表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「step」  作者: 華南
10/42

「好き」と言う気持ち

Act.10 「好き」と言う気持ち



何かが自分の中で動き出し始めている。


それを私は止める事が出来ない…。




忍との強制デートを終えた夏流は、ベットの上で、呆然と事の成り行きを思い出していた。

思いだした途端、青くなったり、赤くなったり、と鏡台を見ながらまるで信号の様だと、一人突っ込む夏流。

そんな自分を冷静に考えるとバカだなと思い、憐憫を自分に向けたらおしまいだな、と散々な評価を自分に行っている始末。

そして一通り自分の事について考えに収集がつき、最終的に辿り着いたのは、忍に対する自分の心の変化だった。


そして、それを止められない自分の弱さに更に落ち込んでいた。

無意識に忍の姿を思いだす自分を激しく責めた。




「どうして、止める事が出来なかったの?


これで二度目よ、夏流。


状況に流され過ぎ。


もっと、自分をしっかり持たないと、駄目!


そうではないと、私は本当に。」



坂下君の事を好きになってしまう…。



鏡台に映された自分の姿を改めて見て、夏流はそっと、唇に指を這わせた。

唇にまだ残る感触に、忍の熱の熱さを思いだした途端、頬がかっと赤くなるのを、止める事が出来なかった。


そして早鐘を打つ胸の痛みも。


(好きになってどうなるの?


やっと、自分を自制する事が出来る様になったのに。


これ以上、自分の中に踏み込ませたら駄目。


解っているはずなのに。


傷つくのは自分だって、何度も経験してきた事じゃないの!


なのに、私って、なんて学習能力が無いのかしら。


バカよ、夏流。


本当に、バカ…。)


いつの間にか、涙が頬を伝っていた。

過去の出来事が頭に蘇り、止めどもなく溢れる涙を抑える事が出来なかった。





時間は残酷だと、今日程実感した事は無い…。


結局、あの後一睡も出来なかった夏流は、重い頭を抱えながら、忍の迎えを受け入れた。


穏やかな微笑みを自分に向ける忍の存在が、やけに憎らしく思った。


そして胸に沸き上がる不可解な感情に、いらいらが募っていた。



(どうしてそういう目で私を見るの?


そんな目で見つめないで欲しい。


勘違いしてしまう。


私の事を本当に想っているって言う錯覚に。)


歩行を緩めた忍が、ふと、言葉をかけた。


「今日はやけに静かだね、夏流。」


「…」


「夏流?」


一言も言わない夏流の様子が気になったのか、忍は夏流の顔を覗き込んだ。

見た途端、忍は有無を言わずに夏流の腕を掴んだ。



「な、何するの?」


「今日は学校を休め、夏流。」


「どうし…」


それ以上の言葉は続かなかった。


真っ青になっていた夏流は、意識を失い、そのまま忍の腕の中に倒れ込んでいた…。


ひんやりとした手が額に触れている。


気持ちいい。


もっと、触れて欲しい。



「もっと?」


「気がついたか?」


「坂下君?


あれ、私、どうして?」


「貧血を起こして倒れた。


全く、一睡もしなかったのか?


昨日は。」


(バレている…)


苦虫を潰した様な表情で俯く夏流に、壮大な溜息で答える忍。

その2人の間に、時計の音が、こくこくと音を立てて動いてる。

リアルにその音が耳にこびり付いて離れない。



静けさと、気まずい雰囲気が2人を覆った。

重苦しい空気に耐えられなくなり、横目でちらりと忍の様子を窺うと、不機嫌さを隠そうともしない態度でソファに座っていた。

自分に投げかける視線の冷ややかさに、夏流は、一瞬、目を瞑って逸らした。


(お、怒られる。

嫌だな。

え?

ちょっと、待って。

どうして、怒られると思わないといけないの?

違うのでは。


そ、そうよ。

何、勘違いしてるの?

もう、夏流のおバカ!)


