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ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。  作者: 弓弦
第一章「ラリカ=ヴェニシエスは猫と出会った」
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第一〇話「もう、死にたい……」

「さて、くろみゃー、食事が終わったらひらけたところに出てほしいと言っていましたが、どうしたのですか? とりあえず、今日のお仕事は全部他の人に頼んできましたが……」


 私たちは、例の『丘』の上にやってきていた。吹き抜ける風の中に、ラリカの演奏が聞こえる気がして思わず目をつぶり、風の流れを感じてしまう。


 ……これは、私からラリカにどこか、ひらけた人目につかないところに連れていくように頼んだのだ。これから、今日はみっちりとラリカの魔法について、検討していくつもりだ。


 だが、ミルマルから『魔法について検討しよう』などと言って、どれほど真面目に話を聞いてくれる者か……悩みながらも、すっと息を吸い込むと、できるだけ軽く声を出した。


「――ラリカ。君には、魔法を使えるようになってもらう」


「えっ……?」


 言われたラリカのほうは、一瞬何を言っているのか理解出来なかったようだ。どこか呆けた表情でラリカが目を見開いている。


 ――数秒ほど、戸惑いを露わに揺れる視線と私の視線が正面から交錯した。


 やがて、徐々にラリカの瞳に理解の色が浮かんでいき――ふっと諦めたように息が吐き出された。そのまま彼女は、力無くほほ笑む。


「……お前は、昨日の話を気にしてくれているのですね……」


 そういって、ゆっくりと歩いてくると、宝物を慈しむような優しげな仕草で、私の頭を撫でに来た。


 ……何やら逆に気を使われているようだ。


「――失礼。いや、ラリカ。その反応ももっともだ。……実はな。この話の前に言っておかないといけないことがあるのだ」


「なんですか?」


 私の言葉に、まるで子供のワガママに付き合う母親のような声音で、優しげにラリカが応える。そんな声に、若干の居心地の悪さを感じながらも、私はなるべく堂々とした演技で言い切った。


「……実は、私は魔法を使う事が出来るのだよ――ッ!」


「おや、そうなのですか? まあ、今話しているのも、おそらく原始魔法の一種だと思いますから、魔法を使えてもおかしくないですね」


 ……もうちょっと劇的な反応を期待して、勿体ぶって言ってみたが効果はないようだ。随分とすげなく納得されてしまった。


 いや、まて。『原始魔法』といっているところを見ると、魔獣とやらが使う魔法と一緒くたに考えられているのかもしれない。


「私が言っているのは原始魔法ではなく、第一世代以降の術式魔法の方だ」


「……本当ですか?」


 私の言葉を全く信用していないというわけではなさそうだが、かなり疑わしげに確認をされた。


 確かに、先日のラリカの話を聞く限り、術式魔法を人以外が使う事が出来ないのが常識であれば疑われても仕方がない。


「本当だ」


「……それは、また……俄には信じがたい話ですね。しかし、仮にそれが本当であれば、興味深いですよ? 『神が人に術式を与えたから魔法を使える』という通説つうせつではなく、『知能があるから魔法を使えるのだ』という学説の証明となりえます」


「まさしくその通りだ。瞳に映る魔力を操作して、魔法を使える。実際試してみたから確かだ」


 ――言ってしまってからはたと気が付いた。

 これでは、先ほど突然話せるようになったという前提が崩れてしまっているのではないだろうか?


 内心、自らの失言におののきながらも、ふふんと胸を張って偉そうに言ってみる。

 こういう時は、安心させるためにも、誤魔化すためにも、少々過剰な自信を演出した方がよいだろう。


「『瞳に映る魔力』ですか。――なるほど。魔法使いというのは、狭義では『術式魔法の行使が可能な存在』を示すそうですが、本来的に言うのであれば『魔力の認識ができる存在』までをさす言葉だったそうです。ですので、広義でいう『魔法使い』には本来魔獣の類も含まれていたそうですよ。ただ、人間は魔力を認識するといっても、感覚的にとらえる事ができる程度で、明確に意識はできないものなのです。実際魔獣達がどういう認識をしているのか、私たちには分からなかったのですが、ひょっとすると魔獣達は視覚としてとらえているのかもしれませんね。いえ、しかし、そうなると、魔獣のような人間以外の生物の魔力知覚の方が優れているということになりえますね。そうか。術式を使わなくても魔法を使えるというのはそもそも――」


