十二時限目、「期待シテルゾ、夏樹」
謎の熊に飽きた俺は、一人で教室に戻ってきたわけですが。
この生徒が十人足らずの教室に居たところで結局は暇になるだけです。
ということで俺は勇気を振り絞り、例の友民党の皆さんに話しかけることにしました。
彼等はハゲに因縁を付けられてからずっと箱状の機械をいじっていたのですが、実は結構気になっていたんですよねこの機械。
「なぁ、そのバイオ兵器触らせてもらってもいいか?」
彼等の隣まで行き声をかけると、友民党の一人が箱状のブツから手を離し、ゆっくりと俺の顔を覗き込んでくる。
「……イイヨ」
「お、おぉ悪いな。それじゃ遠慮なく」
それからひとつ返事で快く了承してくれた彼は、俺に箱状のブツを手渡してくれた。
つか、なんで機械越しでも無いのに、ボイスチェンジャーがかかってるんですかあなたの声は。
そう思ったが何もツッコまずにそれを受け取る。
「うおぉー、こいつは中々凝ってんなぁ!」
すげえ! 結構重いし、なんか触っちゃいけなさそうなボタンとかいっぱい付いてる! やっべぇ、興奮してきた! このボタン、押しちゃダメなのか!?
「ソノ代ワリ、付イテルボタンニハ、一切手ヲ触レテハイケナイ」
「あ、押しちゃダメなんだ。やっぱボタン一つでウイルスバラ撒いちゃう感じの機械なのかこれ?」
「……ソウ、半径十メートル範囲ニ、殺人ガスガ、バラ撒カレルンダ」
「怖っ!? でもすげぇ! これならあのハゲにも勝てるぜ! 頑張れよ、お前等!」
ウイルス兵器の観察を終えた俺が友民党の皆を絶賛すると、彼等は照れくさそうに微笑んだ。
「僕達ノ発明品ヲ、褒メテクレタ奴ハ、オ前ガ初メテダヨ」
「うっそマジで!? これ見てなんとも思わない奴とか信じらんねぇ!」
いくら中学生の発明とはいえ、このウイルス兵器はすごいと思うのだが。
まぁこの年頃の連中は、発明だとか武器だとかをダサいと感じる奴が多いのかもしれない。
半年前の俺なら、周りの奴等に合わせて、このウイルス兵器を『ダサい物』と評価したのかもしれないけど。
「……僕達ハ、ドウヤラ誤解ヲ、シテイタラシイ」
「誤解? どゆこと?」
「イヤ、二凶ト呼バレテイタオ前達ガ、コノ教室ニ来タ時。オ前達ハ、キット僕達ノ発明品ヲ馬鹿ニスルンダト思ッテイタンダ」
いや、まぁ更生したからね俺。昔の俺なら確実に馬鹿にしてたと思いますよ。
「ソレニ半年前ヨリモ、ズット大人シクナッテイタ」
「そうだなぁ、確かに随分と大人しくなったなぁ。いやね? 半年間も病院に居るとさ、人様に迷惑ばっかかけてる自分達がなんか馬鹿みたいに思えたんだよ。もちろん人様の頑張って作った物を馬鹿にするなんて論外だな」
「……ソウカ」
俺の話を聞いた彼等は、三人揃って頷いた後。
それぞれの作業を中断して立ち上がり、俺の前で横並びに整列した。
「お、おい。どうしたんだお前等?」
「……コノ、額ノ御札ヲ見テクレ」
「お、御札?」
御札というのは、彼等が朝のHRからずっと額にぶら下げている『更生しますた(´Д` )』と書かれている例のアレだ。
「コレハ、風紀委員ノ連中ニ、『指導』ヲ受ケタ者ガ、付ケル事ヲ義務付ケラレテイル御札ナンダ」
「指導? あぁ。あれか、風紀委員がこの学校を統治したってヤツだな? つまり、風紀委員に目をつけられちまった連中は皆それを付けてるってことか」
「ソウダ。僕達ノ他ニモ、コノ御札ヲ付ケラレタ連中ハ沢山イル……惨メダヨ、コンナ御札ヲ下ゲタママノ学園生活ハ」
「だ、だろうな。俺だったら、そんなもん付けて登校するなんざ死んでも御免だ」
この御札を見てると、風紀委員のセンスを疑いますな。
あ、いや霧島さんは別だぞ!? 美しい彼女がこんなナンセンスな物を作るわけがない!
なんて事を考えながら、話の続きを促す。
「風紀委員ノ『指導』ヲ受ケタ者ノ末路ハ、二ツダ。大人シク、コノ御札ヲ付ケテ、風紀ヲ乱ス事ナク過ゴスカ。ソレデモ尚、抵抗シヨウト、家ニ閉ジ篭ルカ」
「なるほどな。それでこんなにも不登校生徒が居るってわけか」
元々この学校には、馬鹿が大勢いたからな。
我の強いあいつ等の事だ。こんな御札を付けるくらいなら、大人しく家に篭っていた方がマシだと考えたんだろう。
だが甘い、甘すぎるぜお前等。ベコちゃんのミルキーキャンディーも腰を抜かす程の甘さだ。
俺がもしお前等の立場だったら、決して家で大人しくする方法は選ばない。
いや、今更こんなことを考えたところで仕方ないか。
「真鍋夏樹。オ前ハ、アノ風紀委員ヲ止メル事ガ出来ルノカ?」
「……俺だって、こんなつまんねぇ統治の施された学校で一年間過ごすのは御免だからな。まぁ俺なりに頑張らせてもらうさ」
「ソウカ。期待シテルゾ、夏樹」
「任せろ。その代わりに、出来る限りの情報をくれ。風紀委員とやり合う前には、まず情報収集が必要なんだ」
俺の言葉に、彼等は迷うことなく頷いてくれた。
それから俺達は友情の証として、人差し指を空に向けて立てたのであった。




