神様(大嘘)にお願いだ!
地殻変動によって古代のダンジョンが発見され一際賑わう都市『ワーレス・ボード』にはとある有名な冒険者が来ていた、その冒険者の名前は『ローズ』冒険者になってから数ヶ月、そして15歳にして帰らずの大迷宮と呼ばれるダンジョンを踏破し熟練の冒険者でも苦戦するモンスターを単独で討伐するなど輝かしい程に出世街道を登っている。
そんなローズは元々居た町からワーレス・ボードに来たばかりでありながらその美貌は周囲の人々の目を釘付けにする、情熱的な赤い髪は動きやすいように纏められてるがまるで夜空を流れる流れ星のように揺れ長い手足に整った顔立ちはすれ違う男達を虜にしてしまう…パッチリとした目と人を疑わないかのような純粋無垢な雰囲気が15歳でも幼さを見せ誰もが彼女が噂のローズなのだと理解する。
「頼もう!」
そうして視線を集めながらローズはこの町にあるギルドの戸を開けて中へと入っていく、中では数多くの冒険者がおり古代のダンジョンに挑戦する者や地道に依頼を受ける者など様々いるのがよく分かる…勢いよく入ったのもあってギルド内でも視線が集まり人々は小声で受付に歩いていくローズを見ながら噂話に花を咲かせる。
「あの髪、あれって孤高のローズだよな」
「聞いた事がある、いつもソロでダンジョンに潜っては最下層まで行ってるって、まさか古代のダンジョンにも行くつもりか?」
「おいおい駆け出しのルーキーが古代のダンジョンに挑むとは思い切りがいいってもんだぜ」
「しかし…中々良い女じゃないか?冒険者なのが持ったいねぇ」
噂話が出回る程に有名人ともなれ向けられるのは尊敬や関心の他に嫉妬や恨み辛みにetc…人の数だけ様々な目線を向けられながらもローズは堂々と受付に立ち受付嬢にギルドカードを手渡す。
「古代のダンジョンに入りたいの!許可してくれる?」
「ローズさんですね?ようこそワーレス・ボードの冒険者ギルドへ、古代のダンジョン…ですね?お噂は耳にしておりますが貴女1人では入る事は難しいですね」
「な、なんで!?」
古代のダンジョン、その言葉に周囲からまさか本当に?というどよめきが起こり受付嬢からの返答にローズが困惑していると受付嬢は更に続ける。
「古代のダンジョンはとても危険でして初めて潜るにしてもせめて4人パーティーを組んでもらわないと…」
「私ソロなんだけど!ぼっちなんですけど…!何とか出来ないですか!?」
「そう言われましても…この町で仲間を見つけて頂くかこちらから斡旋する事は出来ますが…危険な場所ですから慣れたパーティーに新しい方を入れるのを嫌がる所も多く…」
「えぇぇぇぇぇえ!!!!そんなぁ…」
「あのー」
意気揚々としていたローズだが出鼻をくじかれてしまいしょぼくれていると後ろから声をかけられ振り向くとそこには3人の冒険者がいた。
「俺達、今から古代のダンジョンに行くんですけど良かったら一緒にどうですか?」
「だ、誰ですか…?」
「彼らはこの町の冒険者で右からクレーテさんバスターさんムダクさん、半年前から古代のダンジョンに潜ってるベテランですよ」
「ベテランなんてそんな…俺達は回数重ねてるだけですよ」
「ご謙遜を、そうですね…ローズさん彼らなら実力も信用もあって丁度いいと思いますよ」
「うーん」
目の前にいる3人の冒険者は程々に鍛えていて冒険者なのに清潔感がある上にさわかやイケメンから陽気そうなイケメンに寡黙なイケメンと…
「………デェフ…」
「?」
「な、なんでもない!そちらがよろしければお願いします!」
一瞬垂れたヨダレを拭いローズはすぐさま頭を下げ3人は互いに顔を見て頷く。
「なら決定だ、俺はクレーテでこの愛刀で前衛をしてる」
「俺はバスター!このちっちぇ〜ナイフが獲物だけど身のこなしだけは自信があるんだぜ!」
「…ムダク、どんなモンスターだろうが俺の大剣が切り落としてやろう」
「そして…あれ?ウィンプは何処だ?」
「ウィンプ?」
「俺達パーティーの荷物持ちさ、金が無くて死にそうだったのを俺達が拾ったのさ」
「優しいんですね」
「…働かざる者食うべからず」
