偽神隠し事件
「忘れてはならない 出会ったことのないヒトがいます 思い出してはならない 訪れたことのない地があります」
また始まった。
この変態占い師、腕はいいが占いを始める前に度々ポエムを残す。
俺は、鼻唄を歌いながら儀式の準備を進める占い師を片目に呆れたまなざしで占いを待つ。
(原理は分からないが、こいつの占いは良く当たるんだよな)
「蝶がみえます 新しい出会いが旅に転機を導くことになる 約束の地は、、、」
俺は、その土地を聞き腑に落ちた。次の仕事で依頼された現場に近い。去り際に占い師の一言が俺の耳にかすかに残る。
「良い出会いを 薊 当麻さん」
◇◇◇
私、双葉 葵は、新たな情報を報告書にまとめ、上司のもとへと向かった。
「例の行方不明事件ですが、新しい目撃者の報告があります。怪物が子供を連れ去ったとか、ええっと、街の言い伝えによれば、古より眠る山の神が、禁足の地へ連れ去るとか、住民、、ご高齢の方を中心に軽い騒動になっています。」
「お前、それ本気で信じてるのか?山神の祟りも河童もいやしねえよ。そりゃ、ただの不審者だろ 異能犯罪なら証拠としてアルカナが残るだろう。いいところ、その言い伝えとやらを模した"偽神隠し事件"だな」
私の報告を聞いた上司は、怪訝そうに、そしてどこか嘲笑うように返答をした。
私だって祟りなんて信じていないけど、騒ぎを起こす住民の相手をする私の身にもなって欲しいものだ。少し憤りを憶える私とは裏腹に、上司は私にもう一度目撃者に事情を聴きに行くことを命じた。
◇◇◇
私は重要参考人の自宅へと到着し、玄関へ案内された。
この家は参考人であると同時に、今回の神隠し事件の被害者宅でもある。
行方不明になったのは、この家に暮らす十一歳の長男だった。
以前訪れた際に聞いていた家族構成は、母子家庭の三人暮らし。おっとりとした母親と、まだ小学生の兄弟だけのはずだった。
しかし、玄関には男物、それも三十センチはあるだろうか大きな柄物のスニーカーが丁寧に並べられている。居間からはコントラバスのような低く落ち着いた成人男性の声まで聞こえてきた。
「このコーヒー美味しい、あと目玉焼きトースト、初めて食べた組み合わせだけど目玉焼きのしっとりとした食感とトーストのサクッとした食感が重なって何とも面白い食感になってますね」
そこには、朝のモーニングみたいな食卓を囲みながら食レポを始めていた大柄な成人男性がいた。
派手な靴下、カジュアルな服装に人懐っこい何処か少年の様な顔立ちはその体格には似つかわしくないと思った。
「えっと、今日はご迷惑でしたか?彼はお知り合いの方なんですか?」
「いいえ、彼は捜査官の方なんですって。なにか神隠し事件について聴きたい事があるとか、お話を進めるうちに、なにか、朝ごはんをご一緒になってしまいたね」
……っ。
あり得ない。
ぶっちゃけあり得ない!
前代未聞だ。捜査官が参考人宅でくつろぎながら、さながら、友人が訪問したかの様に馴染みながらモーニングをご馳走になっているなんて
私は、状況を飲み込めないまま、憤りと驚嘆の混ざり合った震えた声で、大男に尋ねた。
「あの、あなた捜査官なんですか?ええっと、何処の所属で何をしてるか説明して貰っても良い?。」
コーヒーを飲み終えた大男は、一息をついたあと、満足した表情で質問に応える。
「薊 当麻、特別異能犯罪捜査官だ。趣味はモーニング、好きな音楽は、、、、」
これが、私と薊 当麻との出会いだった。
◇◇◇
特別異能犯罪捜査官。
この世界にはアルカナと呼ばれる異能が存在する。
怪力。
発火。
飛行。
人類はいつしか超常の力を手に入れた。
そして当然、それを犯罪に利用する者も現れる。
そんな異能犯罪を専門に取り締まる特殊組織、特別異能犯罪捜査課
その捜査官を名乗る大男、薊 当麻に私はーー
「あなた、何考えてるの⁉︎参考人のお家で朝食を頂くなんて常識的にあり得ない!、、、、
それと、神隠し事件を追ってるのよね?だったら何で捜査本部の私たちに連絡しなかったの?何が目的なのか教えて貰うわよ」
私は薊 当麻を連れ出し質問詰めをしていた。この大男、先ほどは座っていたが、立たせると2m近くはあるのではなかろうか?
