恋は人を変える魔力とは誰が言った言葉か…?
Act.2 恋は人を変える魔力とは誰が言った言葉か…?
思った通りの反応だった。
告白をあっさりとかわされた忍は、夏流の態度を思い出し、思わず苦笑を漏らした。
「なかなか手強いと思ったけど、ここ迄とはね。
面白いじゃないか。
それこそ、落としがいがある」
彼女に興味があるのは本当の事だ。
好きだと言う告白も、多分、そうなんだろう。
いや、好きというよりは、これは興味だと思う。
これほどの興味を他人に示したのは、人生において二度目だし、自ら告白したのは今回が初めての経験であった。
自惚れではなく、自分は女にモテる。
数えきれない程の告白も受けたし、何人もの女とも付き合った。
そして、相手が自分にのめり込む事が解ると、あっさりと交際を断ち切ってきた。
あくまでも自分のテリトリーに踏み入れて欲しく無かったし、自分を一方的に干渉しようとする彼女達の態度は、滑稽にしか見れなかった。
そんな女達ばかりが存在する学内で、夏流の存在は異質だった。
忍と言う存在に、ここまで感心を持たない存在は初めてだった。
藤枝夏流という女は…。
夏流とはクラスは違えど、成績でいつも上位に入っていたので、名前は知っていた。
特に理系関係では、彼女に成績が勝った事は一度も無かった。
体が少し弱く、不登校が多いながらも常に成績を保つ彼女の名は、頭の中に微かながらもその存在を、忍の脳内に誇示していた。
そして初めて彼女を見た時に、ああ、なるほどと言わざるしか無かった。
自分が想像していた通り、夏流は少し地味な感じの女だった。
だが、よく見ると、一つ一つのパーツが整っていた。
二重で少しきつめな目に、スレンダーな体型。
色素の薄い柔らかい髪を一つに纏めて、厚めの眼鏡をかけていた。
ああ、この眼鏡が彼女の容貌を隠していたんだな…。
ぶしつけに夏流を見つめていると、辛辣な言葉が返ってきた。
「貴方、何様のつもりで人をじろじろ見ているの?
私、貴方に値踏みされる筋は無いんだけど。」
強烈な言葉だった…。
後にも先にも、こんな風に自分に言葉を放ったのは、彼女が初めてだった。
それから、彼女に対しての興味が自分の中で膨れるのが、嫌という程解った。
「自分を罵った女に興味を示すなんて、お前、本当に変わっているな?」
悪友である遠宮に事の経緯を話すと、皮肉まじりの言葉が返った。
「だろうな。
だが、面白いんだ彼女は。
俺に何の興味も示さない、媚も売らない、存在すら認識しない。
ここまで自分という存在を意識してもらえなかったという事は、奇跡に近いと思わないか?」
「お前、本当に自分の事、自意識過剰とは思わないんだな?」
「当たり前だろう?
事実だから。
俺の言ってる事は、何も可笑しいとは思わないが」
忍の言葉に、諦めに似たつぶやきが返ってきた。
「それ、他のやつには言うなよ?
お前、何時か刺されるぞ、他の男に」
「どうして?」
「お前の賢い頭で考えろ、このバカ野郎」
悪友の捨て台詞に、軽く頭をひねる忍に、遠宮は項垂れるしか無かった。
どうして、こいつはこういう所で鈍感なんだ…?
確かにこいつが言う様に、坂下忍って言う男は、全てを兼ね備えていると言っても、おかしく無い男だ。
容貌も然る事ながら、成績も優秀、スポーツも出来る、性格もまあ、そこそこいいハズだ。
的を得た言い方をするので、一つ間違えば敵を作りそうなんだが、こいつのこの口調が功を成しているのか、それとも回りが有り難い事に天然なのか解らないが、学内での評判は上々だ。
多分、時期生徒会長に推薦されるだろう。
なんだが…。
何故、こいつが惚れたのが、あの藤枝夏流なんだ?
あんな、色気もそっけも無い、ただの優等生にどうして傾倒したんだ?
自分に全く興味の無い女に触手がわくなんて、おれはこいつの性格を解っていたとは思っていたが、まだまだ、知り得ない部分があったと言う訳か。
遠宮が考えに耽っている横で、忍は急に立ち上がりだした。
「どうしたんだ?坂下」
いたずらを思いついた様な笑顔を浮かべながら忍は、遠宮にこう言った。
「図書室に、愛しの君を見つけたから、今からもう一度告白しに行く」
「はああ?」
「じゃあな、遠宮」
図書室に歩き出す忍を見送りながら、遠宮は今日、何度とも言えない溜息を零した。
「あいつ、一体どういう性格をしているんだ?」
ああ、もしかしたら、あいつに釣り合うのは藤枝くらいかもしれない…。
改めて悪友の性格を認識し直そうと、心に誓った遠宮であった。