「す、すみませーん!」
3人のイケメンが剣ナイフ大剣と自身の武器を見せているとギルドの入口から何かが入ってくる、それは背中に大きく積まれた荷物とそれを背負うローブを身に纏った小柄な者であった…体の何倍もある荷物を背負っているのにスイスイと駆け足で進みローズ達の前で止まると深々と頭を下げる。
「おいら買い物してたら道に迷ってしまって!本当にすみません!」
「はははは!まぁこの町は大きいから仕方ない、ウィンプ今日俺達のパーティーに一時的に入るローズさんだ」
「え…?」
「ローズよ、よろしくねウィンプ…ちゃん?くん?」
「あぁこいつは女の子だよ、獣人で力持ちなんだ」
そう言ってクレーテはローブの頭を軽く持ち上げるとその下に白銀の髪に赤目の少女の顔があり、その頭には確かに特徴的な狐耳があることから少女は獣人であるのがよく分かる…目が合うとウィンプは恥ずかしいのか急いで顔を隠しクレーテ達はそれを見て笑う。
「まったく、いつまで経っても人見知りな奴だ」
「そういやローズは何が出来るんだい?随分と有名だけどそこは分かってないんだよね」
「私?ふふふ、聞いて驚きなさい…」
そう言ってローズは静かに口元を手で覆い何か呟いたかと思った瞬間、手を前に出しニヤリと笑う。
「見て驚きなさい!『ファイヤーボール!』」
「なっ…!」
手を前に出したローズの手のひらから野球ボールレベルの炎の塊が現れその場にいる者全てが目を見開く。
「まさか、魔法を使えるのか?!」
「ふふん!そうよ!」
「こりゃ驚いた…魔法なんて大都市に1人いるか居ないかだぜ?」
「…何処で覚えた?」
「残念ながら私はお金持ちの家生まれでも血筋でもない、才能で生まれた時から使えたのよ!」
「なんて事だ…流石は孤高のローズ…魔法で名を挙げてたのなら納得だ、どうりで高そうな装備をしている」
「おいおい本当に古代のダンジョン攻略するんじゃねぇか?!」
「クレーテ達の野郎勝ち馬に乗りやがって!」
元々集まっていた目線が更に強まり尊敬の目が増えていく、今やローズは時の人のように持て囃され誰もが孤高のローズという期待の新星が古代のダンジョンを攻略する事を…
『いや出来ねーよ』
…誰もがちょっとしたお祭りムードの中で1人だけ椅子に座りテーブルに肘を置いてローズに呆れた目を向ける者がいた、その男は真っ黒な服装に赤黒いマントと怪しさ満点で黒髪に黒目な上に目の下にはそういう化粧と言われてもおかしくない大きな目の下のクマが出来ており目立つ容姿だが…誰もその男に目も向けないどころか居ることすら気づいていない。
『そもそも今のファイヤーボールは『俺の』魔法だっつーの!威力も考えずに祈りやがって…これで思ったより小さかったとか言ったらブチギレるぞガキが』
「…思ったより小さかったなぁ…」
『殺すぞガキ!?!?!?!』
大声で叫び立ち上がるも誰も男を見もしない…それもそのはずで男は誰にも見えない『幽霊』なのだから。
男の名前は『アクト』稀代の最悪な大悪党魔術師として15年前に名を馳せていたがとある不注意で誰も来る事が出来ない場所で死んで絶命してまい…
『起きなさい…起きなさいアクトよ』
「ふが…ん…?」
目を開けるとそこは何も無い真っ白な景色、そんな景色で後光を浴びながら1人の女性らしき人影が後光のせいで表情が見えないが微笑みながら横になって寝ていたアクトを見下ろす。
「あ?ここ何処だ?俺…そうだ俺死んで…って事はここは死後の世界ってやつか?」
『飲み込みが早くて助かります、私は貴方達で言うところの女神です』
「激マブな女神だな、二つの意味で」
『貴方は亡くなり魂だけとなりました…そして生前に犯した数々の悪行により輪廻転生させるにも穢れし魂を浄化しなければなりません』
「俺ァいつだって清潔だぜ?俺の息子は3日に1回洗ってるしな」
『黙りなさい』
「ははーん、さては女神様とやらは生娘だな?」
『黙りなさい』
あまり上品な教育を受けてなかったのもあってアクトの性格は終わり散らかしているが女神はめげずに気を取り直して何処からか1枚の紙を取り出す。