捜査官の癖にエアジョーダンなんて履いてさながらバスケ選手かのように感じた。
薊という苗字もどこかで聞いた憶えがある。
「近いな……、俺は別に神隠し事件を解決しに来たわけじゃない、この地域に違法アイテムの流通がタレ込まれたから調査しに来たんだよ。神隠し事件はついでだ。」
「事件がついで?あなたね、失踪した子供の安全や、親御さんの事を、、、」
「そうガミガミすんなよ、顔が怖くなってるぜ?せっかくチャーミングな顔してるんだからスマイル保とうぜ。それに、ついでのつもりだったが、ビンゴだ。ついでに解決してやるよ」
軽薄な男だ。
完全にふざけている。ついでに解決するですって?舐めやがって、捜索班が夜通しで探しても見つからなかった被害者を簡単に言ってくれる。
私は意地悪な表情で、薊 当麻に問い詰める。
「あなたが被害者を見つけられると言うの?なら聞かせて貰おうじゃない」
薊 当麻はニヤリと笑いながら一言だけ応えた。
「場所を移そうか」
◇◇◇
「うーむ、、、」
私は唸り声をあげていた。何故ならば、薊 当麻に連れてこられた場所というのは、、、
「あなた、さっき朝食とってたじゃない、なんで、モーニング喫茶なのよ」
私たちは、近所にあるモーニング喫茶に来ていた。
既に朝というよりは昼前の時間だ、喫茶店には、店内音楽だけが響いている。
薊 当麻は私の問いかけに適当に相槌を返しながら、器用にゆで卵の皮を剥いていた。
そして、窓の外を見ながら徐に語り出した。
「お前、、、えっと名前なんだっけ?」
「双葉 葵です。」
「双葉さん、あそこで話すのはなんだと思ったんだよ……結論から言えば、被害者は‘‘まだ’’危険な目にあっていないし、捜索の目処も立っている。」
「まだ危険ではない?目処が立っているとはどういうこと?では、何故今すぐ探しに行かないのよ」
「理由は2つある。1つは今準備をしているところだから、もう1つは、ナビゲーターを待っているから。」
そこまで言い終えると、携帯に通知が鳴り薊 当麻は一言ことわりをいれると連絡を返していた。
そして、
「話の続き、今回の神隠し、アレは嘘だ。偽物、偽神隠しなんだよ。」
「事件の流れについて、共有しよう、まずはこの事件発端はなんだった?事件の概要について知っていることを話してくれ」
「行方不明事件です。事件の発端は被害者家族の長男が行方不明になった事が始まりです。被害者家族の母親が怪しい存在が子供を連れ去るのを目撃したと証言しています。その後、近隣住民の間で山の神まつわる噂話が広がりました。
私たちは捜索隊と協力し、山岳部を中心に怪しい人物の目撃情報の収集と被害者の捜索を始めましたが、いまだに進展はありません。」
「被害者家族については?」
「被害者家族は佐藤さん一家です。家族構成は、母親の佐藤 栞理由さん、長男佐藤 健君、次男佐藤 俊君、の三人暮らしです。今回行方不明になったのは長男の佐藤 健君、十一歳の小学6年生、地域では活発で明るい子だったそうです。」
薊 当麻は時折、頷きながら話を聞いていた。
そして、ニヤリと笑いながら話し始めた。
「今回の事件だがな、山岳付近をいくら探したって、行方不明の子供は見つからないんだよ、進展が無いと言うのがその証拠だ。
少なくとも、子供が山で行方不明になったと言うのは嘘だ。」
「今回の被害者一家、落ち着いているとは思わなかったか?普通に考えて捜査官と朝食を共にしたりはしない。では何故俺が朝食を頂いていたのか?それは、俺が訪問した時、あの家庭でははじめから食卓に三人分の食事が並んでいた。
行方不明の子供がいる家で、だ。」
「被害者についても調べさせてもらったよ、長男の佐藤 健君、行方不明になる一週間前に病院に受診している。事件直前に体調不良になった子供を行方不明になった親としていささか腑に落ちない。」
「では、何故嘘をついて行方不明、それも山の神の仕業に仕立て上げたのかそれがこの事件の鍵だ。」
そこまで言い終えると、薊 当麻は一度コーヒーに手を付ける。
私は、そこまで聞いて疑問を投げかける。
「確かに、不思議な家庭ではあると思ったけど流石に飛躍しすぎじゃないかしら?何故嘘をついたのか聞かせてもらおうじゃない。」
「俺は、特別異能犯罪捜査課の捜査官だ。今回の事件は元々違法アイテムの取引のタレ込みを調査するためにこの街に来た。その、参考人こそが今回の被害者一家なんだよ。」
