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09 ビゼット

ビゼットさんは王様気質というか、典型的な高位貴族のボンボン+優越意識と選民意識が高い人です。貧民なのに自分よりちやほやされてるデリルが気に入らない、の一言に尽きます。


「エクストラシールドは俺が発表する予定だったんだ」


「…はぁ…すいません…」


「なんでお前が先に…」


「浮かんだものですから…」


 理不尽だなあ…としか思えない。


 浮かんだものは浮かんだのだから仕方がない。


 アズさんの防御力を上げたかったのだ。


 しかもそれを鍛錬して、今ビゼットはエクストラシールドを使えるようになった。


 感謝されていいんじゃないかと思うのだけれど。


 ばきっと懐かしい感触。鼻っ柱を殴られた。


「お前は俺に向けられていた尊崇の感情を全部奪った。名声も、希少性も何もかも。今のPTメンバーすら俺を侮ってやがる。全部お前の所為だ。お前さえ居なければ俺は…国にたった一人の癒術師として丁重に扱わていたんだ!!貧民の分際で邪魔だし目障りなんだよ!!消えろよ!」


 ドカッと蹴りつけられて裏庭の樹に激突する。


 僕は、ビゼットさんに『相談がある』と、魔法棟の裏手に呼び出されていた。


 そのまま殴る蹴るの暴力に晒される。


 実家の事を思い出す。――僕は、化け物じゃないのに。


「なあ。お前ってどうやったら死ぬの?心臓刺したら死ぬのか?首を刎ねたら死ぬのか?首を斬るだけじゃダメなのか?」


 細身だが、如何にも斬れそうなナイフを懐から取り出すビゼット。


 ドスっと鳩尾に柄まで突き刺された瞬間、女官の悲鳴が上がった。


 悲鳴につられて人が集まる。


 刺した瞬間の悲鳴で硬直したビゼットの力が強くてナイフが抜けない。


「ちょっと!!何してるの!?」


 集まってきた中には、ミルさんやメルドラーナ様も混ざっている。


 ビゼットのPTメンバーも。


「早くナイフを抜きなさい!!ビゼット君!」


「あ…あああ……」


 ガタガタ震え出したビゼットの手からナイフが離れる。


 その瞬間、内側から治癒された肉がナイフを押し返し、ナイフは地に落ちる。


「デリル君!!」


 殴る蹴るの痕は徐々に消えつつあったが、どんな目にあったかは、土汚れや血痕等で明らかだ。


「一体デリルがあんたに何したって言うのよ!」


「う…五月蠅い!!!!!」


「…ひーる」


 徐々に傷は癒えていたが、一気にその傷を癒す。


「もう大丈夫だから気にしないで…あの、よくある事だったので…」


 その台詞に全員がぎょっとした顔をする。


 ビゼットまで。


「殴られたり、蹴られたり、刺されたり、毎日されてたので、僕慣れてます」


「刺され…たり…?毎日…?」


「僕から悪魔を追い出すって言って…刺すのは主に父さんだったけど…」


 ミルさんは僕をむぎゅっと抱きしめた。


「慣れないで!慣れちゃ駄目!!そんな事に慣れちゃダメなんだよデリル君!!!」


「でも次の日には治ってたから…」


「それでも!!慣れちゃ駄目なの!!約束して!ちゃんと抗って!!」


「う…うん…」


「うん…良く出来ました…」


 泣きながらミルさんが頭を撫でてくれる。


 メルドラーナ様はビゼットの所へ行った。


「もう、デリル君に貴方は近づかない事。あと、仕置きとして1週間反省室で過ごして貰います」


 ビゼットは蒼白な顔でメルドラーナ様を見ている。


「お…俺をないがしろにしたお前ら皆が悪いんだ!俺は…丁重に尊敬されて過ごすべきで…」


「貴方への扱いを変えた覚えはありませんよ、ビゼット。貴方が勝手にそう思い込んで居たのでしょう」


 ふう、と溜息を吐きながら悲しい顔をしたメルドラーナ様は言う。