『稀代の大悪党魔術師アクト、貴方にはチャンスがあります』
「チャンスだぁ?こんなクソ野郎にも目溢ししてくれるとはなんて慈悲深い女神様だ、んで?俺は何をどうしたらいいんだ?あんたの部屋の掃除か?」
『私の部屋は汚れてません』
「んじゃなんだ?」
『これを』
「んー?」
まるで鏡のようなものを取り出しアクトへと向ける女神、その鏡の中には別の景色が見えており1人の赤ん坊の姿が写っていた。
「なんだこのガキ」
『彼女は広瀬叶愛…異世界人です』
「あぁ?いせかいじん?」
『詳しく言えば違う世界の人間と言うべきでしょうね、彼女は不幸な死を遂げこの世界へと転生したのです』
「はー?転生?そりゃいい、俺もその違う世界とやらに転生してくれるのか?」
『いえ、貴方には彼女の『能力』になってもらいます』
「…………ん?」
サラッと言う女神にアクトは目を点にして首を傾げる。
「なんて?」
『ですから貴方は彼女の能力『何でも叶う能力』として彼女の傍で彼女が望む事を叶えて魂の穢れを浄化し晴れて輪廻転生を行う事が出来るという訳です』
「ふむ……………なんで俺がそんな事しなくちゃならねーんだ!!?!?!?!」
『それ以外となるとフンコロガシとして黄金のフンを作る一生を数万回繰り返し…』
「何でも叶う能力として頑張らせてもらいます!!!」
という経緯があり今に至る、ローズが出したファイヤーボールはアクトが遠隔で出したものであり『何でも叶う能力』の効果とも言える…この能力には3つの条件があり…
1つは必ず自身の口で何を叶えて欲しいのかを言うこと、これは小声でも問題はなく極論アクトが聞こえていれば問題はない。
2つは無理難題は叶えられないというもの、世界の半分が欲しいなど突拍子の無い事は不可能である…言ってしまえばアクトが出来ない事は出来ない、である。
3つは1つずつしか叶えられないというもの、3つの願いを一気に叶えられず1つずつ順番に叶えられるというもの。
『だりー…万回金の糞を作ってた方がマシだったかもしれねぇ…』
そんなこんなで大歓迎されているローズを横目にアクトはため息をつく、ローズはアクトの事が見えず認知もしておらず何でも叶う能力だと認識している…そのため昼夜問わずアクトはローズの気まぐれに願い事をされ働かされているのであった。
「それじゃあさっそく準備して行こう、今日は上層を軽く探索して慣らすつもりだからその身のままで大丈夫だけど休んでからにするかい?」
「大丈夫よ!私そこまでやわじゃないから!」
『願い事で足のむくみを取れって言ってたのは何処のどいつだっての』
「それじゃあ行こうぜ!楽しみだぜ孤高のローズ様の実力を見れるのがよ!」
「…なんだっていい」
そう言って3イケメン達はギルドの出口に歩いていきその横顔を若干ニヤけ顔で見ていたローズだったが…ジッとローズを見ているウィンプが見えハッとなり口元を拭って少ししゃがみウィンプと目線を合わせる。
「どうしたの?私に何か聞きたい事でも?」
「あ、いや、その、あの…」
「?」
「………な……」
「な?」
「…なんでもないです!」
「え?あ、ちょ」
目が合いモジモジしていたウィンプだったが突然怯えたように顔を青ざめて出入口へと走って行ってしまう、1人取り残されたローズはキョトンとしつつ疑問に思いつつも人見知りである事を思い出し納得顔になる。
「まぁこれほど美人なら女の子でも緊張しちゃうよね〜」
『面だけは良いが中身が終わってやがるんだよ』
「よーし、頑張るぞー!」
聞こえもしてないためローズは張り切った様子で出入口へと走っていきクレーテ達の後を追いかける。
『……ま、俺にァ関係ないか』
そしてアクトは…何かを考えながら椅子から立ち上がり面倒そうにローズの後を追うのだった。
この世界ではダンジョンと呼ばれる古い建築物や地下へと続く道が存在する、その多くは過去の君主や盗賊などが財宝を隠し忘れ去れたもので危険と言えばそこに住み着いたモンスターくらいなものである…しかし稀にいつからあるのか?誰が何の目的で作ったのか分からないダンジョンが存在しそれは忽然と現れる事もしばしば…そして古代のダンジョンは忽然と現れたダンジョンである。
