1.なにゆうてんねん...
1 2012/11/23
子どものころの話だ。
たしか小学二年の遠足のときだったと思う。
ウチの小学校では五年生まで毎年、同じ場所に遠足に行くのだが、印象に残っているのは二年生のときと五年生のときだけだ。
五年生のときは最後の遠足だし、多少成長しているので、憶えていて当然だろう。ようするに、それ以前の遠足はほとんど記憶に残っていないということだ。二年生のときを除いては。
小学二年の遠足が記憶に残っているのは、強烈なエピソードがあったからだ。強烈だと感じはじめたのは、大人になってからだけれども。
遠足の楽しみといえば、やはりお弁当だろう。
ふだんは給食だから、お弁当自体がそもそも新鮮だ。
遠足という場なので環境も違うし、景色もいい。おいしくないわけが、ない。
オレは親友のムラマツ君と一緒にお弁当を食べていた。
ほかにも何人かの友だちが一緒だったかもしれないが、残念ながら憶えていない。
ムラマツ君が印象に残っているのは、彼が親友だったからではなく、強烈なエピソードに関わっているからだ。ちなみに、彼とは三年生にあがるときのクラス替えで別になったきり、話をしていない。小学校低学年のときの親友なんて、そんなものだろう。(オレだけ?)
「おいしいね」
と、誰かがいった。うっわ、ぜんぜん憶えていない。ムラマツ君ではなかったと思う。オレでもない。やはり三人以上で食べていたのだろう。
「外で食べれば、なんでもおいしいんだよ」
と、オレがいった。だから、「おいしいね」といったのはオレではないのだ。繰り返すが、ムラマツ君でもなかった。
なぜなら、彼はこのあと、とんでもない台詞を口にしたからだ。
「ウ〇コでもか?」
こいつ、なにゆうてんねん……。
当時(いまから三〇年近く前)はまだ、関西系のつっこみは関東圏では定着していなかった。小学二年生のオレは、当然そんな便利な言葉があるとは知らず、リアクションがとれずに困った。
「バカ、食べ物の話だよ」
結局オレはそう返した。普通すぎる。
ムラマツ君は、きっと、冗談をいったつもりだったのだろう。だが、冗談にも程があるということを、小学生だったオレはこのとき、はじめて学んだ気がする。
小学生というのはアホなので、こういう下品なジョークでも受けたりするのだが、これを大人の世界で、たとえば花見の席などでやったら、エライことになるだろう。
ここらへんが、子どもと大人の境目なのかな、という気が今はしている。
その境目は、子ども時代にはなかなか気づかないものだ。大人になってから、ああ、そういえばあのときのアレって……と、急にわかったりする。
だから、ムラマツ君には感謝している。
ムラマツ君、オレを大人にしてくれて、ありがとう。オレは、きみのおかげで、こんな立派な大人になったよ。
追伸。空気や景色のいいところで食べても、おいしくないものも、あるからね!