「正直、驚いたぜ。俺がこの街に来た時には、違法アイテムの取引とか言ってる場合じゃなかったんだからな。そして、それがミスリードだったんだよ。」
薊 当麻は話をまとめるように語った。
「神隠しは起きていない、被害者一家は今回の事件、長男のある病気を治療するため違法アイテムを取り引きしようとした。」
「しかし、その取り引きは俺等によって嗅ぎつけられてしまった。」
「そこで、神隠しをでっち上げた。捜査の目を混乱させるために、結果的に捜索隊をはじめ捜査本部は山岳部に登山させられたって訳だ。」
私は、あっけに取られていた。
まだ、聞きたいことはある。しかし、薊 当麻の目は、その自身の導き出した答えに静かに意思を宿していた。
それは、先程までの軽薄な男の目ではなかった。
薊 当麻の携帯に通知が入る。確認を入れると、薊 当麻は取り引きの時間が来たので現場に向かうと一言だけ言って後を去ろうとする。
私は一言だけ、伝える。
「私も、連れて行ってください。」
◇◇◇
「どうやら、大分無茶をなされたようで?」
「あの、本当に譲ってもらえるんでしょうか?例のアイテムです。お金なら用意してきました。」
「えぇ、もちろん。私たちは十分な見返りが有れば誰にも譲りますよ。この‘‘ブードゥー’’をね」
時刻は12時過ぎ、団地からはそう離れてはいない廃屋で、黒いフードに、スーツ姿、手袋をはめたさながら洋画の世界から出てきたマフィアのような姿のバイヤーと10メートルほど離れた位置から、女性もとい佐藤 栞里さんは取り引きを行なっていた。
そして、数刻先を持って乱入者が現れる。
鳴り響くバイクと共に乱入したその人物は勢いを落とさぬままバイヤーの男を1人轢き倒すとバイヤーと栞里さんの間に割って入る。
「アンタらが、バイヤーで間違いないな。特別異能犯罪捜査官の薊 当麻だ。」
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私は、打ち合わせ通り佐藤さんを安全な場所へ連れ出した。
途中まで来たところで、佐藤さんは興奮した様子で、私の手を引き剥がす。
「離してくださいっ!付けていたんですね⁉︎」
「私は、息子の病気を治したかっただけなんです。お願いします。健は今、アルカナが正しく流れず滞留する病気を患っています。放置すれば命に関わると医師にも言われました。どうか、ブードゥーの使用を見過ごしてください。お願いします。」
私は、迷っていた。彼女の息子さんが患った病気は珍しい病気で、治療をするには他者のアルカナに干渉出来る凄腕の技術を持つ人間が必要になる。
ブードゥー
使用者のアルカナの流れを一時的に変換することが出来る違法アイテムだ。もしかしたら、ブードゥーなら佐藤さんの息子さんが患っている病気を治療することが出来るのかもしれない。
だけどーー。
「ブードゥーは違法アイテムです。アルカナの流れを強制的に変えるのは危険なことなんです。副作用の危険と判断されたのでこの国では違法となっているんです。」
私は、拒絶した。
ブードゥーが何故違法なのか、私は今一度佐藤さんに説明した。
佐藤さんは泣いていた。藁にもすがる思いだったのだろう。違法だとしても、佐藤さんにとって最後の希望だったのだろう、私はコレで良かったのだろうか。
そんな時、一つの声が聞こえてきた。男性の声だ。薊 当麻の声とは違うソプラノのような甲高い男の声
「間違っていませんよ ブードゥーは危険アイテムで使用するべきではない」
目の前にいたのは、民族衣装のようにヒラヒラとした派手な服装に草履を履いた。すらっとした長身の男性がいた。
不思議な格好の男性はこちらの様子を一瞥すると続きを話はじめた。
「アルカナはただ力を発現させるだけのものではありません その流れには 人間の身体に適した向きが存在する 」
「それが正位置」
そこまで言い終えると、その男は、手を差し出し。その奥には薊 当麻とバイヤーが交戦していた。
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バイヤーは薊 当麻を睨みつけると、その両手には火球のようなものを生み出し火球を当麻めがて投げつけた。
「危ないっーー!」
私は思わず声を上げた。
火球は一直線に薊 当麻へ迫る。
しかし、当麻は避けない。
直撃した――そう思った次の瞬間、炎は幽霊のように彼の身体をすり抜け、そのまま背後へ飛び去った。
当麻は一気に間合いを詰めると、バイヤーの腹部へ強烈な蹴りを叩き込んだ。