「わー…!すごーい…!」
そんな古代のダンジョンへと足を踏み入れたローズは目の前の光景に思わず感銘の声を漏らす…古代のダンジョンは地下へと続くもので整備されているが洞窟を進み抜けた先にあるのは巨大な地下空間であった。
まるでライトのように天井から垂れる発光する木の実のようなもの、地上へと繋がってないはずなのに天井からは日光が差し込んで緑が生い茂り地下空間に点在する地下水と地底湖に反射して地下なのに地上とそう変わらないくらい照らしていた、大きな空洞ながら螺旋状に下へ下へと降りていく形になってるらしく古代のダンジョンに驚いているローズの横をクレーテ達は通り過ぎていく。
「驚いてるところ悪いがよ、さっさと行かねぇと夜になっちまうぜ?」
「そんなに潜るの?」
「いや、このダンジョンは発見されてから結構経ってるけどギルドの予測だと全体の3割も探索出来てないんだ、それはこのダンジョンに住み着いてるモンスターの件もあるけど…」
「…かなり広い、過去にダンジョン踏破を目指し入ったパーティーがまだ戻ってないという噂もある」
「えー、怖い〜」
「まぁ安心しな!俺達はこの道のプロ、だからな!」
「上層の、だけどね」
そう言ってクレーテとバスターはガハハと笑いながら下りていく、ダンジョンと言っても様々あり
必ずしも大きいとは限らない…が…逆に言えば大きくても不思議では無いとも言える。
「結構大変そう…けど俄然に燃えてきた!絶対このダンジョンも攻略して…うわぁ!?」
「…………」
「む、ムダクさん?」
危険で難しそう、だがそれにむしろ燃えていたローズだったが突然背中に背負っていた荷物の重さが無くなり驚いて振り向くとローズの荷物を片手で掴み上げていたムダクの姿がありそのまま荷物はウィンプの方へと投げ渡されウィンプは慌てて荷物をキャッチする。
「…冒険者ならば戦う際に備え手荷物は最低限にしておく事だ、今はウィンプがいる、預けておけ」
「た、確かにそうよね!お願いするわウィンプちゃん!」
「ちゃん…!?は、はい!ありがとうございます!」
「ありがとう…?」
「ギャハハハ!何お礼言ってるんだよウィンプ!」
「あまりウィンプは近い年頃の同性と話す機会も少ないから動揺したのかな」
急なちゃん付けに気が動転してしまったウィンプだったがここはダンジョン、すぐにウィンプは頬を叩いて自身を落ち着かせ他の面々もしっかりとした面持ちになってダンジョンを降りていく…円状の筒の内側に螺旋状の道が下まで続いている構造上ダンジョンを攻略の際に起こりやすい現在地が分からなくなるという事が起こりにくい、巨大故に降りてるのか分からないくらい緩やかな下りを降りながら進むこと30分ほど…
「…思ったより何もいないわね」
身構えていたローズだったがあるのは生い茂る植物のみでこれと言ったモンスターは見当たらない、少し拍子抜けとも言える現象に呆れながら歩きているとウィンプが恐る恐る手を上げる。
「ろ、ローズさん、ここはまだセーフゾーンなんです」
「セーフゾーン?」
「…過去ギルドがダンジョンからモンスターが出てこないように行った作戦の事だ、地殻変動によってダンジョンが発見されたと同時にモンスターが溢れ出て大混乱が起きたらしい」
「だからギルドは必死に冒険者にダンジョンのモンスター狩らせ続けたら古代のダンジョンの上層にモンスターが居なくなった、それがセーフゾーンだ」
「そうなんだ…じゃあここからが本番って事?」
「そーゆーこと、ここは観光みたいなもん…っと、さっそくお出ましだぜ?」
「え?」
ダンジョンが見つかる事がいい事ばかりではないとローズが思っていると遠くから緑が生い茂る場に相応しくない耳障りな音が聞こえてくる、それは鉄の棒と鉄の棒が何回も何回もぶつかり合う音で音がする方向を見ると下へと向かう道から転がり上がって来ていた。
「は、ハリネズミ…?」