いつの間にか夏流は忍が側にいる事も忘れる程、自分の世界に浸っていた…。

そんな夏流の態度に、忍は普段の冷静さを失い、沸々と沸き上がる怒りに身を任せていた。

自分がどれほど夏流の事を思い、心配したか、当の本人は何も気付いていない…。

それだけではない。

自分の昨日の行動が夏流を不眠に追い込むまで悩ました事に、罪悪感を感じていた。

性急すぎる事は解っている。

だけど、自分の想いを自覚して押さえられる程、自分は理性的ではない。

今だってそうだ。

夏流が自分の考えに浸り、自分の事を知ろうともしない。

何故、自分がこれほど不機嫌なのかも解ろうともしない。

一方的な想いではない事は、今朝の夏流の様子を見て解る。

だが…。


心の中で色々な感情が飛び交い葛藤していたが、ぶちり、と理性の糸が切れた。

最後に忍の心に残ったのは、自分の想いをあくまでも拒否し、受け入れようとしない、夏流の態度に対するやるせない思いと怒りであった。

結果が出ると行動に移るのが、忍の性分である。


ワントーン低い声で、夏流に怒声をあげた。


「そこで、一人妄想に入るなよ。


全く、どうしてそう、いつも自分の考えに浸るんだ?


いい加減、人の言葉に耳を傾けろよ!」


忍の声音に一瞬、目をぱちくりさせる夏流。


もし夏流が、今の忍の心情を知ったら、全く持って迷惑極まりないと言い放つであろう。

実際、自分の感情を上手くコントロール出来ない自分にどうしようもなく忍は、イライラしていたのだから。


いつもの忍とは思えない物言いに夏流は怯んだが、何故、自分がここ迄怒られないといけないのか、と、疑問符が頭に飛び交った途端、それは違うだろうと思い、反論に応じた。


「な、何ですって〜!!!」


「そうだろう?


夏流はいつも、俺の言葉を受け入れようとしない。


どうしてだ?」


ベットから起き上がって反論した夏流に、忍はじりじりと詰め寄った。


20畳ほどはあろうかと思われる洋室に、セミダブルのベット、モノトーンの家具に揃えられた部屋は、まるでモデルルームの様だ。


その時夏流は、初めて知らない場所で横たわっていた事に気付いた。


「ねえ、ここは何処なの?」


「…」


「ねえ、坂下君」


何度も聞いても、一向に忍は答える気配はない。


そんな忍に、むすっとした態度を示す夏流を見て、忍は素っ気なく答えた。


「俺の言葉に答えたら、言ってやる」


そんな忍の態度に唖然とする夏流。


(も、もう、何、このいじめっ子の様な態度。


あんたは小学生か!)


忍の不機嫌さを目の当たりにした夏流は、これは早々に引き上げた方が賢いと悟り、忍の問いを無視して、話し始めた。


「何処でもいいわ。


私の部屋でない事は確かね。


有り難うございました。


とても助かりました。


帰ります。


さようなら。」


簡潔にお礼を述べ、ベットから離れて帰ろうとした途端、忍に物凄い力でベットに引き戻された。


何をするの?と、言おうとしたが、忍の表情を見て、夏流は一瞬、強張った。


それほど、忍は怒りに震えていた。


怒りを露にした冷たい視線に、夏流はぞっと、背筋が寒くなる自分を実感した。

(こ、怖いかも…。


それにこの状況。


わ、私、大丈夫よね?)


ベットに押さえつけられ、忍がまたがる様にして自分の目の前にいる状況に、夏流は、胸の鼓動が早まるのを押さえる事が出来なかった。

剣呑な眼差しで食い入る様に見つめる忍。


そんな忍の態度に夏流は、小刻みに震える体をどうにか鎮めながら、謝った方が得策だと思い、言葉をかけようとした。


だが、それは忍の呟きにより、遮られた。


耳を疑いたく様な呟きに。


「言葉は受け入れなくても、抱いたら、体は受け入れるよな。」


自虐的に笑いながら忍は、夏流の耳元に囁いた。


「さ、坂下君?」


「そういう関係になったら、流石の夏流も俺の言葉を聞くよなあ?」


「な、何言ってるの?」


夏流の胸元に手をかけながら忍は猫の様に目を細めて、ふっと、微笑んだ。


「別に既成事実を作ってもいいんだよ、俺は。

実際、結婚出来る年齢だし、俺たちは。」


「…え?

どういう事」


夏流の問いを完全に無視し、忍は夏流の制服のブラウスのボタンを一つずつ外しながら、言葉を続けた。


「ねえ、夏流?

俺がどれだけ夏流が好きか、教えてあげようか?

