十四時限目、「風紀委員が、風紀委員がオレを……」
本日全てのお勤め、というか授業が終わり、放課後。
学生達が部活動や帰宅活動に励む中、俺もまた帰宅部の連中に混ざり帰宅活動に勤しんでいました。
ちなみにハゲは今頃、友民党のウイルス兵器によって天に召されていることでしょう。南無。
「校長先生さよーならー」
「はーい、さよならー! 気をつけて帰るのよー!」
下履きに履き替えて校門までやってくると、帰宅する生徒達に向かって手を振る校長先生の姿が見えた。
せっかくなので挨拶でもしていこうと思った俺は、早足で校長先生のもとへ向かった。
「校長ー、さよならー」
「はーいさよな……うげ、出たわね問題児代表」
「先生、わざわざ挨拶をしにきた生徒に向かってそれはひどいと思います」
「あらごめんなさいね。いきなりだったから、つい本音が出ちゃったわ」
その言い方のほうがひどいです。
「それで、半年ぶりの学校はどうだった? 楽しかった?」
「えぇまあそれなりに。それよりも、風紀委員とやらに一度も絡まれなかったんですが」
「風紀委員? んー、そうね。あの子達のことだから初日は様子見ってところなんじゃない?」
「そんなもんですかねぇ。あ、それじゃそろそろ帰りますんで失礼します」
「はーい、気をつけてねー」
こうして校長先生に見送られながら、俺は学校を後にしたのであった。
あ、坂道を下っている途中で救急車とすれ違いました。南無。
放課後。俺がまず向かった場所は、自宅ではなく寿司屋でした。
決して寿司を食べにきたわけではありません、つかそんな金ないです。
ここには、かつて俺と一緒にハゲ一派と戦ってきた悪友が住んでいる家なのです。
「こんちはー」
「へいらっしゃい! って、なんだ? 夏樹じゃねぇか、久しぶりだな」
「どうも親父さん。ちょっと事故っちゃって、半年くらい入院してました」
「入院だぁ? また馬鹿やってたんだろ、ウチの英二が巻き込まれなくて良かったぜ」
「はぁ……」
息子の親友が入院していたというのに、その反応ですか親父さん。
まぁいいか、もう慣れたもんだし。
「えーっとですね、実はその英二がメソメソひきこもってるって聞いたもんで、尻ぶっ叩きにきたんですけど。英二、今います?」
「オウ、二階でひきこもってやがるぜ。ひきこもりを始めてからもう四ヶ月は経つが、俺や母さんが何を言っても聞きやしねぇ。頼むぜ夏樹、ボコボコにしてでもいいからよ、アイツを学校へ連れていってくれ」
ひきこもりを始めてから、四ヶ月も経つのか。これは結構な重症だな。
「任せてください親父さん。明日にはランドセル背負って元気に登校する息子さんの姿を見せてあげますよ、その代わりに寿司食わせてください」
「そいつぁ嬉しいぜ、明日は朝からデジカメが手放せねぇな。……だが、馬鹿言うんじゃねぇ。ウチの寿司はガキが食うもんじゃねぇんだよ」
「相変わらずケチですね。それじゃ、お邪魔します」
親父さんと軽口を叩きあった後。俺は一度店を出て、裏口からもう一度寿司屋にお邪魔する。
表の扉はお店の扉で、裏口の扉がこの家の住まいになっているのだ。
玄関で靴を脱ぎ、二階にある悪友の部屋へ向かった。
さて、彼の部屋へ突入する前に、軽くヤツの紹介をさせていただきましょう。
悪友の名は萩原英二。かつては俺の右腕として、その名を馳せた男です。
洒落た金髪パーマと二枚目面が特徴のチャラ男で、小手先の速さを競わせるとその右に出る者は居ないでしょう。
ですが腕っ節は貧弱です。本人曰く「俺は非戦闘員であります、サー!」ということらしいですが。
それでは本編へどうぞ。
「おーい、英二くんやーい。遊びに来てやったぞ……お?」
部屋の前までやってきたのだが、どうやら扉の内側から鍵がかかっているらしく、中に入ることは出来なかった。
鍵までかけてあるとは、ひきこもり生活を満喫しているということだろうか。
「おいおい、鍵開けろよ英二。半年ぶりに遊びに来てやったんだからよー」
「……嫌だ、もうオレはここから出たくない……風紀委員が、風紀委員がオレを……」
扉をノックしてみると、部屋の中からすっかり病んでしまったらしい英二の声が聞こえてきた。
「いや俺風紀委員じゃないし。ホラ、早く鍵開けろって。いつまでもひきこもってると、もやしになっちまうぞー」
「嫌だ、出たくない出たくない出たくない出たくない……」
「めんどくさいヤツだな」
どうやら普通に交渉しても無理そうなので、ここは奥の手を使うとしますか。
そう考えた俺は扉から離れると、学ランのポケットから一枚の写真とライターを取り出した。
「……さて。ここに我が妹、里奈ちゃんのお風呂上がりの写真があります。そして五秒後には灰になります。カウントダウンスタート、ごー……」
「里奈ちゃんの写真はどこだぁああああああああ!?」
「早っ!?」
カウントダウンを開始した瞬間、部屋の扉が勢い良く開け放たれ、中から人影が飛び出してきた。
俺は慌てて写真をポケットにしまい、そのまま右方向へと思い切り跳んで緊急回避をする。
「ぐはっ!?」
寸前まで俺の立っていた床に、金髪のチャラ男が顔面から無様に落下していった。
「よぉパツキンさん。ひきこもり生活で随分と動きが鈍くなったんじゃね?」
「オレのタックルをかわす、この動き……そしてこの声……ま、まさかっ!? 夏樹さんっすか!?」
「その通りだよ英二さん。ホラ、ちょっと表まで付き合えよ。久しぶりにどっか行こうぜ」