鈍く反射する幾千のも針を身に纏い体を丸めて球体になるそれはローズも一度は目にした事のある生物、ハリネズミであった…しかしそのハリネズミの針は何と見るからに金属製で針と針がぶつかる度に金属音が鳴り響いていた。
器用に地面に突き刺さる事無く駆け上がり空中で体を伸ばしてローズ達の位置を確認すると再度体を丸めて球体になるとまさに鉄の針が付いた鉄球。
「アイニーヘッジホッグ、鉱石を齧り体内に鉄分を取り込んで自身の針を変化させるモンスターだ」
「あれ意外と硬いんだよな、どうするよクレーテ!」
「幸い1匹…複数だった場合は逃げるのも視野に入るが1匹なら俺達でも」
「待って!」
生きた鉄の針だらけの鉄球が襲いかかってくると考えれば数が増えれば厄介さが跳ね上がる、それがアイニーヘッジホッグというモンスターの特徴だが1匹しかいないのを見てクレーテ達は一斉に武器を構えるが…ローズはそこに待ったをかけた。
「どうしたよローズ、まさか情が湧いたとか言うんじゃあねぇーよな?」
「違うわ、折角だからここで私の実力を皆に見せておこうと思ってね」
「…ほう?」
「確かにこれから先モンスターが増えてくる事を考えれば知っておく必要はあるが…行けるのか?」
「えぇ、任せて!」
そう言ってローズはサッと右手を構えアイニーヘッジホッグへと狙いを定め…左手で口元を隠す。
「お願いします神様、私に魔法を使えるようにしてください」
『ヘイヘイ魔法でございますね』
ローズ…広瀬叶愛のチート能力『何でも叶う能力』………と言う事になっているアクトは嫌そうな顔をしながら右手をローズの右手と合わせ構える、魔法は何処からでも出せるがローズが出してるという事になってるためローズ目線でやるのが1番楽なため霊体なのを生かして重なる。
構えた右手を中心に空気を電撃が走りローズは目の前にまで迫ったアイニーヘッジホッグへ向けてその魔法の名を口にする。
「『サンダーストーム』」
その瞬間、30cm目の前にまで来て飛び上がったアイニーヘッジホッグに凄まじい稲妻が貫く、そしてそれは一度に収まらず2回目…3回目…4回目…5回目6回目7回目8回目9回目10回目etc…まるで雷の嵐のようにアイニーヘッジホッグへと降り注いだ稲妻が無くなる頃には焼きハリネズミになっており黒く炭化して崩れてしまう。
「…は、はは…マジかよ……すげーなローズ!」
あまりにも規格外な魔法に全員が唖然としている中でバスターが声を上げると他の面々も声を上げる。
「…はっきり言えば少し舐めていた、しかしその認識を改めなければならないと思い知らされた」
「流石は孤高のローズ、孤高だったのは1人でも大丈夫だって意味だったとは」
「いやー私そんな大したことしてないよ〜」
『俺がやったからな』
「そんな謙遜しないでくれ、むしろ俺達も頑張らなきゃいけないと思わされたくらいだ」
「これならマジで下層まで行けちゃうんじゃねーの?!」
「…ローズはまだ来たばかりだ、無理をさせるよりも行けるところまで行き戻るのが懸命だ」
「そうだな、よし…進もう!」
「おー!」
ローズ(アクト)の魔法を見たクレーテ達は少し興奮気味になりつつも落ち着きを取り戻し更に下へと向かう為に歩き出す、イケメン達にチヤホヤされる事に満更でもないローズは少し汚い笑みを内心浮かべながらもクレーテ達の後を追い歩き出す…その背をウィンプが見ている事を知らず。
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言ってしまえば順調過ぎると言えるほどにローズ達は古代のダンジョンを進み続けていた、そもそもクレーテ達3人は基礎がしっかりとした冒険者で油断も慢心もしない堅実な者達なのもありミスも少なく危険という危険は無かった。
「しかしよー!俺達だけじゃこうも簡単に進めてねーよな!」
「…そうだな、強いモンスターがいる場合は引き返していたがローズが倒す事で道が切り開かれる」
「助かってるよローズ、良かったら今後も俺達と組まないか?」
「えー?どうしようかなー?」
「頼むぜローズ、クレーテとムダクをこき使っていいからよ!」
「…おい」
「なんで自分は入れてないんだバスター?」
