6.オバQは偉大なり
6 2012/12/20
好きな漫画をひとつだけ挙げろ、といわれたら、迷わずオバQと答えるだろう。
ドラえもんもパーマンも好きだが、オバQはやはり別格だ。
むろん飽きっぽいオレのことだから、好きな漫画はそのときどきでコロコロ変わる。だが、オバQだけはつねにベスト5に入っているような気がする。もう不動の一位として、永久欠番にしてもいいくらいだ。
オバQが誕生して、かれこれ半世紀近くになる。オレの中では超有名なキャラだが、最近では知らない人も多いみたいだ。ドラえもんほどには有名ではない。
なぜだろう。見てくれが白いから? 関係ない。大食漢で犬が苦手だから? まったく関係ない。
キャラのインパクトよりかは、たぶん、エピソードのインパクトに差がありそうだ。
オバQにはドラえもんのような、いわゆるキラー・エピソードがない。『さようならドラえもん』や『のび太の結婚前夜』みたいな泣ける、何度読んでも泣けるような鉄板エピソードが。
オバQの世界は、基本的に、平坦だ。いたって平凡な家庭(大原家)とその周辺地域の日常が描かれているにすぎない。ただ、オバケがいるという一点だけが異常だ。
しかし、本当に異常なのは、オバケのほうではない。人間のほうなのだ。
オバQには実に多彩な「ヘン」な人たちが登場する。彼らこそがこの漫画の本当の主人公であり、物語のモチーフだとオレは思う。
伊達に筆名に大原を頂いているほど、凡庸なオバQ好きではない。語りだしたら止まらない。(誰か止めて!)
わりと有名なところでは、ラーメン大好き小池さん、がいる。いつもラーメンばかり食べている、ちりちりパーマのあのキャラだ。
まあ、小池さんですら知らない人も多いかも知れない。ヘンなおじさん、くらいに思ってくれればいいです。
小池さんは独り身で、いつも袋のインスタント・ラーメンを食べていて、日中はぷらぷらしている。
あの人はいったい何の仕事をしているのだろう、とQ太郎と正太(大原家の次男。のび太的なポジションの少年)はいぶかしむ。どうやら夜中に働いていることは、たしからしい。
小池さんの職業がなにか、気になりませんか? 気になった人は全集をお読みください。ちなみに、オレはもっていません。印象的なエピソードは脳内に保管してあるだす。
小池さんが嫁をもらうエピソードも面白かった。結婚するまでインスタント・ラーメンばかり食べていたので、嫁が心配して、毎晩ご馳走を作ってくれるのだが、それがかえって小池さんには苦痛になるという始末。奥さんの目を盗んで、Q太郎たちのヘルプもあって、小池さんはラーメンを食べようとするのだが……。
はい、結末が気になる人は原作を読んでね。ってオレは伝道者か。
名前は忘れたが、なんか腹の立つ顔をしたおばさんも印象的だった。情報屋とかいうニック・ネームがついた、いわゆる噂話の好きなおばさんだ。しかし、度を越している。
他人の家の内情を、どこかから仕入れ(あるいは盗み聞きして)、あることないこと近所に言いふらす。こんなおばさん、普通いないよね。犯罪ぎりぎりです。
堪りかねたQ太郎は、ついに反撃にでる。情報屋おばさんにピタリと張り付いて、彼女が噂話をはじめようとすると、それを大声でアナウンスするのだ。「(情報屋おばさんが)〇〇さんの悪口いってるよ!」みたいな感じに。
Q太郎はオバケで、姿を消すことができるから、まさに神の声のように聞こえる。追い払いたくても、姿が見えないのでは仕方がない。
きわめつけは、情報屋おばさん宅の食卓の実況中継だ。
「(情報屋おばさんのうちの)今日のおかずはコロッケだよ!」
「キイーッ! いやなラジオねえ……」
姿を消したQ太郎が、ラジオ放送の体で喋っているのだ。
他人の噂話をするのは好きでも、自分のことは触れ回ってほしくない、このおばさんのちょっと可愛らしい一面が見える。顔は腹立つけれど。
あと、このおばさんは独身だ。独身の女性を負け組というつもりはないが、当時の時代背景からすれば、かなり負け組だろう。ある意味アウトローな趣きさえ感じられる。
こういうヘンな人たちの、疎外された感覚というのは、本当に読んでいてゾクゾクする。
さ、オレもオバQみたいな漫画を描こうっと。売れないだろうなあ。