三時限目、「半年? 嘘、まさか君って……」
どうも夏樹です。退院してきたその翌日、さっそくもとの学生生活を送ることとなりました。
いやぁ、こう何ヶ月も学校へ行かない日々が続くと、逆に学校が恋しくなってしまうので不思議なものです。
まぁ面倒なことには変わりませんけど。
さて、昨晩学校から『明日は校長先生から直々にお話があるそうなので、早朝に登校するように』という迷惑極まりない電話が掛かってきたので今朝は朝の6時に家を出て参りました。
俺の通う中学、怠ヶ丘 (だるがおか)中学校は登るのが非常に面倒な丘の上に建っているので、先程から校門へと続く並木道を一生懸命登っております。いやちょっとこの坂きつい。
「い、いやね? つい昨日まで入院してた人間にね? こんな坂道を登らせようなんて、おかしいとは思わないんですかね? 俺的には、坂の下で学園の皆が暖かく出迎えてくれるんじゃないかなー、くらいの予想はしてたんだけどー」
そんな愚痴をこぼしてみるものの、その愚痴を聞いてくれるのは頭上に咲き乱れる桜の木々だけで。
あーあ、なんだよ。嬉し涙用に持ってきた目薬が無駄になっちまったよこん畜生。
仕方がないので持参してきた目薬を目尻に付け、いかにも『傷んだ身体を涙ながらに動かすカッコイイ俺』を演出しつつ、まだ先の長い坂道を登っていく。
そんなこんなで、頭上に広がる美しい桜など気にも留めず、ただひたすらに足を動かしていると。
「お。視線の先に美少女発見」
言葉通り、前方に一人で桜を眺めている可愛らしい女の子を発見しました。
こんなにしんどい時でも、目聡く美少女を発見できる俺を褒めてやりたいです。
とりあえず、あの美少女のところまでは頑張って歩こう。
などと下心丸出しの決意を固めた俺は、もうちょっとだけ頑張ってみることにした。
「おっ、おはようございまッ!」
やっべ。疲労困憊と緊張で舌噛んだ。
入院中、他の患者さん達に習って元気良く挨拶することを心がけてたのだが、これは失敗だったな。
「えっ、なに!?」
案の定、桜を眺めていた美少女がぎょっとしてこちらを凝視してくる。
「お、おぉ」
そんな彼女に、少し……いや、かなり見惚れた。
白と紺色がメインの少し質素で古風なデザインのセーラー服に良く栄える長い黒髪。前髪はくりっとした大きな瞳の少し上辺りで綺麗に揃えられていて、一目で見ただけで清楚なイメージが伝わってくる。
黒髪ロングぱっつん。まさに日本美人とはこのことだろう、いやあっぱれ。
肌は透き通るような白。からだつきは細いが、出るところはしっかりと……出ていないが、まぁそこは大目に見よう。胸くらい無くても構わんさ。
身長も女子にしてはやや高め。きっと和服が似合うことだろう。
というわけで、俺的にはかなりどストライクな美少女が降臨なさった。
もうストライク過ぎて今すぐにでも結婚を前提にお付き合いしたいくらいだ。あぁ声掛けて良かった。
「いや、すみません。ちょっと息が上がってたんで」
「あ、あらそうなの? 毎日そんなに息切れしてるんじゃ大変でしょうね」
「いやいや。ここ最近学校休んでたから、身体が鈍ってるだけでして。またすぐに慣れかと」
実際はここ最近なんてレベルじゃないけど。
「休んでたって風邪でもひいてたの? もう春だから暖かいけど、油断は駄目よ」
「あ、あぁー、ハイお気遣いどうも。ところで、こんなトコで立ち止まってどうしたんですか? 花見ですか?」
こんな早朝から一人で花見だなんて風流ですね。俺、そーゆーロマンチスト大好きですよってことでまずはお友達から始めませんかー。
という一言を切り出すためにそう尋ねてみると。
「……えぇ、そうね。花見みたいなもの」
もう一度桜を見上げた彼女がどこか寂しそうな顔をしてしまった。
おかしいな、別にそんな顔させるつもりじゃなかったんだが。ま、いいか。とにかく今は結婚を前提にお付き合いすることが優先事項だ。
「そうですか、いやぁこんな朝早くから花見だなんて風流ですね。俺、そーゆーロマンチストが……」
「あ。そういえば君、私のこと知らないみたいだけど、いつから学校休んでたの?」
「……いや、まぁ。半年くらいですねハイ」
おっと惜しい。台詞を最後まで言わせて欲しかった。
「半年? 嘘、まさか君って……」
そう言いながら、彼女はなにか思い当たる節でもあったのか、俺の顔をまじまじと見つめてくる。
え、なんですかそんなまじまじと? そんな穴空くレベルで見られたら俺溶けちゃうんですけど。
「すみません俺の顔になにか付いてます? あ、でも俺って人当りの良さそうなイケメン面しか張り付いてないんですけどぉー、つってね! っはっはっは冗談ですよ冗だ」
「ねぇ君、気をつけなさい? もう君の通っていた学校は半年前とは大きく変わっているわ。きっと浦島太郎の気持ちを味わうことになるだろうから、そうね。心の準備だけしておくことよ」
「じょ、冗談……」
「それとね? 私、桜は嫌いなの。せっかく風流だなんて言ってくれたけど、私は桜を見てたんじゃなくて桜を睨んでただけ。それじゃ、お先に」
一人でさっさとまくし立てた彼女は、最後ににこりと微笑んでから颯爽と並木道を駆けていってしまった。
「……いや、今の台詞をスルーされると俺死ぬほど恥ずかしいんですけど」
あぁ、そんなつれない態度も素敵です。