「じょ、冗談だろって!あははは!」
「…むふ」
歩きながら詰められたバスターはクレーテとムダクに追いかけ回されながら笑い仲睦まじげである、ちょっと期待しているローズは距離を置いて様子を観察していると…いつの間にかウィンプがいる後方にまで下がってしまったらしくぶつかってしまう。
「あ、ごめんね?ウィンプちゃん、周り見てなくて」
「……あ、あの」
「ん?」
「…ローズさん…は…なんでそんなに強くなれたんです…か」
「…強くなれた理由?」
一瞬目が合うもすぐに目線を落とし顔を逸らすウィンプは更にローズに話しかける。
「ローズさん、は…強くて…決断力もあるから孤高なん…ですよね…?どうやったらローズさんみたいに…なれますか?」
「…どうして?」
「……おいら優柔不断で、いつも兄や姉の言う事聞いて来たケド、家計が苦しいから働けて家から追い出されて…どう生きていけばいいか分からなくて…」
「それでクレーテさん達に拾われて荷物持ち?」
「…はい」
そう言ってウィンプは小さな体を更に縮めるようにローブを手繰り寄せて両手で自分を抱き締める、大男が持つような大荷物を軽々く背負うもその姿は獣人の少女で中身も年相応なのだとローズは思い赤い髪を靡かせ顎に手を当てる。
「うーん、そうね、実は私も昔は他人の言う事ばかり聞いて生きてたの」
「!?そ、そうなんですか?」
「そうそう、友達に言われるがまま習い事をしたりバイトしたり受験したり…今思えば自分で何かを決める事なんて片手で数えるくらいかも」
「じゅ…じゅけん?」
「あぁ気にしないで、そんなんだからなーんにも決められなくて…親と喧嘩して…」
『あんたは自分で考えられるのに人の言う事聞いて楽な方向に逃げてるだけなのよ!叶愛!』
「…せめて謝ってから死にたかったな…」
「…?」
「…こっちの話、ウィンプちゃんは何になりたい?」
「お、おいらですか?おいらは…おいらは…」
「それが見つけられてようやく1歩かな?それが見つかったらウィンプちゃんは強くなれるよきっと」
「…ローズさん…」
「おいあれ!」
そう言うローズの顔はまるで大人の雰囲気があり15の少女には見えない、ウィンプは自身のなりない何かというのがよく分からず悩んでいると突然バスターが声を上げる。
「どうしたの?」
「見てくれよローズ!あれ!」
「あれって…道?」
ダンジョンも上層の終わりが見えてきた頃、かなり降りたがそれでもまだまだ下があるのに呆れてしまいそうになる中でバスター達が見る方向にあったのはまさしく『道』であった。
生い茂った地面や壁の中に隠れツタが垂れ下がり一見したらただの自然によって覆われた壁に見える、しかしよく見るとそのツタの1つが取れたのか無くなっており僅かに奥に空間があるのが見えていた…クレーテ達は慎重に近づきツタを除去するとそこには自然に出来たにしては人が横に10人並んでも入れるくらいに大きく整えられた道とも呼べる穴がありローズは穴の中を覗き込むと微かに風を感じる。
「こんな道聞いた事あるか?」
「いやー、無いな」
「…欠けて無ければ気づかなかった、恐らく俺達が初だ」
「え、つまり?」
「この先にお宝があるかもしれないって訳だ!ローズ!」
「よっしゃー!俺達めちゃくちゃ運がいいじゃねーか!」
ダンジョンには歴史的価値や純粋に金銀財宝がある可能性が高く誰も足を踏み入れた事の無い場所は特に期待値は高くなる、そしてそれを発見する権利があるのは初めて見つけた者だけでローズ達は踏破と同等の新たな発見を成し遂げだのだ。
「…………」
「?ウィンプ?」
誰に自慢しても恥ずかしくない功績、それに誰もが喜んでいる中で……ウィンプはローズの手を握った。
「…め…だ」
「え?」
「…駄目だ…ローズさん…『罠』だ…!」
「罠……キャッ!?」
怯え震えながらもウィンプは意を決したかのようにローズの手を強く握りローズの目を見る、その様子からただ事ではないのを感じ取りローズはどういうことなのかを聞こうとしたその直後…凄まじい衝撃が背中に生じてローズは道の奥へと吹き飛ばされてしまう。
