためのファクターにすぎないはずだ。
「……それで、十年くらい前かしら。私のところに、ラリカちゃんがきたの。その時の第一声が、『ノルンで人が死んでいます。クロエ=ヴェネラ! 御知恵をお貸しいただけませんかッ!』だったわね」
当時の事を思い出しているのか、クロエは懐かしそうなどこか遠くを見つめた。
手元は、ラリカのラリカのベッドの枕もとを子供を寝かしつけるようにポンポンとやわらかなリズムを刻んでいる。
「たかだか数年しか生きていない子供がそんなことを言って私のところに来たのよぉ? 思わず、どんな冗談かとおもったわ。しかも、ラリカさん、そのあとすぐ気を失ってしまって。どうも私を探して一人で町をぬけだして、一晩、森の中に彷徨っていたようなの。ヤズルさんやリヴィダさんには、森には危険な生き物も多いって重々言い含められていたのに。まったく、ラリカさんは昔っから頭が良いんだか向こう見ずなおバカさんなんだか……」
どうやら、昔から無茶な事をする主人だったようだ。
ぱっと見たところでは、ごく普通の真面目そうな少女のように見えるのに、時々なかなかに破天荒だ。
一見、滅私のようにも見えるが、我を通しすぎた結果のような気もする。微妙なところだ。
「それで、とりあえず町の子だろうから、町まで送り届けようと思って、ラリカさんを抱きかかえて、久々に街に出てみれば、町の中はもう地獄絵図。手足がしびれて道の端で倒れている人が大勢いたわ。流行病だっていうので、教会に行く余裕がある家は教会に行って治療を受けていただけど、一度治療したのにまた罹る人も出て、いよいよ町が滅びるかもしれないなんて言われる状態だったわね。実際、領主様は感染者を切り捨てて、最悪町も捨てる覚悟をしてたみたいねぇ……」
だんだんと話が見えてきた。かつて地球でも、麦角菌がパンに含まれていて大勢の死傷者がでたという話を聞いた事がある。それと同種の被害だったのだろうか。
「その病の原因がノルンだったのか?」
「結論から言うとそうね。あの当時、同じような病気は報告されていたから、みんな病気だと思っていたのだけど、あの子、発病した人を教会と一緒になって調査して、あるノルン屋さんで販売されている低価格ノルンが怪しいって気付いたみたいなの」
「ブロスさんか?」
「違うわよ!……あら、ごめんなさい。今はそのノルン屋はもうないわ。どうも、そのノルン屋が販売した低価格ノルンに混ぜていたバズの実がね、バイドイと合わさるとその症状を起こすようなの。ラリカさんは動物で実験して、同様の症状が出たから私のところにきたみたいなの」
四歳児がきちんと実験を行って調査してから権力者に直談判して対策を求めたということか。
なかなか信じがたい話だ。よく、クロエはそんな話を信じてくれたものだ。
「それで、その調査結果をまとめた資料をみて、もちろん私も確認の為同じ実験をしたわ。そしたら、本当に全く同じ症状がでるんですもの。あの時は驚いたわぁ」
虚空に一瞬魔法陣が浮かび、どこからともなくカップを取り出しながら、クロエは目をつぶった。
「それで、私はヴェネラとして、領主にその結果を伝え。この街は救われたの」
「ラリカがこの街の救世主ということか」
「ええ。誇張ではなく本当にその通りよぉ。いつか、誰かがノルンが原因だって気がついたかもしれないけど、それだときっと間に合わなかった」
「……それで、渡りに船とラリカをヴェニシエスとしたというわけだな」
「そういうことぉ。ラリカさんに魔法を教えてあげてほしいって、ヤズルさんからも頼まれたわぁ。……結局、魔法を使えるようにしてあげたのは、私じゃなかったみたいだけどぉ」
ちらりとこちらを横目に見ながらため息をつく。
「ラリカは、今日初めて魔法を使ったからな……記念日だな」
「そうねぇ。記念日よぉ。本当に。貴方は知らないでしょうけどぉ、あの子あと少し魔法を使えなかったら危なかったのよぉ?」
クロエはオーバーリアクション気味に顔を両手で顔を覆うと、目尻に浮かんだ涙をぬぐう動作をしながら、とっておきの情報を伝えるようにお茶目な声でそう言った。
「……とっておきの情報のようだが、知っている。本人から聞いた」
「そうなのぉっ!? ……あの子、随分と貴方に心を許しているのねえ」
クロエは、反射的に腰掛けた木製の古びた椅子から立ち上がりかけ、誤魔化すように、ずいっとこちらに身を乗り出した。
その視線は、まるでおもちゃを取り上げられた子猫のようにも見える。