「「ぐはっあっっ!」」
バイヤーが数メートルほど吹き飛ぶ。そこまで起きて、私は理解する。
「コレが薊 当麻のアルカナ、正位置の能力」
バイヤーは地べたを這いながら手を伸ばす。
その先にあるものは、ブードゥー。
「くひひ、どんな能力かはわからないが俺を蹴る時には実体があるんじゃないのか?」
バイヤーはブードゥーを自身の身体に使用した。それをみた長身の男は悲しそうな目で話の続きをはじめた。
「アルカナの流れを乱すことでその異能は形を変えます しかし それが必ずしも良い方向に現れるとは限らない そんな危険な賭けをするのがブードゥーであり アルカナの逆位置です 」
バイヤーの様子がおかしい、興奮した様子と共にその身体が先ほどの火球のように火を纏っている。それは炎上と表した方が適切だろう。そして息を荒げながら当麻に対して啖呵を切る。
「コレで触れられまぁい。俺もタダじゃ済まないが、こうなったら皆殺しだ。お前も、馬鹿な母親も、全員だ。」
しかし、薊 当麻は下を向き、ため息を吐きながらひと言だけ返す。
「無理だな、誰も死んだりはしない」
不思議な格好の男は薊 当麻のもとまで歩みを始めた。そして、懐から物を取り出す。
刀、と呼ぶには刀身は黒く刃先は潰されておりこれでは何もきれない鈍だった。
そんな、鈍を薊 当麻は受け取り刀身を指でなぞる。すると、青白い光が刀身に纏いはじめた。
「アルカナには続きが有ります 正位置と逆位置 そして その延長線上 限られた人間のみが到達する能力の【拡張】それこそが」
不思議な格好の男がそこまで話すと、薊 当麻は刀身を勢いよく振りかざす。バイヤーまでの距離は数メートルは離れいてる。しかし、その青白い光は構うことなくあたりに閃光した。
次の瞬間、バイヤーが、いや、世界がズレる。景色が揺らぐ。そして、再び結合するようにズレは収まり、炎を纏っていた身体から、力が霧散する。
「殺してはいない。聞きたいことがあるからな、アルカナの流れを断ち切った。まあ、しばらくは意識が無いだろうけどな。」
薊 当麻は刀身をしまうと、バイヤーを拘束しはじめた。
その様子を、私と佐藤さんは呆気に取られながらただ見ていた。佐藤さんは、
「これがアルカナ、、、」
そんな時、バイヤーの1人がこちらに銃口を向けていたことに気付いた。それは、先ほど薊 当麻がバイクで轢いた人物であった。
「ふざけるなよ!お前だけでも道連れにしてやるっ!」
逆上した、バイヤーはこちらに向けて発砲した。しかし、その銃弾は佐藤さんに届くことは無かった。
目の前には蝶の羽のように広がる光沢のある物体が浮かんでいた。
「コレは私のアルカナ、バタフライです。」
私、双葉 葵は笑顔で佐藤さんに話しかける。
そうして、この事件は幕を閉じたのだった。
◇◇◇
その後、佐藤さんは警察に保護されることとなった。その後、健くんの病態は、とある長身の民族衣装をした凄腕の技術をもつ男性によって回復への道を辿った。
意外だったのは、今回の事件、佐藤さん一家には温情が施されたことだ。なにか、お偉いさんの口添えがあったそうだ。
私は、上司の命令で今回の事件について報告書をまとめる。そして、また次の仕事が待っているいつもの日常へと戻るのだった。
◇◇◇
「無茶しましたね 」
ニヤニヤとした笑みで俺に話しかけてきたのは変態占い師だった。
俺はあの事件で、処罰を受けていた。無断先行に、被害者を危険に晒した。よって、2週間の謹慎処分に、三ヶ月の減給、そして、一年間の監査処分だ。
「やらなきゃよかった。テメェ占い外してるだろコレ」
俺は、ため息混じりの悪態を吐きながら、小倉トーストを一口いただく。どんな時でもやはりモーニングは美味しい。
モーニングを頬張る俺を尻目に変態占い師こと、‘‘風輪’’は勝手な憶測を語り出した。
「病気の子供を治療して欲しいと私に依頼を出し 佐藤さん一家を事件の犯人として巻き込まないため単独行動をした 今回の事件お手柄でしたね お疲れ様です」
「うっせぇ、うっせぇ」
俺は、少し頬を赤ながら目線を外に逸らす。
しかし、風輪は俺の反応を楽しむように茶化した声で話を続ける。
「そう言えば、今日からでしたよね?監査処分のためにコレからの捜査に同行する方が来るの」
そこまで、言い終えた後で、喫茶店の扉が勢いよく開いた。
「どこまでモーニング好きなのよ、アンタ。」
それが、俺と双葉 葵の長い付き合いの始まりだった。




