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02 魔術棟

少年は安全な場所に保護されたようです

「王宮魔法省か…そうだな。坊主にはそっちの方が安全でいいんじゃないか?PT組んでギルド登録はしてくれるんだろ?」


「はい!」


「そうか。じゃあ王宮に行く前にカードの発行をしてやろう」


 出されたカードに血を垂らして、それをバックヤードで何か処理をしたマスターが、カードを手渡してくれる。


 それを大事に汚い布袋に仕舞い、僕は笑顔になる。


 やっと冒険者になれた。


 女騎士が僕の手を引き、王宮へ連れて行ってくれる。


 先ずは風呂に入れられる。


 恥ずかしいという僕を追い詰めるように、女官が隅々まで綺麗に洗い上げてくれる。


 こんなにピカピカになったのは生まれて初めてだ。


 丁寧に化粧水やクリームなどを全身に塗られ、見た事もないようなキラキラの子供用正装を着せられる。


「凄い…王子様の服みたいだ…」


「あの…このボロボロの服は捨てても構いませんか…?」


 恐る恐る女官が訊いて来る。


 王宮ではそんな服は着る訳に行かないのだろう。


「あ…でも冒険に出るときは着る予定で…」


「それなら別途用意させて貰います。こちら、血の染みも酷いですし破れておりますし…」


 ああ。そうだった。破れてたんだった。


「あ…はい…」


 ナイフと服だけが自分の持ち物だったので少し肩を落とす。


「…血抜きをして繕っておきましょう。着る事は推奨出来ませんが、取っておくだけなら大丈夫です」


「あ、はい!ありがとうございます!」


 そんなやりとりの間も、なんだかベタベタするクリームを髪に付けられ、髪型を整える女官の皆さまは忙しい。


「謁見の準備、整いました!時間が押してます、どうぞこちらに!」


 多分僕の体の垢を浮かせて擦り落とすのに時間が掛かってしまったのだろう。


 申し訳ない事をした。


「迎えに来たぞ。おお。見違えたじゃないか少年。ちゃんと貴族に見えるぞ」


 扉を開けると、女騎士が迎えに来てくれていた。こちらも正装だ。


 非常に凛々しい。


「では、エスコートさせておくれ、小さな癒術師殿」


 すっと僕の手が取られ、女騎士の腕を掴まされる。


 そのまま謁見の間にまで連れて行かれ、膝まづいて頭を下げる女騎士の真似をする。


「市井にて発見しました、高位癒術師の才を持つ少年です。実家では悪魔や化け物だと呼ばれて日々虐げられていた様子。魔法省にて預かる事が最善と見受けました」


「ふむ。その判断に間違いはないな。癒術師は1国に1人居れば僥倖、と言わしめる特殊な才能だ。我が国では2人目となるがな。その申請受け付けよう。少年は、先輩癒術師に技を教えて貰って研鑽するよう求める。部屋はもう用意させている。其処迄案内してやってくれるか?ヴェリナ」


「はっ、玉命承りました」


「では下がって良い」


 僕たちは立ち上がり、深く頭を下げ、部屋を後にする。


 …迷宮かな?


 そう思うくらい複雑な通路を通り抜け、中庭のような場所に出る。


 其処から違う建物へ移動する。


 建物に足を踏み入れた女騎士は建物の最上階へ移動する。


「王宮魔法術師長メルドラーナ、この子が二人目の癒術師だ。高位癒術を使える。どうか上手く育ててやってくれないか」


「あらあら…小さな可愛い癒術師さんねえ。分かったわ。私は癒術は使えないけれど、もう一人の子と一緒に育ててみますよぉ。明日から、朝の9刻までに此処へ来てねぇ」


「ありがとうございます。では少年、次は君の部屋だ」


「ありがとうございます、明日、朝、必ず来ます」


 ぺこりと一礼して女騎士についていく。


 なんだか今迄と同じような豪華なドアの前で立ち止まる。


 え?また誰かに挨拶?不思議そうな顔をする僕をよそに、女騎士は部屋を開ける。


 広々とした部屋に、豪華なベッド、品の良いデスクと紙、ペン、インクが用意されており、書架には既にいくらか本が収められている。


 風呂もキッチンもきちんと備え付けられ冷蔵箱も用意されている。


 だが、魔術師食堂があり、無料で朝昼晩と食事を食べられるため、これらの施設は夜食を取りたい、とか自作でデザートを作りたい、とか料理に拘りがある者の為に設えられているそうだ。


 それと鏡台が置かれており、化粧水とクリームが置かれていた。


 …僕は女性じゃないんだけどなあ。


「ふ。今、自分は女じゃないと思ったろう?これは男性向けのものだぞ。特に冬は乾燥してひび割れしたりするからな、顔だけじゃなくこのハンドクリームもきちんと使い給えよ。王宮での身だしなみだと思って欲しい」