「………ィッたぁ…」
「ぅ…」
「う、ウィンプ…大丈夫…」
「あぶねーあぶねー、危うく失敗するところだったよ」
「…?」
幸い土だったため痛みはあるが何処も怪我せずローズはふらつきながら起き上がり横を見ると同じく何故か背中の荷物が無い状態でウィンプが倒れていた、モンスターの襲撃か?そう思いローズは顔を上げると…道の入口にはモンスターはたっておらず…
「…クレーテさん…?」
「意外と頑丈じゃないんだな、まぁ魔法使いは貧弱な魔法頼りが多いって聞くからそんなもんか」
そこに立っていたのは邪悪な笑みを浮かべるクレーテ達であった、クレーテの右手には何も書かれてない紙がありそれを見て霊体のアクトは関心したように口笛を鳴らす。
『へぇ、魔法紙か、もう冒険者くらいなら買えるほど普及してるのか』
「クレーテ…何が…」
「まだ分からないのかローズ?随分と持て囃されてたけどまだまだガキだな」
「…ごめ…んなさい…ごめん…なさい…」
「ウィンプ…」
「おいら…知ってたのに…止めれたはずなのに……」
「…まさかお前が裏切るとはなウィンプ、何も考えれない獣かと思っていたが」
「ま、新しい荷物持ち雇えばいいじゃん!ローズごめんな〜?俺達悪ーい大人なーんだ☆」
「…どういう」
『なるほど、元々ローズが目的だった訳か』
勝手にローズの荷物を漁るバスター達にローズはやっと理解する、自分はこいつらの獲物なのだと。
「…最初からこのつもりだったって事?」
「あぁ、いつもは右も左も分からないこの町に来たばかりの奴を狙ってたんだが今日は大物が来て感情を抑えるのに苦労したよ」
「大迷宮を踏破したんならたーんまりと金は持ってるだろうしな、しばらくは働かなくて済みそうだぜ」
『この様子じゃあの受付嬢もグルだな、ギルドも巻き込んで強盗とは手の込んだもんで…それにここは…』
「…許さない…良い人達だと思ったのに…!サンダーストーム!」
優しくしてくれたのも、気にかけてくれたのも、全てはこの為…ローズを騙すため。
怒りに任せローズは右手を構え魔法を唱える…が…放たれる筈の稲妻は発生せず静寂だけが流れクレーテは可笑しそうに笑う。
「ははははは!!!何も対策してない訳ないだろ!ここは魔法が使えなくなる特殊な場所でね、魔法が使える馬鹿を抑えるのに丁度いいって訳だ」
「そんな…」
『ははーん、天井にある花が原因っぽいな、魔法使う際の魔力を吸ってやがる、マジで手の込んだ事をしてくれたな』
「…後はローズ、お前が死に俺達は仲間を失い悲しむ哀れな冒険者となれば全ては丸く収まる、大人しく死んでくれないか」
「ついでにウィンプ、お前もだよ、何を思ってか俺達を裏切ろうとしやがって…お前は黙って俺達に従ってれば良かったんだよ!」
「…ごめんなさい…ローズさん…ごめんなさい…」
「くっ…」
騙された怒りと殺そうとしているクレーテ達を前にローズは怒りを顕に体の痛みを無視して立ち上がり能力を使おうとする。
「ガッァ…?」
だがローズが動く前に突如としてバスターの姿が消える…否…バスターの体が見えなくなっただけで消えたわけじゃない、生暖かい風とむせ返る獣臭にクレーテとムダクは視線を横へと向ける。
そこに居たのは『狼』であった。
しかしそれはただの狼ではなく人の2倍はある体をしており蒼く毛先にかけて白くなる体毛と鋭い眼光、そしてその口にはバスターが音を立てて食われており…飲み込まれる。
「な、なに…」
明らかに普通ではないそれにムダクとクレーテは武器を構えようとするが瞬きをする一瞬で2人の体は細切れになり地面には肉片だけが残った、その狼は古代のダンジョンで目撃例は無くこんな上層にいていい筈もなく…そもそも存在すら怪しまれているもの。
その名は『フェンリル』…一瞬でクレーテ達を血の海に沈めた怪物は静かに口元の血を舌で舐め取り…ローズとウィンプを見る。
「ヒィ…!」
「……なんでこんなのがここに…」
『…ちと俺の魔法使い過ぎたな、縄張りかどうかは知らないが刺激しちまったわけだ』