「デリル君には護衛の影を付けます。これからはこんな事は二度と出来ないと思いなさいな」


 がくりと肩を落としたビゼットだったが、罰は相当に軽い。


 反省室だけだ。


 これはやはり、希少スキルの持ち主を酷い目に合わせる訳に行かないという事なんだろう。


 きちんと丁重に扱われているじゃないか。


 それでも今までそんな扱いを受けた事すらなかったのだろう、ビゼットの顔色は悪い。


 ビゼットのPTメンバーは、白けた顔をして、踵を返した。



 ビゼットのPTの魔術師は生真面目な青年で、今回の事で愛想をつかしたらしい。


 国王に上奏し、PTメンバーを解散したらしい。


 それでもまだダンジョンに行きたいなら、ダンジョンのレベルに見合ったPTを用意すると国王より通達があったそうだ。



「ぬるい!ぬるすぎる!!散々デリル君に暴力をあれだけ奮っておいて、あれだけの処分!?」


「俺も納得いかないな…しかし癒術師の希少性を考えるとこれ以上は難しかったんだろう」


「俺ちゃんも信じられないな~あんなもんで済ますとか、もっと何か傷を負わない別の罰もあったんじゃないのぉ~?」


「遺憾」


「あ、これから影で僕を警護してくれるエリクネイドさんです」


「あ、宜しくお願いします。基本的に姿を隠してますが、他の者が影だと言いながら近寄って来た時に見分けがつかないと困りますから。今回は姿を見て貰いました」


 細身、黒髪、平均的な顔立ちをしたエリクさんは、人ごみに紛れると見失う自信しかない。


「では、私は任務に戻りますので、御免」


 スッとエリクさんの姿が気配ごと消える。


 見事な隠形で、何処に居るのかさっぱり解らない。


 フィーが驚いた顔をしている。


「うへえ…とんだ斥候殺し…位置が掴めないわ」



 それからは、食事処でもビゼットと会う事はなくなった。


 どうやら私室にメニューを届けているらしい。


 しかしダンジョンには行く気があるようで、ランクの下がったPTメンバーが配備されたようだ。


 相変わらずダンジョンのレベルを上げる気はないようなので、そのPTで十分クリア出来るようだ。


 僕がメルドラーナ様に会いに行く際は先ぶれとして影が先に伝えに行き、ビゼットを退室させてから僕が逢う、という手順を踏むようになった。



 今でも希少スキルの持ち主としては認識されてはいるが、王宮の人員のビゼットに対する態度は何処か冷たい。


 ビゼットもそれを感じ取っているようで、常にイライラしていると噂で聞いた。


 ビゼットはどうなりたいのだろう。


 どうしたいのだろう。


 ただ、僕が居なくなれば全部元に戻ると信じていたようだった。




「どうしたの?今回のダンジョン楽しくない?」


「あ、いいえ。ちょっと考え事を…すいません」


 今週のダンジョンは廃墟と呼ばれるアンデッドの多いダンジョンだ。


 レンドさんの剣には既に属性変換、聖が掛けてある。


「今回はドロップは美味しくないんだけどね。偶にこういうダンジョンは掃除しておかないと街に瘴気が漏れてくるの。まあ…半年に一回くらい来ないとね」


「まあ、そういうのも冒険者の仕事だからな。今回はお金目当てじゃない」


 向かってくるレイスを聖剣で切り捨てながらレイドさんが言う。


「聖剣にしてくれたから、物理が通じない敵にも攻撃出来て有難いぜ、デリル」


 アズさんは盾でスケルトン系を全てバラバラに砕いている。


 此処は罠が多いらしく、フィーさんはあちこちの罠を解除して回っている。


 全階層の敵を一掃する度、ピュリフィケーションで場を清めて回る。


「さて、今回のボスは何だろうな」


「んー。イビルドラゴンかキングリッチ辺りじゃない?」


「キングリッチは今までに比べて弱くないか?」


「そお?似たようなものじゃない?」


「んじゃあご対面~といきますかぁ」


 扉の罠を解除した後にフィーさんがゆっくりと扉を開く。


