この世界に色が付いた日
モテたい
時折ふと思う、この世は数が正義だと
戦争だって基本人数が多い方が勝つし多数決だって多い方が正義だ
戦隊物は正義の味方だと言うが、それも多数の人がそう思ってるから正義なだけでこの世が悪人しかいない世界なら戦隊物は悪になる
つまりこの世界は数が多ければ全て正義となるということだ
これはそんな正義に正々堂々とあらゆる手を使って挑むお話
◇
人は苦手だ、社会も苦手だ
人より優れたやつは妬まれ攻撃されるし人より劣ってるやつはバカにされ攻撃される
理由は自分と違うからってだけで、それだけでそれだけの理由で人は人を攻撃する、排除しようとする。
そんな……そんな
出る杭は二度と出てこれなくなるまで打たれるこの世の中が俺は嫌いだ
この腐りきった世界が大嫌いだ。
……しかし、今日俺はこの腐った世界と別れを告げる。
この世の中から唯一リタイアできる方法いわゆる裏技で
最低最悪な裏技、自殺というもので
自分を自分で殺す方法
その方法はいわゆる首吊りだ
俺が知る限り一番簡単で一番苦しい方法だ。
現在
朝の6時
自分の部屋で俺は一人脚立に立っている、天井から吊り下げられた縄を前に
「………」
だがいざ前にすると怖じけずいてしまう。
大きく深呼吸して心を落ち着かせる、…この後死ぬってのに心落ち着かせるとかなんか変だな
と思い
少し笑えてしまう
「……よし」
決心し
ゆっくりと縄を首にかけ後は俺が立っている足場から一歩踏み出すそれだけで死ねる
これでこの世界からおさらばできる。
やり残したことはない…といえば嘘になるな、たくさんやり残したことがある、やりたいこともたくさんある、だけど今更後悔したって遅いよな、もう決めたんだから
一歩踏み出そうとした瞬間
「死ぬのかい?」
ふとそんな声が聞こえた。
後ろを振り返ってみたらそこにはさっきまでは誰もいなかったはずのソファーの上に金髪の子供が座っていた。
「……誰だ、お前」
「僕かい?僕はコノハ一応神様だよ?」
と自己紹介しながらコノハは俺の元まで近づいてきて
えいっと人差し指を天井に向けた
すると俺の首にかけていた縄が消えた。
「なっ……」
俺は思わず絶句する、今こいつがしたのか、そして動揺したのか足元を崩してしまい、脚立から落ちてしまった。
「痛たっ」
コノハは倒れている俺を見下ろしこう言った。
「どうせ死ぬなら異世界に行ってみたくないかい?」
「………………は?」
俺がその言葉の意味を理解するまで少しの間が空いてしまった
そして、理解する、この子は少し頭がアレな迷子の小学生なのだ、……でもこんな朝早くにか?
「なに言ってんだお前、それにここにどうやって入ったんだよ、人の家に勝手に入ったらダメだって親に習わなかったのか?」
取り合えず年上としてコノハを叱る、俺に人を叱る資格なんてないんだけどな。
その言葉を聞いてコノハは笑う
「まーそうだよね、いきなりじゃ信じてくれないよね。じゃあ信じてもらうために少し行ってみようか」
「何処に?」
「どこってそりゃ異世界にだよ。」
そう言いコノハは俺の肩に手を添えて、行くよーと言った瞬間視界が一瞬真っ暗になって次の瞬間
目の前には青い空、白い雲
そう、俺とコノハは空中にいた
「うわぁぁぁぁぁぁぁ落ちるーー!!!」
恐怖と驚愕のあまり叫ぶ
しかしいくら待っても落下しない
この世には重力と言うものがあって地球で過ごす以上それを避ける方法はないはず、上がったら落ちるのが当たり前なはずだ、ニュートンだって木の上からリンゴが落ちてきて万有引力の法則を見つけたのにそれを無視するなんてだけど実際俺たちは
空中で浮いているのだ。
「おい、これってーー」
俺の言葉を遮りコノハはドヤ顔で言う
「ここは異世界アルクノア、僕が神様やってる世界だよ、だからこの世界なら僕は何でもできる、全知全能なのさ。だから空中に浮くことくらい朝飯前ってこと」
そして次の瞬間また俺の部屋に戻っていた、さっきまでの光景が夢みたいだった。
コノハは笑いながら
これで僕が神様だって信じてくれたかいと俺に聞く
「ここまでされちゃ信じるしかないな、それで、俺をあの世界に招待してくれるのか」
「うん、けどそれにはひとつ条件があるんだ」
「……条件?」
「うん、こことあそこを行き来するのには通行料が必要なんだ?さっきは一瞬だったから僕の力だけで行けたけどあっちの世界に住むならそれなりの通行料が必要なんだ」
急に現実味を帯びたコノハの話を聞いて俺は思う
どこ言っても金か……嫌になってくるな
譲合いの精神さえあれば金なんて本来必要ないのにな、だが人間は貪欲だ、どんなに欲を満たしても際限がない、だから戦争もなくならないし犯罪も減らない一方だ
「通行料、俺学生だし金なんて持ってないんだけど……」
それを聞いてコノハはまた笑う
「お金?あはははっそんな人間が勝手に決めた不明確なもんが通行料なわけないじゃないか」
「じゃあなんなんだよ」
「それはね、簡単にざっくりと簡潔に人間的に説明するなら、幸福ポイントかな?」
幸福ポイント?
