六時限目、「それくらい出来無くはないでしょ?」
「ホアチャァ!」
「いでっ!」
校長室から教室へ移動する最中。
俺は隣を歩くハゲからの二ドルキックを受けながら、先ほど校長先生に言われたことを思い返していました。
「ホアッチャァ!」
「いでっ!」
校長先生からの忠告、その一。
『今、我が怠ヶ丘中学には嬉しいことに不良と呼ばれる存在が一掃されています。多分今頃は自宅で大人しく勉強しているでしょうね。あんたたちもそうならないよう、十分気をつけること。いいわね? 不登校は許しません』
つまり、半年前に俺とハゲが通っていた学校と、今の学校とは全くの別物なのである程度の心構えをしておきなさい。ということですね。
何故、不良達が家で大人しくしているのかと聞いてみたところ、具体的な事は後々わかるからと言われました。自分の目で確かめろということですね。
「アチャチャチャチャチャァ!」
「いでっ、いでっ、いでっ!」
校長先生からの忠告、その二。
『風紀が良くなるってことは嬉しい限りなんだけど、あの転校生はやり方がきついのよ。転校してきてすぐに風紀委員なんてものを立ち上げてからは、もう大変だったわ。優秀な人材を集めて作戦を練って、ありとあらゆる方法で不良達を追い込んでいって、最終的には誰も彼女……ううん。風紀委員には逆らえなくなったわ』
つまり、風紀委員は恐ろしい存在なので気をつけてください。ということですね。
不良を一掃するためなら、結構ヤバイ橋でも渡る連中らしいです。
「お前はもう、死んでいる……ホアチョーッ!」
「ぐほぉ!?」
校長先生からの忠告、その三。
『ぶっちゃけ風紀委員はあんたたちのこと目の敵にしてるから、夜道には気をつけなさい。油断してると気付いた時には死んでて、あの世で御先祖様と楽しい酒盛りを開くことになるわよ』
つまり、風紀委員達はかつて二凶と呼ばれていた俺達に絶対接触してくるということですね。
もう不良ごっこを続けるつもりは更々ないのですが、まぁ向こうはそんなこと知ったこっちゃありませんからね。
ですが、いくら更生したとはいえ、売られた喧嘩は買います。ばっちこいです。
ということで。以上、校長先生からの忠告でした。
「トドメだ! ドローゥ、モンスタァカーぁおぶッ!?」
「いい加減にしろ! 人が考え事してんのに、バシバシ鬱陶しいんだよ!」
顔面目掛けて飛んできたハゲの拳を手の甲で弾き、すかさずカウンターの顔面パンチをお見舞いする。
「うぉおっ、痛ってぇ……い、いや。なんか俺、校長室でボコボコにされてたから仕返しをしようと」
「せんでいいわ! つか何倍返しだった今!? お前の恨みには利子が付いてんのか!?」
「いや、あんまり無抵抗だったから気付いてないのかと思ってつい」
「気付いとるわ! あんなボコスカ蹴られて気付かねぇ奴がいたら、そりゃ痛覚の死んでる奴か、もしくはむっつりマゾだわ! 無言で殴られる快感に浸るような奴だよ!」
「うぇ、なんだよ? お前ってその、むっつりマゾとかいう奴だったのか? ……引くわぁ」
例えなんですけど!?
……あぁ。もう弁解するのも面倒だから、もうこいつは放っておこう。
「ふぅ……いや、なんかもうね。なんかもうお前と喋ってると疲れるわ。ごめん、なんかもうごめん。うん、疲れた、疲れましたよ俺は。ごめん、ごめんな栄一?」
「ちょ!? 待てって!? なんでいきなり虚ろな目になってんの!?」
「別にぃ……」
「今度はエリカ様風にいじけた!? ダメだ、もうついていけねぇよ夏樹さん!」
ついて来なくても結構です。
と、そんな馬鹿をやりながら俺達は、これから一年間通うことになる3年c組の教室へ向かった。
最後に、校長先生からのお願い。
『お願いっていうかね、これはあんたたちの心に留めておいて欲しいことなんだけど。できれば今不登校になっちゃった不良くん達を、もう一度学校へ通わせてあげて欲しいの。元リーダーやってたんだから、それくらい出来無くはないでしょ? あくまで強制はしないし、あんたたちのやる気次第なんだけど……校長先生としては、生徒達には皆揃って卒業して欲しいし、進学もして欲しいから……ね?』
つまり、不登校になった奴等を連れ戻すもとい、風紀委員に対抗するための兵隊を集めろってことですね。
お任せ下さい校長先生。この俺を誰だと思っているんですか、泣く子も黙る二凶の片割れ、真鍋夏樹ですよ。
元俺の兵隊だった奴等を集めて、風紀委員の連中をぎゃふんと言わせちゃいますよ。