 フロアの奥に見えるのは――蠅の王・ベルゼブブ。


 物凄い瘴気がフロア全体を覆い、PTメンバーの足がふら付いている。


「…――ミアズマシャットアウト!」


 全員に瘴気を通さないバリアの新魔法を掛ける。


 他の支援魔法は既に掛けてある、


 後は。


 僕は大きな蠅に魔法を掛ける。


「ハイスロウリー!アンチストレングス!アンチマジックディフェンス!アンチディフェンス!」


「我に苦難を耐える力を!ストロングディフェンシブストレングス!」


 巨体の所為で早くは飛べないようだ。


 その代わりに酸の飛沫をこちらに飛ばしてくる。


 バリアの所為で全員無事だが、大きな酸の塊を受け止めたアズさんの盾がバリアを割って少し融けた。


「エクストラシールド!ソードシャープネス!」


 アズさんとレンドさんに追加の支援を掛ける。


 そしてまだアズさんと接敵していないのを確認してから詠唱に入る。


「我に害なす敵を滅せよ!エクスカリバー!」


 巨大な刃が蠅の上に現れ、その首を飛ばす。


 その瞬間の頭の挙動を僕は見逃さなかった。


「エクストラマインシールド!」


 自分に強力なシールド魔法を掛け、ミルに直撃しようとしている酸の塊からミルを突き飛ばして代わりに受けた。


 このシールドでも僅かに突破されたらしい。


 表皮がじゅう、と嫌な臭いを立てながら融ける。


「ヒール」


 回復魔法で皮膚は元に戻る。


 蠅の頭部も体もまだガチガチと忙しなく足掻いてこちらを睨んでいる。


 瘴気を採り込んで元に戻ろうとしているのが解った。


「ピュリフィケーション」


 辺り一帯の瘴気が綺麗に浄められ、心地いい空気に変わる。


 それでも暫く足掻いた蠅は、段々と動きが鈍くなり、その動きを止めた。


 注意深く、その後15分ほど放置し、もう動かない事を確認してから傍に寄る。


「まさかの蠅の王。ちょっと死ぬかと思った」


「俺もびっくりだ…大物過ぎやしないか?」


「同意」


「いや~でも近づかれる前に一撃で倒してるんだから、今までとあんまり変わらないつーか、バリアを突破されたのが意外だったねぇ~」


 それは本当にそうだった。


 もっと固いバリアが張れないか、ちょっと考えて置こう。



 ギルドに行くと、マスターが目が飛び出そうな顔でベルゼブブの素材を見ていた。


「お前達…これ…これは本物なのか…?勝てる相手じゃないだろう!?」


「手ごわかったです。なんとか勝てました」


「あれ以上近づかれてると皆溶かされてたかもしれないわねー」


「酸が厄介だ」


「い…いやいやいや待て、確かに酸は厄介だろうが、近づかずにどうやって…って、坊主か」


「マスタ~も解ってきたじゃん」


「はぁ…これを…買取は無理だ。資金が足りない。オークションに掛けてやる。手間賃1割は貰うが来週来た時には渡せると思うぞ」


「はい、それでいいです」


「よっし、打ち上げ打ち上げ!」


 いつも通りギルド酒場で打ち上げを楽しんでいると、背後に近寄ってきた誰かが昏倒させられ、連れ去られるのが解った。


「ビゼットだったわね」


「だな」


「懲りないねぇ~」


「…」


「はは…」


 これ以上僕に何か言いたかったのだろうか。


 でも彼の主張は、僕が何をすればいいのか解らないので困るのだ。


 内心で影の人に感謝しながら、ちらっとビゼットのPTのテーブルを見る。


 以前と同じ、収入に見合った食事が置かれ、姿を消したビゼットに目を白黒させている。


 いくら望もうが、彼はもう僕に関わる事は出来ないのだなと、改めて実感した。



ビゼットはビゼットで自分の冒険を楽しめていればいいんですが、かなり及び腰です。

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