二時限目、「死んでくれてありがとね兄貴ぃー!」
看護師さん達による空襲をなんとか凌いで来た俺は、とりあえず駐輪場に置いてあったチャリンコで自宅まで帰ってきました。
ちなみにあのハゲは置いてきました。恐らく生きてはいないと思うので、これで一生のお別れですね。南無さん。
「おーい、入院中一度も見舞いに来てくれなかった薄情者共ー! ついにこの俺が帰ってきたぞぉー!」
つか退院後の迎えも寄越さないってどういうことだね。ウチの両親には愛情ってものが無いのかね。
そんなことを考えながら、自分の家の門をくぐったところで、ふと立ち止まる。
「……ここ、俺の家だよな?」
首をかしげながら三歩下がって、もう一度門の前まで戻る。
そしてこの家の住人名が書いてある表札を確認してみると。
『真鍋 明宏』
これはオヤジの名前。
『真鍋 里奈』
これは愛しい愛しい妹の名前だ。
里奈のヤツ、元気にしてるかな。まぁすぐにわかることか。
後は俺の名前だけだが……
『真鍋 夏樹 は、死にました。ご臨終ぅー\(^o^)/』
……なんだこれ。
ここだけなんかおかしい気もするが、家族の名前が書いてあるからここは俺の家で間違いない筈だ。
ここが自分の家だと再確認した俺は、半年ぶりの我が家へと足を踏み入れた。
さて。突然ですが、ここで俺の自己紹介をさせていただきます。
姓は真鍋。名は夏樹。今年で15になる中学3年生。
昨年の秋頃に、歩道橋から落ちてトラックに轢かれ、半年の間入院生活を送っておりました。
えっと、病院の入口で看護師さんに泣きついていた筋肉質のでかいハゲ、覚えてますか? えぇそうです、先ほど黄泉の国へと旅立ったあのハゲDEATH。
不本意ながら俺は、そのハゲと歩道橋の上で決闘した末、誤って二人仲良く落下し、二人まとめてトラックに撥ね飛ばされた訳です。
何故あのハゲと闘ったのかは覚えていません。おそらく中学生にありがちな、不良ごっこ的な理由だったと思いますが、撥ねられた時の衝撃でその辺の事は綺麗さっぱり忘れてしまったようです。
そして半年という長い月日が流れ、この四月の頭に退院してきた訳ですね。物語はここから始まります。
あとついでにあのハゲの紹介もやっときますね。死んでるけど、もしかしたら生きてるかもだから一応です。
俺と看護師さんは散々ハゲハゲと罵っておりましたが実は彼、禿げてません。
見事な一厘刈りなので、一応禿げてないのですがそれでもハゲです。理屈じゃありませんハゲです。
そんなハゲの名前は武田栄一。
家が空手の道場らしく、親にみっちりと鍛え抜かれた彼の身体はとても中学生とは思えないほどにゴツゴツでデカイです。
とまぁ、ハゲの説明はこれくらいでいいか。もう死んでるし。
そんな訳で本編へどうぞ。
「おぉ夏樹よぉ、天国での生活はどうだぁ? 父さんはなぁ、お前の居ない生活がとても平和で嬉しい限りだぞぅ」
「あぁ! この静かで平和な毎日がずっと続くと思うと、嬉しくて泣けてくるよ! 死んでくれてありがとね兄貴ぃー!」
玄関で靴を脱ぎ、自宅に上がり込んだ俺はとりあえず人気のあった和室にやってきた。
どうだろうか。死んでもいない我が子の遺影を仏壇に乗せ、嬉しそうに近況を報告する家族達。
まぁ仏壇がダンボールで作ってあるから、本気って訳じゃなさそうだけど。
「オイコラ! 俺まだ生きとるっちゅーねん!」
ただいまの挨拶代わりに、怒鳴りながらダンポール製の仏壇を破壊した。
「あぁー! あたしの苦労して作った仏壇がー!」
「ひぃい!? 夏樹ッ、お前! 生き返ったのか!?」
生き返るも何も、死んだ覚えは無い。
つかこの仏壇作ったの里奈だったのか、ヤベ。なんかショック。
「俺が入院してる間! いっかいも見舞いに来なかったと思ったら、家でこんな馬鹿やってたんだな二人共!?」
「違うわバカ息子ぉ! お前がナースさん達に迷惑ばっかかけるから、恥ずかしくて見舞いに行けなかったんだぁ!」
おっとそれは正論だ。すまん親父、なんか俺勘違いしてた。
「違うよ兄貴! 本音を言うと、あたし達は兄貴の居ないひと時を一秒でも長く味わっていたかったんだ!」
「ちょ! 里奈ちゃん、それは言っちゃぁいけないよぉ!?」
「テメェやっぱ殺す! 里奈! もっかい仏壇作れ、今度はこの親父の遺影を飾ってやる!」
「なっ! 親に向かってなんだその言い草はぁ! テメェこそもっかい病院送りにしてやらぁああ!」
半年ぶりの我が家は、今日も平和だったとさ。
あ、続かないから。