初めて聞く、そしてとても胡散臭い言葉に俺は首をかしげる
「なんだそれは?」
「うん、幸福ポイントってのはね、その言葉の通りその人が今どれだけ幸福なのかを数値化したものなんだよ。」
うわっなにそれ、すごい嫌なポイント性だな
「僕達神様はそのポイントをなるべく平等に分けるのが仕事なんだよ」
俺はその言葉に対してイラッときた。
「平等?はっどこを見てそんなこと言えるんだよ、この世界が平等だ、そんなわけあるかこの世界ほど不平等なせかいはないだろ、どれだけ努力しても結果がついてこないし、対して努力してないやつの方に勝利の女神は微笑む、どれだけ正直者でもバカにされ騙され裏切られる、こんな世界のどこが平等なんだよ……」
俺は悔しさで下唇を噛み締める
先程からコノハの話す言葉には悲しみの感情が少なからず含まれている、まるで哀れまれているようでそれもムカつく
俺に哀れみは必要ない
俺に慈悲は必要ない
俺にはなにも必要ない
「……うん、そうだね、この世界は不平等だ、けどね僕達も頑張ってはいるんだよ。でも、人間が増えすぎた、僕達の仕事が圧倒的に間に合っていないんだよ」
ごめんねと
さっきまでとは違い悲しみを表にだし申し訳なさそうに笑う
「いや、俺も少し言い過ぎた。すまん」
お互いなんか気まずくなり一瞬沈黙してしまったがすぐにコノハが口を開く。
「……まーそんなわけでアルクノアに行きたいなら幸福ポイントが一定以上必要なんだよね」
「へーそれでなんポイント必要なんだ」
コノハの瞳が軽く伏せられた。
「……10000ポイント」
それだけ聞いてもどれくらいのポイントなのか良くわからないので
普通の人はどれくらいなのかを聞いてみた
「普通の人は個人差があるけど大体1000ポイントくらいかな」
少なっ!!10分の1じゃねーか
そして気になった事を俺は恐る恐る聞いてみる
「で、今の俺の幸福ポイントは……」
コノハは言いづらそうにしているが一呼吸間をおいて答えた。
「……-500ポイント」
「まさかのマイナス!?」
「僕も初めてみたよ、ここまで世界に絶望している人は逆にすごいよ」
コノハは皮肉混じりに言う
「じゃあ行けねーじゃねーか」
「そだね、だから行けるように僕がお手伝いしに来てあげたんだよ。……こうなったのも少しは僕達のせいでもあるわけだし」
最後の方はか細い声になっていた
「それでどうすれば幸福ポイントが増えるんだ?」
「簡単だよ君が幸せになればいい、君にとって嬉しいことがあれば増える、それをどんどん貯蓄してしていけば貯まるよ」
本当に言うのは簡単だな。だけど実行するのは難しいぞ、それができなくて人間達は自分の他のやつを不幸にしたがるんだから
自分が幸せになれないなら他のやつを自分より不幸にすればいい、そんな理論がまかり通ってしまっているこの世界はやはり嫌いだ。
こんな世界でどうやって幸せになればいいんだ。
「……それができなくて自殺を選んだのに」つい心の声が漏れてしまった。
それを聞いてコノハは優しい口調で微笑むように言った。
「確かに今までは無理だったかもしれない、だけどもう大丈夫」
「……何を根拠にそんな自信満々なんだよ」
それは、ボッチで友達がいない俺には絶対言われることのない言葉
そして、言ってほしかった言葉
「だって君はもう一人じゃない。今は僕がいる!!」
その言葉に俺はつい涙を流す
泣きじゃくる俺を前にコノハは優しく笑いながら俺が落ち着くのを待ってくれた。
5分くらい盛大に泣き、泣き止んだらいろんな感情が湧き出てきた。
俺は気恥ずかしくなりコノハから少し離れる。
そして、恥ずかしさを紛らわせるためわざと大きくため息をつく
「はぁーー……そんなこと初めて言われたわ。」
しかしそこまで言ってくれるなら少しくらい信じて見ても良いかなと思えてしまう
この小さい神様を
「これからよろしくなコノハ」
「うん、よろしくね、大丈夫この世界にも希望はちゃんとあるよ」
と俺とコノハは握手を交わす
この世界にも希望はあるか…それを言うのは無責任な奴か本当の絶望を知らない奴だけと思ってたけど、コノハに言われたら信じてみても言いかなって考えてしまう。
この無色透明な世界に初めて色が付いた気がした。
異世界転生したいけどできないという回でした。
異世界転生の作品は多いのでたまにはこう言うのあってもいいと思い書きました。
この作品は
一話基本4000字くらいです
これから末長くよろしくお願いします。