「……なるほど」


 幸いにして、ラリカはミルマルという生物の魔力認識の差異に気を取られていてそれどころではなさそうだ。はじめは私に語り掛けるつもりで話し始めたようだが、途中からこちらの反応をうかがうこともなく、思考を垂れ流し始めていた。


「証拠として、私が魔法を使うところを見せよう。――良く、見ていろ……」


 思索しさくの海に沈んでいるラリカを引き上げるように、私は思いつくままに術式を構築していく。


 今回発動するのは、中級魔法の『氷槍ひょうそう』だ。

 直径 5cmほど、長さが2m程の氷の塊を高速で射出する魔法だ。


 中級魔法において、槍を放つ魔法はメジャーなのか、多くのバリエーションが存在している。

 

 術式をきちんと構成して、魔力を注ぎ込んでいく。

 ――大丈夫。私の眼には術式がしっかりと見えている。


 魔法陣が展開され。血液が体内を巡るように、魔法陣内を魔力が満ちて循環し、中心に魔力が集中される。


 ――小さな氷の粒が、魔法陣の中心にできた。

 見る間に、その粒は膨らんでいき、幾重にも氷の膜が包み込むように、氷の槍が形成されていく。

 パキリ、パキリ、と大気との温度差に氷が爆ぜる音が小さく響いた。


「――っ、氷槍ひょうそう!」


 ラリカに合図するために大きく掛け声を掛けると、高速で氷の槍が飛んでいく。


 飛翔した槍は、そのまま弾丸のような速度を維持したまま100mほど先に見える、背丈の倍はあろうかという岩に激突すると、大岩の表面に激突した瞬間。その内圧を解放し、炸薬でも仕込まれていたのかという規模でもろともに炸裂し、白い雹粒と石粉を辺りに散らした。


「「おおッ――!」」


 ――っと、いかん。思わず、声を出してしまったうえ、お互いの声がハモった。

 

 ……元より成功する確信はあった。


 だが、それが『どれくらいの威力か』というのは想像しようも無かった。思わず、その簡便さに対する威力の大きさには驚かされてしまった。失態である。


 隣ではラリカも、目をこぼさんばかりに見開いて驚きを露わにしていた。


 しかし……こんな威力の魔法や、より威力の高い上級魔法がつるべ打ちに打ち出されることを考えると、この世界の戦場はかなり悲惨な様相ようそうていしていそうだ。


「今、『氷槍』と言っていましたね? 普通の氷槍に比べて随分と威力がありました。なにか、特別なことをしたのですか?」


「そうなのか? ただ私は知っている術式を発動しただけなのだが」


「ええ。随分威力が強化されていますね。通常の氷槍では、岩の表面を削って終いでしょう」


「……そんなものなのか?」


「後で魔法陣を見せてください。確認します」


 どうやら、多数の亜種があるらしきこの術式の、このアレンジが強い効果を発揮したようだ。

 ラリカが興味深々な様子で砕け散った岩を観察している。


「しかし、本当に術式魔法が使えるとは……うらやましいですね」


 そうこぼしたラリカは少し悔しそうだ。


 ――おそらく、ラリカがショックを受けるだろうことは初めからわかっていた。


 それは誰だって、自分がどれだけ練習してもできなかったことを、ペットに先を越されれば少しは思うところがある。それでも、ここはラリカに私の力を知ってもらわなくてはならなかったのだ。