「ミルマルだからな。人相手とは違うだろう」
誰にも言えない秘密でも、ペット相手になら話す事もあるだろうさ。
「じゃあ、今度はこっちから質問よぉ。――あの子が使った魔法を教えたのは貴方かしらぁ?」
クロエは、魔法を例示するかのように手元のコップになにも無い空間から水を満たしはじめる。
「そうだ。まさか、あそこまで威力があるとは思わなかったが」
「あれは、上位魔法なんかじゃないわ。一体なんの術式なのかしらぁ? それに、杖を前倒しで継承させても魔法を使えなかったあの子が、なぜ魔法を使えたのかしらぁあ?」
先程までとは一転して鋭い視線で睨みつけるように、私を見めるクロエは詰問口調だ。
少し、興奮してきたのか、ねっとりとした声音に熱がこもっている。
――このクロエという老婆にすべて話すべきだろうか。
これはきっとラリカにとって、人生を変えるような大きな選択になるだろう。
黙秘をする。あるいは、本人から説明させる。そうするべきかもしれない。
しかし、一定の社会的地位があるものに庇護を受けることができる可能性が高いというのは正直今の状況ではありがたいだろう。
話すミルマル。今まで知恵者が見た事がない術式。魔法を使えない体質。
もし、この世界が魔女狩りのような時代であれば、下手をすれば異端扱いを受ける可能性がある。
特に、この術式が厄介だ。上級魔法よりも威力のある術を、それ以外の魔法が使えない人間が使えるのだ。しかも、その人間はその魔法を一発撃つだけで倒れてしまうときた。
誰かが、悪意を持ってラリカに近づいてきた時、ラリカには自衛の手段がない。
もし、そうであるなら、事情を知る人物を作っておくのは一刻も早い方が良い。
「わかった……一から説明しよう」
結局、話すべきだと判断した私は、ラリカの魔力特性と術式について、クロエに解説し始めた――
***
「神の術式と魔力の吸収ねぇ……それはさすがに予想外だったわぁ」
一通り話を進めるにつれ、クロエは眉間のしわを深めていった。今は頭を抱えている。
「神が使った術式なんて、聖国にも保管されていないわよォ……これは荒れるわよぉ?」
「そうなのか?」
「貴方はすこーし常識が欠けているようねぇ」
「ミルマルだからな」
「はぁ……仕方ないわ。それについては、私から聖国の信頼できる方に手紙を書いておくわ。どちらにせよ、神器を使ったのだから、今日のミギュルスの件は報告しておかないと……ついでに、貴方の目についても聞いておいてあげるわ。そういう、特殊な魔法体質については『魔導王』と呼ばれたユルキファナミアを称える教会が一番詳しいから、そっちに確認してあげるわぁ……年寄りのやることが多いわねぇ……」
「迷惑をかける」
「……はぁ。若い子の後始末をするのは年寄りの仕事よぉ」
クロエは、その皺の刻まれた両手で包みこんでいる、水の入ったコップに口をつけてまずそうに飲み込むと、再び一息をついた。
「……そう、大人の仕事なのよねぇ」
「ラリカは、町の人から慕われているなとは思っていたが、まさか町を救っていたとはな……」
自分の寝床で目を閉じているラリカを見つめ、ぽつりとつぶやいた。
あどけない寝顔をみても、とてもそんな大層なことを成したとは信じられない。
「――慕われているのは、それだけじゃないのよぉ」
クロエが、苦笑しながら私の発言を拾い上げた。
「うむ。ラリカは、良い子だからな。それだけで慕われているというのは失礼だったか」
確かに、ラリカは人柄もよく、あまり物怖じをしない性格をしている。
そういった性格面も、人気の秘訣なのかもしれない。
「ああ……たしかに、ラリカさんは良い子だけど、そういう話ではないのよ」
「ん? どういうことだ?」
「ラリカちゃんはね、ヴェニシエスになってからも、みんなを助けているの。その分、恨みも買っているけどねぇ」
「……どう言う事だ?」
「さっき、ノルンで町が大混乱になった話をしたでしょう?」
「ああ」
「そのせいで、そのお店だけじゃない、町全体のノルンの売り上げが悪くなったことがあったの」
確かに、危険性があるという認識を一度された食料を再度食べようと思わせるのは中々難しいかもしれない。
日本でだって、食品業界では一度ついた悪名を中々拭い去ることができず、倒産寸前までいった大企業だってあるほどだ。
