八時限目、「どう転んでも最悪なんだから」
郷太郎先生にすっかり気に入られてしまったハゲはさておき。
なんとか難を逃れた俺の方は、郷太郎先生が適当に指を刺した席へと移動しておりました。
あのガチホモ教師、相当ハゲにお熱のご様子で、俺のことはどうでも良くなったらしいです。実に嬉しい限りですね。
そんなわけで指定された席にやってきたのですが。
残念ながら例の霧島さんの隣ではありません。しかし、代わりに綺麗なお団子ちゃんのお隣です。
「あ、俺の席ここみたいなんで、しばらくの間よろしくな?」
「……(コク」
椅子を引きながらお団子ちゃんに話しかけると、彼女は視線を少しだけこちらに向けて小さく頷いた。
印象的に物静かそうな子だなとは思っていたが、まさか一言も喋ってくれないとは。
ううむ、せっかくのファーストコンタクトをこれだけで終わらせてしまうのは実に面白くない。
「あぁ、そうだそうだ! 俺ってまだ教科書とか揃えてないからさ、授業中は相合教科書しませんか!?」
「……ぇ」
なんとかこのお団子ちゃんに一言喋って貰いたかった俺は、いきなりとんでもない質問をしてしまった。
どうしよ、めっちゃ驚いちゃってるよ。
あぁでもなんか可愛い! 大人しそうな娘の驚いてる表情が、なんかグっとくる! なんだろうっ、俺ってSの気があったのか!?
「……(フルフル」
結局、彼女の悩んだ末に下した決断はNOだった。
「あー、駄目? そっかぁ、残念だなぁ。仕方ない、授業中は教科書を見ずに精一杯頑張ることにしよう。半年も授業遅れてるけど、大丈夫かなぁ俺……」
「……ぁ、いや。その」
「仕方ないかぁ、怪我しちゃった俺が悪いんだもんなぁ。ここは腹をくくって0点取るしかないよなぁ」
「……そ、そんなつもりじゃっ。あぅ……」
おっと、これは少しいじめ過ぎたか?
顔を真っ赤にしながら慌てているお団子ちゃんを見て、少し反省したその瞬間。
「あっ、ぁ、あの!?」
「うおぉっ!? びっくりした……え、え? どしたの?」
なんと今まで物静かにしていたお団子ちゃんが、勢いよく椅子を引いて立ち上がった。
「いっ、いいです! きょ、教科書っ……わたしのでよければ、そのっ、はんぶんこにしますからぁっ!」
そして教室中に響き渡る程の大きな声で、そう宣言しなさった。
「あー、あぁー……ありが、と?」
あまりにも予想外な出来事に、俺を含め教室に居た全員の眼差しがお団子ちゃんに集まる。
そんな眼差しを受けた彼女は、ついに恥ずかしさの限界を超えたらしく。
「ぁう……ひっ、ひっく。う、うぁああん!」
「えぇ!? ちょ!? どこ行くんだよ!?」
顔を真っ赤にしながら教室を飛び出していきました。
あれ? マジで? 今の完全に俺の所為だと思うけど、あれ? 俺の所為でいいのコレ?
「うぉーい、真鍋ぇー? 初日からなに女の子泣かしてるんだー?」
「うわぁ引くわぁ、あんな大人しそうな子泣かせるなんて鬼だわぁ、正直引くわぁ」
「いやいやいや! 俺、別に泣かせるようなことしてないから!」
教卓の方から、ガチホモ教師とハゲのコンビが俺に向かって非難の声を投げつけてくる。
つかハゲのギャル口調が超キモイ。あれこそドン引きだわ。
って、ハゲの口調はどうでもいい!
やっちまった! せっかくさっきの自己紹介で、皆からの良い印象を勝ち得たというのに、これじゃ台無しだ!
「……ち、違うんです! 違うんですよ皆さん! いや、霧島さん! これには深いようで実はまったく深くない事情がありまして!」
「いや、なんで私に言い訳してるの?」
勢い良く後ろを振り返り、お団子ちゃんの後ろの席に座っていた霧島さんに詰め寄ると、彼女はものすごく迷惑そうな顔をして後ずさってしまった。
「あぁいや! 確かにそうですよね、すみません!」
「ううん。いいのよそんなこと、気にしないでね」
慌てている俺にそう言ってくれて、更に微笑みまで見せてくれた霧島さん。
あぁ、なんて優しいんだこの人は。もう俺、一生ついていきますよ。
俺が改めて彼女に惚れ直していると、彼女は微笑みを絶やすことなく言葉を続けた。
「だってそんな無理に言い訳しなくても、私の中であなたに抱く印象は、どう転んでも最悪なんだから」
……え? どゆこと?