 ――ラリカに、生きてもらうために。


「要はだ、こんな風に私は魔法が使えるのだから、ラリカが魔法を使えるように、一緒に考える。だから、共に頑張ろうッ!」


「ええ。――ええ。そうですね! ミルマルでも魔法を使えるのですから、人間である私が魔法を使えないなどと言い訳していてはだめですねっ! やってみましょう!」


 そういって、小さくガッツポーズをとりながらラリカは私に決意を表明した。


「では、実際に魔法を発動できるか、一度試してみるか?」


「わかりました。術式は何を使いますか?」


「そうだな……初級魔法の『点火てんか』で良いのではないか?」


「『点火』ですね。わかりました」


 そういって、ラリカは目をつぶると、杖を捧げて術式の展開を始めた。あわせて魔法陣も展開されるが、初級魔法だけあって、小さくシンプルなものだ。


 空中に一瞬でえがえられると、ラリカから魔力が流れ込んでいき、周囲からラリカに向かって光に粒が集まってゆく。


 ――だが、それに呼応するように、まるで昨日の焼き直しのように、術式ははぼろぼろと崩れ去っていった。


点火てんかッ!」


 一際大きく大きく叫ぶが……その時にはすでに魔法陣も。術式も。こと『魔法』を発動するのに必要な要素はすべて消え去ってしまっており、なにも起こることはない。


「失敗……ですね」


「の、ようだな。初めから想定していたことだ。気にするな」


 正直に言って、なかなかに衝撃的な光景ではあるのだが、想定していた範囲内のことではある。だから月並みな言葉で、せめてラリカが落ち込みすぎないように慰める。


「そ、そうですね。初めからわかっていたとはいえ、意気込んでいただけに、ショックが……普通、初級魔法は普通に魔力があって、魔力を知覚できるものであれば、術式に魔力を注ぎ込めば発動するはずなのですが……」


 ただ、やはり私の下手な慰めでは、ラリカの落ち込みのカバーはしきれなかったようだ。ラリカの寂しそうな声に、胸の奥がズキンと痛む。


 ――ならば、せめて少しでも先につながる方向へ誘導するとしよう。


「今までに、なぜ発動できないのか、ほかの人に聞いてみたことはあるのか?」


「……ええ。もちろん。……ありますよ」


「その結果はなんと?」


「ええと……『魔法陣が消えるのは、集中が足りていない証拠』と言われました」


「集中か……」


「はい。元々、『魔法陣が途中で消えてしまう』というのは、魔法の失敗としてよくあることです。大概その時は、『魔法を発動できるだけの魔力が足りない』場合か、『集中を切らして術式を構築・維持できていない』場合がほとんどなのだそうです。初級魔法で魔力が足りないというのは、さすがに考えにくいので、おそらく集中が足りていないのだろうと」


「そうか。では一度集中力を鍛える方向で考えてみようか」


「わかりました」


 とりあえずの方向性のみ決めてしまう。この際、方向性があっているかは二の次だ。

 時間の限られている今、ラリカのモチベーションを下げることなく、ひたすら次々試していくことが肝要かんようなのだ。


「とはいっても、集中力を鍛えると言うのはなかなか難しいな。正直、初級魔法はほぼ集中など必要ないような物のはずなんだが」


「……らしいですね」


「一応、方法としては、根本的に集中力を上げる方法か、魔法を使う際に魔法に対してのみ集中できる環境を整えてやるという二種の対策に分かれるだろう。ただ、ラリカの普段の様子を見ていると、基礎的な集中力が足りないようには見えないが……そうなると、魔法を使う際に呪文や動作と結びつけてみるか」


「呪文や、動作ですか」


「そうだ。魔法を使う時に、一定の行動を取る事で、強制的にトランス状態に持っていけるように訓練する方法だ」


「教会が神術を行使する際に使う祈りのようなものですね」


「なるほど。すでにそう言った習慣自体はあるのだな。ラリカは試した事はあるのか?」


「すみません。今まで、魔法を使う時に神に祈る意義を見いだせていなかったので、挑戦してみた事はありません」


「――良く言う。そうか。ならば挑戦してみる価値はあるな」


「分かりました。やってみましょう。しかし、呪文や動作というのはどんな事をすればいいんでしょうか?」


「何でもいい。なんとなく自分の気持ちが盛り上がるような言葉を言ってみたり、しっくりする動きをしてみれば良いさ」


「……なかなか難しいですね。とりあえず教会の祈りを参考にしてみましょうか」


「そうだな。とりあえずやってみろ」


「分かりました」


 そういって、杖を左手に持ち替えて右手を自由にしたラリカは、目をつぶると小さな口をゆっくりと開き呪文をつぶやき始めた。


「火を司る赤の神、ユーニラミア、なにとぞ我が願いを聞き届け大いなるお力をお貸しください。我はヴェニシエス。神を求めるもの。追求するもの。真の摂理を守護するもの――点火てんかッ!!」


 ……物々しく呪言じゅげんを読み上げ右手を大きく振り払った姿は、非常に若者らしい格好良さを持っているのだが、右手を振りぬいた瞬間術式が崩壊して魔法陣も消えてしまった。


