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僕が彼女に見せられた紙は、なんとも『彼女への告白』を意味も含めた詞だった。それも、彼女の名と同じく「春」と言う名の。
呼吸というものはコレほどにもゆっくり出来るのかと思うぐらい、時間を緩やかに刻みながら僕は息をした。
「ビックリした?」彼女は微笑ましい顔で、僕の顔を覗き込んでくる。そりゃあ、ビックリするのも当然だ。本気で告白してから、この紙は無くしたものだと思い込んでいた。いや、棄ててしまったと思い込んでいた。それはあまりにも彼女と居る時間が幸せすぎて、今までの過去を消し去るかのように荷物を処分をしてきたから。それを今さらになって僕の目の前から姿を現すなんて、思いもしなかった。
「…どこに?」僕は、恐るおそる訊いた。すると彼女は、くるりと後ろに手を組みながらこれ以上ないばかりの笑顔で呟いた。
「ごめんね。私が、ずっと、ず~~~っと、大事に持っていたんだ~~~!」
僕は思わずこけて笑った。彼女も絶えずと笑った。
そんな彼女だから、僕はいつも一緒にいたいと願って傍に居る。
自分にどんな過去があろうとも、僕の好きなあの海のように穏やかで、時に厳しくて…そんな彼女を心から抱きしめている。でも解っている。そんな僕でも、彼女のことを一番知らない。彼女も、本当の僕を知らない。
海の底を知らないほうが神秘的なように、人間関係も知らないほうが良い時がある。もし彼女に竜宮城のようなもどかしさがあったとしら。もし実は、世界は丸いのではなく平坦で…海の沖の沖が崖だったら…。
そんなことは、今はどうでもいいじゃないか。