二十七時限目、「アァー、クールガイブロンドォー」
未だに男子トイレで現状を把握するための会議を開いている俺と英二でしたが、携帯電話の時計を見てみるとそろそろ一時限目の授業が始まろうとしている時刻でありました。
流石に風紀委員も諦めて帰っている頃だろうとたかをくくった俺達は、授業に遅刻しないよう教室に向け移動を開始することに。
はて、そういえば何故俺は教室を飛び出してきたんでしたっけ。
なにやら大事な用事があったことは記憶にあるのですが、いかんせん思い出そうとすると和尚さんやら海○蔵さんやらハーゲンダ○ツ・アイスの映像しか浮かんできません。不思議DEATHね。
しかし思い出せないんだから仕方がありません、ちまちま思い出そうとしてイライラするよりも綺麗にすっぱり忘れてしまいましょう。
「話戻るけど、なんでお前追いかけられてたんだ? やっぱニット帽うざがられた?」
「ちがうっすよ……多分あの女、オレが金髪だったってこと知ってたんすよね。それで確認のために帽子を外せって言われて、まあ当然断るじゃないすか。そんで口論になって最終的に逃げたオレを追いかけてきて、今に至るっす」
「はぁ、やっぱ一回でも目をつけられると、文字通り地の果てまで追いかけてくるんだな。そりゃほかの連中も再登校なんてできん訳だ」
となると、今の状況で不登校生徒を再登校させたとしても、なにかしらの対策を考えておかねばさっきの英二みたく同じことの繰り返しになってしまう。
対策としてまず考えつくのは風紀委員の沈静化だが、話し合いで解決できる予感が微塵も感じられない。
それにさっきの鉄バット少女の存在がある限り沈静化は更に難しくなるだろう、あんな暴力的な風紀委員もいるなんて予想外だった。戻ったら栄一のやつにも伝えてやろう。
「あ、そういえばさっきの女に追いかけられる前に、なんかゴツくてヤバそうなおっさんにも追いかけられたんすよ。どっちかと言うとそいつの方が危険だったっす」
「それ担任だよ」
「ええぇッ!?」
そんなことを話しながら、教室まで戻ってきたのであった。
「あぁら、おかえりなさいダーリン。マッチョマッチョ」
教室の扉を開けてみると、まず初めに筋肉の気色悪い妖怪が姿を現した。
おそらく栄一だろうが、なぜかヤツはファンデーションだの口紅だのの濃厚な化粧で顔面をコーティングしている。
化物の背後を確認してみると、他の生徒達は我関せずと言った様子で次の授業の準備に励んでいた。懸命な判断だ、俺だってそっち側の人間に混ざりたい。
状況を察した俺は素早く後退し、代わりに後ろに突っ立っていた英二を眼前のハゲに押し出す。
「え、ちょ。なんすか、この筋肉の化粧したお化け。化粧で化ける以前に存在自体が化物なんすけど、なんなんすかやばくないっすかこいつ」
「英二、こいつはきっと人生に迷ってるんだ。一度目の迷いは頭を丸めることで自我を取り戻したが、今再び自分探しの旅に出かけちまっている。早くお前の手で開放してやれ、ほら」
英二は目の前の怪物に恐れ慄いている様子だが、構わずに前へ前へと押し出す。
「ちょ、ちょっ、ちょっ!? やめ、やめっ、やばいっすよこいつ、こい……」
「アァー、クールガイブロンドォー」
筋肉の化物は目の前に現れた金髪パーマの好青年に興味津々の様子だ。
英二が前へ押されるたびに、カモンカモンと両手を広げ獲物を狙うハゲタカの様に両手を羽ばたかせる。ハゲなだけに。
「やばいっすよ! ホント! やばいっすよ!」
「お前さっきからそれしか言ってねーじゃん。ほらトイレで髪セットしてたのってこの時のためだろ? 水臭いやつだぜ、言ってくれたら察してやったのにyo!」
「ヘイッ! ブロンドガイッ! カマンッ! カマンカマン俺オカマンッ!」
「ヘイ! 俺ナツキ! こいつ英二! お前と英二! イイ感じ! ヨウッ、ツガイだ、ヨウッ!」
「ちょ、ほんとやばやばやばや……」
そうしているうちに二人の距離は縮まっていき。
「カマーンッ!」
「ぎゃあああああああああッ!」
南無三でございます、流石にかわいそうなので助けますが。
その後、英二と二人でこの頭の狂ったハゲをぼこぼこに踏んだり蹴ったりしていたら微妙に正気を取り戻したようです。それではさらに続きます。




