表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
闇落語は笑わせる  作者: 原田広


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

2/10

第二話 殺生石と九尾の爆笑

「今月は、栃木の殺生石で高座をやるぞ!」

牛鬼からの連絡に、公平は思わず声を上げた。

「殺生石って、あの九尾の狐の化身で、触れると毒ガスで死ぬって言われてる石ですよね!?」

「うむ! だが心配いらん! お主は人間だからな、ワシらが結界を張ってやれば、毒気など通らぬわ!」

「そういう問題じゃねぇ!」

深夜。人っ子一人いない那須の殺生石の前に、公平は立っていた。

周りには、牛鬼を始め、提灯お化け、一つ目小僧、ぬらりひょん……いつもの面々に加え、東北からは雪女、九州からは山童など、全国からよりすぐりの大妖怪たちが集結していた。

今日の高座は、いつもと趣が違う。公平は殺生石の頂上に座って噺をする、という大役を仰せつかっていた。

「さあ、こんぺい様! 高座へ!」

牛鬼の言葉に促され、公平は恐る恐る殺生石によじ登った。硫黄の匂いが鼻をつく。座ってみると、ひんやりと冷たい。

「えー、本日は、この殺生石までお集まりいただき、誠にありがとうございます!」

公平は、いつものように口上を述べた。

「今夜は、この殺生石にちなんだ噺を……いや、殺生石そのものをネタにした、『九尾の狐のストレス解消法』を一席、お付き合いください!」

公平は、殺生石に座ったまま、深呼吸をした。

(人間にとっての恐怖を、逆手に取るんだ……!)

(「おい九尾、お前も大変だな。何百年もこの石の中に閉じ込められて、ストレス溜まらねえのか?」

「溜まるさ。そりゃもう、人間どもが想像もつかないくらいにね」

「そりゃそうだろうよ。で、どうやってストレス解消してんだ?」

九尾の狐は、にやりと笑って言った。

「簡単さ。暇つぶしに、人間が最も大切にしているものを、一つずつ、心ゆくまで壊していくのさ」

「……え?」

「例えば、人間が血と汗と涙を流して築き上げた信頼関係を、ちょっとした噂話一つで粉々にする。あるいは、将来への希望を、理不尽な現実で打ち砕く。極めつけは、家族の絆を、些細な誤解で引き裂いてみせる……ああ、なんて気持ちいいんだろうねぇ」

九尾の狐は、恍惚とした表情で続けた。

「だって、それが一番、人間に毒が回るんだろ? フフフフ……あ、やだ、私ってば、最高にイタズラ好き!」

その言葉を聞いた瞬間、隣にいた鬼が、震えながら言った。

「おい……それ、ただの悪魔じゃねぇか!」)

公平が噺のオチを告げた瞬間、夜の那須岳に、爆発的な笑い声が轟いた。

「アッハッハッハッハッハッ!! 最高じゃ!!!」

牛鬼が腹を抱えて転げ回り、地面が揺れる。雪女は、冷気を噴き出しながら大笑いし、周囲に雪が舞い始めた。山童は、手を叩いて奇声を発し、山の木々を揺らす。

「人間の最も脆い部分を突くとは!」

「心が壊れていく様を見るのが最高のエンターテイメント!」

「まさに外道! 素晴らしきかな、人間社会の闇!」

妖怪たちは狂喜乱舞し、殺生石の周りは、異様な熱気に包まれた。

公平は、妖怪たちの爆笑を聞きながら、高座を降りた。

その時だった。

ゴオォォォォォ……!!

公平が殺生石から降りた瞬間、石の表面に、ひび割れが走った。

その割れ目は、みるみるうちに広がり、石の奥から、禍々しい金色の光が漏れ出した。

「な、なんだ!?」公平は驚いた。

「おお! こんぺい様! やはりお主は天才じゃ!」牛鬼が、興奮して叫んだ。「九尾の狐が、お主の噺に腹の底から笑いすぎたのじゃ!」

「え? 僕の噺で、殺生石が割れたってことですか!?」

「うむ! 長い年月、人間の怨念と毒気を吸い続けて凝り固まった九尾の呪いが、お主の噺のあまりの『悪辣さ』に腹筋が崩壊して、結界が緩んだのじゃ!」

殺生石から漏れ出す金色の光は、徐々に勢いを増し、夜空を照らし出した。

その光の中を、ゆらゆらと、巨大な九つの尾が揺れているのが見えた。

「これは……九尾の狐が、喜んでるってことですか?」公平は呆然と尋ねた。

「うむ! お主の噺は、あの九尾の狐さえも、封印を破って笑い転げさせるほど、極悪非道で、人間社会を破壊するような最高の闇落語だったのじゃ!」

牛鬼は、公平の肩を叩き、満面の笑みを浮かべた。

「さあ、こんぺい様。次の巡業は、京都の羅生門じゃ! そこには、鬼の茨木童子が、お主の噺を心待ちにしておるぞ!」

殺生石が、九尾の狐の爆笑によってひび割れた夜。

前座見習い・目黒亭こんぺいの、妖怪アイドルとしての名声は、また一つ、「人間にとっての危険度」を上げていくのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