「その時、ラリカちゃんはこの街の職人ギルドや、ノルン騒動で原因特定に関わったブロスさんと協力して、長期保存がきくノルン開発をおこなったの。もちろん、安全性に関する試験も行ってね。そして、領主様の力も借りながら、他の町にも水平展開させていったの。今ではこの街から始まった、保存用ノルンは、旅人の必須食よ。高価格商品なのに、人気商品になったわ。もちろん、その途中で資金が尽きて、廃業になってしまったノルン屋もあったけど、たくさんの人が助かったの。他にも、病にかかる人を減らすために、どうすればよいかを、ラリカちゃんとノルン騒動の時に関わった医者と協議して、領主主導で御触れを出して対策を行わせはじめているわ。実際、ここ数年、この街の子供の死亡率は大きくさがった。その事業にかかる費用の一部は、ラリカちゃんが出しているの。どう考えても赤字なのに、『あと何年かすれば働き手の数が増えるので、儲かります』なんて馬鹿な事をよく言っているわ。去年、バイドイが取れなかったときだって、職人ギルドや町の人みんながうまく回る様に相場を調整したり、ソラヌムのおいしい調理法を町の料理屋で集まって検討したり、一番おいしいレシピはどれか、料理大会を開いて、街に活気をもたらしたり。みんなが利益を生み出せるようにしてきたわ。そのせいで、職人ギルドや領主はあの子に頭があがらないのよぉ」
ラリカを見て薬師のようだ考えていたが、薬師というより政治家やイベンターといった方がよさそうだ。
――いや、全部ひっくるめて商人か。
以前、ムシュトがラリカを商人と形容していたのが、今になってしっくりと来た。
「なるほど。ラリカは、随分と皆に対して献身的な行動をしてきたのだな。しかし、そうなると、敵を作ったというのは?」
「そうねえ、それも色々ねぇ……たとえば、長期保存できるノルン。どこに売れているか分かるかしら?」
クロエは、先程のまるで自分の孫を自慢するかのように鼻息荒く説明する様子とは打って変わり、少し言いづらそうだ。
長期保存食料……おそらく、私がこの世界の常識に疎い事を知っているクロエが聞いてくるということは国名ではないだろう。
用途だろうか?
であれば、この世界の仕組みがどうなっているのかは知らないが、軍事が一番可能性として高いのではないだろうか。
「軍事……か?」
「正解……その通りよぉ。ノルンが今最も売れているのは、国の抱える軍。今のところ、表立って戦争している国は無いけど、どこかが争い始めれば、保存用ノルンが要になるのは目に見えているわ。……それ以外にも、古い文献に記載されていた薬草を数年前に発見して、栽培に成功して輸出を始めたの。この街の森からとれる薬草よ。これは燃やすと気分を良くする煙を出すのだけど、ラリカさんは心に傷を負った人や死にゆく末期患者の助けになればと思って売り始めたみたいだけど、これも良くない広がり方をし始めているの。例えば、気分が良くなった人が、『オイタ』をしたりね。ラリカさんは、今必死で販売に制限をかけようとしているみたいだけど、すでに横流しする役人も出てきたり、闇ルートで出回り始めたり、制御がきかなくなってきて、かなり危険な状況ね。それこそ、これも軍や聖国が大規模購入をはじめているしねぇ……」
それはいわゆる、麻薬と呼ばれる存在ではないだろうか。
どうやら、うちの主人は知らない間に麻薬販売まで始めていたらしい。
この世界では麻薬という存在は知られていなかったようだが、このままでは、後世の歴史に名を残す大罪人にもなりかねない。
……ただ、麻薬自体が存在したのなら、遅かれ早かれ浸透していただろうとは思うが。
むしろ今まで使われてこなかった事が奇跡かもしれない。
「本来なら、そんな子の盾になってあげない私が情けない話だわぁ……」
己の無力さを嘆くように、そういうクロエは、先ほど戦場で見た魔法を放つ姿が嘘のように小さく感じられた。
「結局、ヴェネラだとか言われているけどぉ。戦場で魔法を少し上手く使えるだけで、何の役にも立たないわねぇ。得意だと思っていた魔法でさえ、あの子の助けになれなかったしねぇ……私の代わりに、あの子を助けてくれて、ありがとうねぇ。主人想いのミルマル」
「当然の事をしただけだ。私もラリカに助けられたからな」
「これからも、ラリカさんの事を助けてあげてくれるかしらぁ? ラリカさんは人に頼ることがなかなかできない子だから」
すがるようなに私を見つめながら、クロエが願いを口にする。
……まったく、師弟そろってミルマルに何を求めているのやら。
「ふっ……師弟そろって、同じようなことを聞くのだな。――無論だ。ラリカは私の可愛い御主人なのだからなッ!」