 王宮ではそれが身だしなみだと言うなら使わざるを得ない。


 忘れないように気を付けよう。


「後、君は髪をずっと放置していたね?きちんと髪を整えに行こう。これも身だしなみだ」


「は、はい…」


 髪。


 虐げられたあの日から、伸ばしっぱなしで藁で邪魔な髪を括っていた。


 今はリボンで結ばれているが。


「こちらに無料で利用できる理髪所があるから、こっちにおいで」


 僕はまた女騎士に手を取られて場所を移動する。


 帰り道が解らなくならないよう必死で道を頭に叩き込んだ。


「ここだ」


「いらっしゃいませ。髪型のリクエストはございますか?」


「えっ…に、似合うようにして下さい」


「お任せという事ですね。承りました」


 整髪剤を流すため、先に洗髪をされる。


 そして鏡の前の椅子に座らされた。


 シャキシャキ、と軽やかに鋏の音が鳴る。


 顔の下まであった前髪が切られ、目の前が開けた。


「長髪はお似合いだったので、後ろは整えるだけにしますね」


 痛んだ部分をざっくりと切り落としながら、髪をすいていく。


 終わった時にはスッキリした頭の僕が鏡に映っていた。


 理容師さんは後ろ髪を元のリボンで結んでくれる。


 後ろ髪も軽くなっている。嬉しい。


「似合っているぞ、一気に垢抜けたな、少年」


 女騎士は僕の部屋まで連れて行ってくれた。ホッとする。


 自力で戻る自信がなかったのだ。王宮は広すぎる。


 途中、魔術師棟1Fにある食事処に案内してくれ、朝6刻から夜9刻までいつでも食べられると説明してくれる。


 そのまま僕の部屋に辿り着くと、「先ほど説明を忘れていた」と言い、僕の部屋のクロゼットを開ける。


 そこにはずらりと子供用の品の良い服が並んでいた。


 そしてそれぞれ、これが平服で、今着ている物は謁見用で、訓練着はこれで…と、それぞれ数着づつある衣服を説明してくれる。


 僕は必至で覚えようと女騎士の説明を聞く。


「…そういえば少年はメモを取ったりしないのだな?」


「字が…書けません…」


「あぁ…そうか、貧民には書けない者が多いな。教師を付ける必要がありそうだ。メルドラーナに言って、早めに上がって文字の修練をすると伝えておこう。あと、君の給金だが、月に金4だ。これはかなり破格なんだぞ?」


 金。僕は銅貨までしか持ったことがない。


 銀貨も見た事がない。


 これはどれだけ凄い額なのか、実感が沸かない。


「…実感が沸かないと言った顔だな…」


「銅貨までしか持ったことがありません。後は鉄貨…」


「銅貨が100枚で銀貨、銀貨が10枚で金貨になる」


「銅貨100枚!?で、更にその10倍?」


「中間に青貨というのが入るがな。銅貨10枚で青貨だ」


「う…あ、ええ…と、はい…」


「…計算や他の学科の先生の授業も入れた方が良さそうだな…君は午前中に魔法の訓練、午後は授業を受け給え。ただ、少し魔法の訓練で遅れを取るかも知れないが、こればかりはな。常識を身に着ける方が先だな」


 何も知らない、学もない僕が、ここで教えて貰えるというのだ。


 僕の心は浮き上がった。


「年齢も低いし、簡単なものから教えて貰えると思うぞ。頑張れ少年」


「はい!頑張ります!」


 此処に来てずっとこびりついていた劣等感が拭われるような心地だった。


 その後は女騎士さんと食事処でごはんを食べ、最後に購買のような場所に案内される。


「細々とした足りないものは此処で買うんだ。店になくても取り寄せして貰えるので安心し給え。例えば少年の袋なんかは買い替えないと」


 女騎士さんは購買で少し大きめの上品な皮の鞄を買う。


「私からお祝いのプレゼントだ。使ってくれ給え。ああ、君は暫くスケジュールが一杯だろうが、休みの日は設けてある。10日毎に2日は休みになる。8日働いて2日休む、という事だな。その間に冒険者をするなら、メルドラーナに声を掛けてくれ。仲間を紹介して貰えるだろう。冒険者用の服もそれまでに仕上げて君に届けられるだろう。――で、質問はあるかい?」


「…何を質問していいのか解りません…」


「はははは、正直な少年だな。じゃあ、解らない事があれば周りの者に訊けば良い。どうしても聞きづらければ騎士棟まで来てヴェリナを呼んで欲しいと言えばいい。君の事はかなりの優先事項にあたるからね」


 ではな、と言って一通りの案内を終えたヴェリナさんは帰っていった。




PTメンバーはどんな人たちなんでしょうね。それと癒術師の先輩はどんな人なんでしょうか

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