明らかに普通ではない存在感を放つフェンリルを前にウィンプは怯えローズも手の震えを抑えきれずにいた、そう簡単に現れてはいけない存在…それが目の前にいるのだから誰だってそうなってしまうだろう。
『いやぁー俺でも倒せるか怪しいぞ、このガキ逃がすくらいなら出来そうだしさっさと逃げろガキ、お前が死んだら俺が輪廻転生出来ねぇかもしれねぇだろ』
聞こえる筈がないがアクトはローズにそう言いながら頭を搔く、例えフェンリルを倒せと言われても難しいと感じていたアクトはそれはローズもよく分かっているだろうと思い逃げる願いが来るのを待っていると…ローズは何故か1歩前に出る。
「…ウィンプ、この先に空気があった、このまま進めばもしかしたらダンジョンのどこかに繋がって冒険者がいるかもしれない」
「…ローズ…さん…?」
『おいおい、マジかよこのガキ』
フェンリルの方へと1歩…1歩と進みながらローズは静かに願う。
「…お願い神様…あの子だけでも逃がしてください」
『まったくこのガキは……ま…こういう事をする奴だとは思ってたがよ』
自分の命より小さな命を、そう願ったローズに対してアクトは呆れつつも仕方ないと思いウィンプの方へと向かう…膨大な魔力を使う転移魔法を使えば1人だけなら地上へと逃がせるがウィンプに使えばローズはこの場に残る事になり空っぽになった魔力でフェンリルに食われる事になると知りつつ。
「ま、って…ローズさん!」
今まさに転移魔法を使おうとしたアクトだったがウィンプは立ち上がりローズの背に声を飛ばす。
「お、おいら嫌だ!ローズさんも一緒じゃなきゃ!」
「………」
「おいら決めたんだ!おいらのやりたいこと…ローズさんみたいな強い女性になりない!」
「…ウィンプ…」
「だからおいらと一緒に逃げようよローズさん!死なないで!」
『………………』
『師匠、死なないでくださいよ、私達はいつまでも師匠の味方ですから』
『………はぁ…仕方ねぇな…一肌脱ぎますか』
泣いているウィンプを見てアクトは踵を返してローズの元に向かい…ローズの背中に『触れる』
「……『さぁて、俺が相手してやるぜ犬畜生』」
ローズの口からローズの声でローズとは違う言葉が出てくる、そして先程までとは桁外れの魔力が右手に集まり魔力を吸う花が次々と萎れフェンリルは…目の前に巨人が現れたかのような錯覚を起こす。
「『神ノ奇跡』」
「……ん…」
目を開けるとそこは古代のダンジョンの入口付近であった、手には自身の荷物があり背中には気を失っているウィンプを背負っておりローズは何が起こったのか分からず…ただ生きて帰って来れたのだと理解するのであった。
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クレーテ達に騙されてから1週間、ギルドの調査によってクレーテ達と受付嬢の悪行が笑えるほどにボロボロと出てきて受付嬢は捕まり重い刑罰になったようだった、古代のダンジョンではフェンリルの報告がありギルドが調査するも姿形すら無く目撃があった場所は下へと降りる道が無くなるほど損壊しており信憑性があるような無いような…保留となった。
そしてローズはこの町に居づらくなり風のように町を出ていき一連の騒動は幕を閉じるのであった。
遠くに見えるワーレス・ボートの町を見てローズは悲しそうな目をする。
「まだ町のグルメ満喫してないのにぃ…」
『そんな事で豪遊するな馬鹿、だから貯金が無いんだぞガキ』
「ダメですよローズさん、おいらの目と耳がある限り無駄遣いは禁止です」
大きな町になればそれだけ食も発展するというもの、それを満喫する暇が無かった事を悔やんでいると…ローズの隣りに荷物を背負ったウィンプが狐耳を揺らしながら釘を刺してくる。
「そんなぁ…」
「立派な女性としてしっかりしてください」
「私そんな胸を張って生きて来てないよぉ…」
「ほら行きますよローズさん!」
「うー…神様タクシー呼んでぇ…」
『黙って歩け』
シナシナになったローズの背中を押しながら歩くウィンプとそれを見てため息をつくアクト、そんな彼女達の旅が…続く?
思いつきで書いたものです、続くかは未定です。