夏流は、いつも俺の言葉を疑っているからねえ。


ふふふふ。」


忍の氷の様な微笑みに、夏流は冷や汗を押さえる事が出来なかった。


そんな最中、ブラウスのボタンが全部外され、忍の目に白いキャミソールが晒されていた。

ゆっくりと体の線を辿る様に首筋に手を這わす。


やめる様に抗議しようとしても、羞恥と恐怖が入り交じった感情が支配して、言葉が上手く出ない。


だけど、このままの状態では、自分の貞操の危機だと悟った夏流は、必死になって、忍の手を遮って抵抗した。


「ねえ、坂下君。

お、落ち着いて。


いつも言ってるでしょう?

恋愛は、お互いの意思を尊重するものだと。


あ、貴方はいつも一方的なの!

私の気持ちを一切無視しての行動でしょう?


今もそう!


本当に、私の事が好きだったら、こんな事しない。」


感情が迸り、ぼろぼろと涙を零しながら夏流は、忍に自分の気持ちを訴えた。


そんな夏流に忍は、冷ややかに言葉を遮った。


「そういう夏流は、俺を正面から見た事はあるのか?


回りの噂に惑わされて、俺を見ようともしない。

言葉を聞こうともしない。


想いを受け入れようともしない。


まあ、想いは…。


自分が傷つきたく無いから、受け入れないんだよな。


怖いんだよな、夏流は。


自分の中に、誰も踏み込んで欲しく無いんだよな。


ああ、解るよ。


大切なモノを作りたくは無いと言う気持ち。


だけど、俺は夏流のそんな気持ちなんて、知らない。


知りたくもない。


俺は。


俺は、夏流の事を本当に想っているから、夏流の心が欲しい。


俺の側で、いつも笑って欲しい。


幸せだと実感して欲しい。


自己完結している未来を、受け入れないで欲しい。


夏流。


俺を、好きだといい加減、認めろよ。」


感情的に言葉を述べる忍に、夏流は言葉を失った。


自分が知ってる忍は、シニカルで冷静で、そして感情に身を任す様な人ではない。

いつも人を小馬鹿にした様な態度を取って、自分をからかって反応を楽しんで。

違う、そうではない。

感じていたはずだ。

彼が自分に対していつも真摯だって事に。

熱い瞳で自分を請う様に見つめられてる事に…。


本当は今の様に感情的で、少し子供っぽくて、優しくて。

そして多分、私の立場を知ってるのだろう。

その上で私の事を真剣に想ってくれる。


涙が出た。

こんな風に想われたかった。


自分の事が誰よりも大切なんだと、ずっと、誰かに想われたかった。


家族には決して求められない想い。


だけど。

これ以上は駄目。


私の中に、貴方の想いは存在してはいけないの。


だって、私はまだ彼を…。


だからあの時の感情を、想いを、悲しみを忘れてはいけないの!


貴方の想いを受け入れる事は、今迄の私を否定する事なのだから…。


「坂下君…」


「俺の事が好きなんだろう?


だから、昨日、一睡も出来なかった。


自覚した自分を受け入れるのが怖かったから。」


お願い、これ以上言わないで!


私の感情を混乱させないで!


「やめて!

もう、やめて!」


頭を振りながら忍の言葉を遮った。


(聞かせないで、これ以上、貴方の想いを私の心に響かせないで。)


「やめないよ、俺は。

夏流が俺の言葉を受け入れる迄、俺は何度も、夏流に言うよ」


「ひどい!


貴方に私の何が解るのよ!


知った様な事を言わないで!」


こんな言葉を私に言わせないで。

これ以上、私を追いつめないで!


「…解るよ。


俺も夏流と同じく、大切な人達を失っているから」


ふらりと、体が中に浮いた様な感覚に陥った。

忍の一言が自分の心の中で木霊する。

そしてやはり、と自分の予測が正しかった事を確信した。


唇が震える。


貴方は何処迄知っているの?

私の過去を、そして今を。


「…坂下君?」


「俺は知っているんだ、夏流。


夏流が週末に何をしているかを…」



忍の言葉に、目を見開き、聞き入った。


やけにスローモーションで言葉を囁く。


違う、そうではない…


夏流の中で、ぷつりと何かが切れた。



「夏流?」


夏流の異変に気付いた忍は、すかさず夏流を捕まえ、抱きしめようとした。


そんな忍の手を振りほどき、部屋から飛び出す夏流を、忍は止める事が出来なかった。


苦渋に満ちた表情で名前を呼ぶ忍。


涙を流しながら夏流は、ただひたすら、ある場所を目指して歩いて行った…


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