 そう。そのためいかんせん、どう見ても何もないところで格好いいポーズだけ決めている、ちょっと痛い人が完成しただけだった。


 ざざぁっと草を揺らしながら丘を吹き抜ける風が、なおのこと哀愁あいしゅうを誘った。


「もう、死にたい……」


「こらこら」


 客観的に自分の状況を考えてしまったのだろう。

 羞恥に打ちひしがれ、ラリカがそんな事を言い出した。


 死ぬかもしれない人間がそういう事をいうと、シャレにならないから言ってはいけない。


 だが、考えてみればこれは私の不手際だ。

 痛々しい状況になったのであれば、思いっきり茶化して怒りに変えてしまうべきだったかもしれない。


 先程の光景を、思い返しながら内心深く反省する。


 ――おや?


 もう一度先程の光景を思い返してみる。

 ラリカが、痛々しい――もとい、荘厳そうごんな祈りを口にした後、右手を大きく振り張った。

 その時、術式が崩壊した。


「待て、今のは少し長く持っていた気がするぞ?」


「え?」


 両手で顔を覆っていたラリカが、間の抜けた声を返した。


「今は、詠唱が終わって最後の最後まで術式が崩壊していなかった」


「……術式がですか?」


「そうだ」


「――ちょ、ちょっと待ってください! くろみゃー! お前は他人の術式を認識しているのですか!?」


 慌てた様子で声を荒げながらラリカがそんなこと聞いてきた。

 術式はまさしく読んで字のごとく式のように見えているのだから認識できて当然だ


「そうだが……? 何かおかしいのか?」


「ええ。普通、術式というのは、自身で魔法行使に当たって認識するものであって、他人から認識できるものではありません。それに、私たちが式を構築する際も、普通は魔法陣を中心に逆算する形で術式を認識しています」


「そうなのかっ!?」


「そうです。ですから、魔法行使というのは魔法陣学、魔法紋章学といった分野による解析の結果進展している分野でもあるのですよ」


 物を知らない教え子に、噛んで含めて指導するように説明する。

 なんというか、説明している時のラリカはとても生き生きしている。

 案外、魔法が使えるようになれば将来は研究職など向いているかもしれないな。


「本当に、よく勉強しているんだな。だが、そうなると、人に魔法を教える時はどうするのだ?」


「まあ、色々勉強だけはしていましたから……術式転写じゅつしきてんしゃという魔法を使うのです。術式転写の魔法を覚えていない人は、転写するための道具を使いますね」


「そうか。じゃあ、この術式が見えるというのは、おそらくミルマルの特性なのだろうな。私も転写の術式なら知っているが、そういう時に使うんだな」


 嘘をついた。本当は、たぶん雪華の力だ。

 ミルマルという生き物、いや、魔法を使う生き物と意思疎通ができないのを良いことに、厄介ごとはすべてミルマルという種族に押し付けておく。

 この先、万が一にも話すミルマルが現れたときは、その時はその時で考えよう。


「――本当に、知性あるミルマルというのは反則的にずっこいですね。むしろいままで人間や魔族しか魔法が使えないとされていたことの方が驚きなくらいです」


「それだけ知性あるものがすくないという事なのだろう。では、その恵まれた特性を生かして詳しくラリカについて調べて行くぞ。さしあたっては、どの時点で術式が崩壊しているのかの調査からだな。もう一度さっきと同じように魔法を使ってみてもらえるか?」


「良いでしょう。分かりました。――行きますよッ!」


 あまりこの話を突っ込まれていると、そのうちボロが出かねないのでなるべくさらりと流すことにする。


 ラリカはもう一度杖を捧げ持った。

 術式が起動され、中空に光り輝く魔法陣が展開される。


「火を司る赤の神、ユーニラミア、なにとぞ我が願いを聞き届け祖の大いなる力をお貸しください。我はヴェニシエス。神を求めるもの。追求するもの。真の摂理を守護するもの――点火てんかッ!!」


