四時限目、「おい起きろハゲ。いつまでトリップしてんの」
久々に歳の近い異性と会話したことで上機嫌になった俺は、その後難なく坂を登りきることが出来ました。
アドレナリンってすごいですね。いや、ここは愛の力と言ったほうが聞こえがいいので愛の力ということにしますか。
そして懐かしき母校の校門付近に、なにやら見慣れたハゲ頭が見えました。栄一です。
ヤツは校門の脇で野糞座りをして、誰かを待っている様子ですが、どこからどう見ても質の悪い不良にしか見えません。
「オイ、ハゲ。野糞すんならもうちょっと場所を選べよ、場所を」
「あい? 誰が野糞ですか? 犬の糞みたく、土ん中に埋めちまいますよ夏樹さん? お? 足で砂かけちゃいますよ夏樹さん?」
「は? なにお前? 糞しか出せねぇ汚物製造機さんがいっちょ前になに言ってんの? お前こそ糞と一緒に水洗トイレでサヨナラさせちゃいますよ? 水洗トイレの渦に巻かれて、その内お前も糞と同化しちゃうけどよろしいですか?」
入院中に幾度となく交わしてきた、気持ちの良い挨拶を済ませた俺たちは、互いに睨みをきかせながら歩み寄り。
「夏樹。テメェ朝から訳わかんねーこと吐かしてんじゃねぇよ、身包みひん剥かれてこの坂道で引きずりまわされてーの?」
「うわ、なにそれどこの西部劇? そのハゲ頭でカウボーイ気取りとか超ウケんだけど? 馬にも乗れないカウボーイ君は、かわいらしく三輪車にまたがってんのがお似合いと思うけどね俺は」
互いの胸倉を掴み合いながら、今にも喧嘩をおっぱじめようという勢いで罵倒し合う。
入院したての頃は、この流れで日々喧嘩に明け暮れていたのだが。しかしながら時が経つというのは不思議なもので、今となっては。
「……はぁ、わかったよ。突っかかって悪かった、久々の学校だから少し浮かれてたんだ」
俺の方から胸倉を離して素直に謝る。ふはは、成長したな俺も。
「あ、あぁ。いや、こっちこそ熱くなってたぜ。確かに俺も久々の学校で興奮してたっつうかよ」
そんな俺の行動を見て、ハゲの方も慌てて胸倉を開放した。
きっと自分だけが熱くなっていたと思って、恥ずかしくなったんだろう。
大丈夫だぜハゲ。なにせ俺の方は、もっと熱くなってるからな。
「夏樹、すまんかっ」
「隙ありぃッ!!」
「……ふごっ!?」
反省したハゲが頭をぺこりと下げた瞬間、思い切りブツを蹴り上げました。とても痛そうです。
「ぶっはははははは!! ブワァーカ! この俺が売られた喧嘩を買わない訳ねぇだろ! 半年間、病院で何を学んできたんだ貴様は!」
「ぐおぉおおお……夏樹ィ……てめぇ、ぜってぇ殺す……」
「は? 殺す? おいおい、その縮こまった身体で何ができるっていブベラァッ!!?」
股間を抑えながら悶絶しているハゲを指差して盛大に爆笑している俺を目掛けて、縮こまっても尚、巨体であるその身体で、ハゲが思い切りタックルをかましてきた。
一瞬、トラックに撥ねられた映像がフラッシュバックする程の衝撃を受け、俺の身体はかなり後方に吹き飛ばされた。
「はひっ!? ふぅ!? ふぉおおおお!? 息がっ、息ができんっ!? ヒーッ! 苦しいッ!」
「はははははは! 無様だな夏樹ィ! たかがタマを蹴られたくらいで、この俺様がくたばるわけゲゲボボウェッ……」
地面でのたうちまわる俺を指差して勝ち誇っていたのも束の間、タマを激しく負傷したハゲは高笑いをしながら泡を吹き、白目を剥いて野に伏した。
「哀れな……ヤツだ、ぜ……」
ちなみに俺の方も、ハゲの後を追うようにして意識を手放した。
あ、続きます。あしからず。
ハルク○ーガン並の筋肉オバケと格闘した末、見事に気絶してしまった俺が目を覚ますと、そこはコーヒーのいい香りが鼻をくすぐる、随分と奇麗な部屋だった。
どうやらソファの上に寝かされていたらしい俺は、ゆっくりと身体を起こす。
「こ、ここは……?」
「あら、起きたみたいね? ここは校長室よ。ホラ、早くそっちの武田さんを起こして頂戴」
「え? あ、はい」
起き上がってみると、部屋の窓際にいた女性が声をかけてきた。
なんか怖そうなお姉さんだな。俺の予想するに校長先生っぽいけど、それにしては若い。
「おい起きろハゲ。いつまでトリップしてんの」
「あぁーん、駄目っすよぉナースさぁーん。起こすならもっと優しくぅー」
「オーライ、優しく起こしてやんよ」
「……ブフッ!?」
さっきの俺と同じようにソファに寝かされていた栄一の鳩にエルボーを落としてやった。