 魔法を発動するため叫び声をあげ、魔力が術式に供給される。合わせてラリカに向かって消費されたのと同量程度の魔力が流れ込んで行くのが見えた。

 そしてその瞬間、術式と魔法陣が一瞬で崩壊した。


 結果的に、今回も魔法は発動しなかった。

 だが、今回は魔力の流れに注意しながらみていたから分かった。


「ラリカ! 分かったぞっ! おそらくだが、術式に魔力を流し込んだ時点で術式が崩壊している!!」


「ほんとうですか!?」


 同じ失敗でも、先ほどの間抜けな様子とは違い、今までお互いに気が付いていなかった情報に興奮しながら、熱のこもった声を上げる。


「ああ。今確かに術式に流した瞬間に術式が壊れるのが見えた」


「ということは、魔力を流し込む時点で制御が乱れているということでしょうか?」


「いや、そう決めつけるのは早計そうけいだ。……だが、もしそうなら、ゆっくりと集中しながら魔力を流してみるか」


「分かりました!」


「火を司る赤の神、ユーニラミア、なにとぞ我が願いを聞き届けっ! 祖の大いなる力をお貸しください! 我はヴェニシエス。神を求めるものッ!! 追求するものッ!! 真の摂理を守護するものォッ!! ミアッ! ミアッ! ミアッ! ――点火ッぁ!!」


 二つ返事で答えると、興奮したまま呪文を詠唱し、右手をふるった。

 ラリカが慎重に魔力を術式にゆっくりと流し込むと、周りからラリカにゆっくりと魔力が集まり始めた。

 魔力がゆっくりゆっくりと術式に流れるにつれ、術式は強い輝きを上げながらぼろぼろと崩れていった。


 ラリカの様子は真剣そのものといった様子で、とても集中が乱れているようには見えない。

 第一、魔力が流れ込むまで術式も魔法陣も非常に安定している。

 これは、集中力の問題だとはとても思えないぞ。


「くろみゃっ! どうですか!?」


「……やはりそうだ。魔力が流れ込んだ時点で術式が壊れていっている。恐らくこれは集中力の問題ではないぞ」


「やはりそうですか……今までも薄々集中力が原因ではないのではないかとは思っていましたから、まあ、ある意味納得です。ですが、そうなると、なぜ魔力を流し込んだ時点で術式が崩壊してしまうのでしょうか……」


「魔力も十分すぎるくらいだ。もう少し何パターンか実験してみよう」


 その後、使用する術式を変えてみたり、注ぎ込む魔力の量を変えてみたりしたが、『魔力を流し込んだ時点で術式は耐え切れなくなったように崩壊してしまう』ということのみが分かり、以降の進展は無かった。


***


 夕暮れの街並みを、とぼとぼと、夢破れた敗残兵の如く家に向かって歩きながら、ラリカが口を開く。


「結局、私は魔法が使えないのでしょうか……?」


「いいや、まだあきらめるのは早すぎるぞ。今まで今日は術式に魔力を注ぎ込んだ時点で術式が壊れてしまうことが分かったんだ。それだけでも大きな進歩だ」


「ええ、まあそうなのですが……そのせいで余計に私に魔法が使えないんじゃないかという気がして来まして……」


「なに、そこは考え方次第だ。術式を崩壊させずに魔力を上手く注ぎ込めないことが原因なのなら、魔力を注ぎ込める術式を探せば良いだけだ。今まで、初級魔法だけしか実験していないからな、中級以上の魔法ならひょっとしたら問題なく発動できるかもしれん。私は術式の数だけは知っているからな。総当たりで探していけば一つくらいは使えるものがあるだろう」


 なにかとネガティブ思考になりがちなラリカにあくまで楽観的な見通しを伝える。

 人は、弱っているときは、たとえそれが屁理屈であっても他人から楽観的な話題をされればそれだけでも支えになる。


「……っそうですね! 落ち込んでいても仕方ありません! 昨日までならそんなことすら分からなかったんですからッ! くろみゃー感謝しますよ。 今日の夕御飯はたっぷりにしてあげます! その小さなお腹がはちきれると覚悟するがいいです! ……そういえば、今日はお昼ご飯を食べていませんね」


 ぐじぐじと悩む自分を振り払うように声を出し始めたにも関わらず、途中で明らかにトーンダウンしながら続けられた言葉に、ハッとした様子で目を見合わす。

 ラリカは魔法の実験に熱中しすぎてこの時間になるまで全く気が付いていなかったようだ。

 ……私も全く気が付いていなかった。


「……そうだな」


 どっと噴き出した疲れを押し流すように同意した。


 


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◆◇◆ ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。 ◆◇◆

「ラリカ=ヴェニシエスは猫?とゆく。」
◆◇◆                   ◆◇◆

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これからも、お付き合い頂ければ幸いです。

*******↓ 『もうひとつ』の物語 ↓******

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