16 諸々の進行
お久しぶりねのキャラが居ます。生きてました。
目を覚ますと、魔力は元に戻っており、心配そうな官吏達に囲まれていた。
部屋がぎゅうぎゅう詰めになっている。
国王の姿もある。
「神子殿…この国を守って下さり、本当にありがとうございます…!あのように苦しみながらも私達を加護で守ってくださって…。本当に御礼申し上げます」
部屋に居た全員が膝を折って僕を拝む。
慌てて僕は先ず国王から立ち上がってくれるよう頼み、平伏していた王を立たせる。
「僕はただ、僕の周りの誰かが傷つくところを見たくなかっただけなんです。僕のエゴです。仲間達に傷を負って欲しくなかったんです」
「それを我々は慈悲と呼びます、神子様」
「そんな…大そびれたものじゃ…」
僕は首を横に振る。
「無欲で人を助けたいという慈悲の心。神子に選ばれるに相応しい方が神子になったのですね」
「僕はそんな心算じゃ…!」
嫌だ。
違う。
ただ、死んで欲しくなかっただけだ。
神のように崇めないで。
誰か、誰でもいいから僕を普通の子供のように扱って。
祈らないで…。
「普通に、して欲しいんです。ご褒美が貰えるなら、僕は、こんな風に扱われたくないんです。友達みたいに、普通に話してほしい…。駄目ですか?」
「神子…様…かなり…かなり難しいご希望ですが、なるべく意に添えるよう皆努力致しましょう。無欲な神子様のたった一つの小さな願いですので」
ざっと全員が礼を取る。
――だからそういうのを止めて欲しいと言ってるのだけど。
恐る恐る一番傍付きの官吏が消えそうな声で僕に話しかける。
「おしょ…ご、ごはん、食べま…るか?お腹がすいているのではないかと」
「あ、頂きます。お腹すいてます」
「あの…せめて神子様から先に敬語を止めて頂けると…」
僕はきょとんと官吏を見る。
「子供は大人に敬語を使わないと…」
思い出す。
殴られ続けた日々を。
顔が青ざめる。
「そうしないと…殴られたり蹴られたり刺されたりします…から…」
ぶるぶると震える体を女官が抱き留めてくれる。
「もう、そんな事はない…わ。皆貴方の事を大事に思ってい…る、のよ、神子…デリル」
保護された経緯を知っている者は痛ましげに顔を顰め、知らなかった者たちは目が飛び出さないばかりに見開いた。
「お友達はどっちも敬語を使わないものなの…よ。大人とか関係ないので…」
「関係…ないんですか…?誰も殴らない…?」
「ええ、そんな事をする人は此処には1人も居ませ…ないのよ」
ぼろ、と涙が落ちる。
此処には僕を折檻する人は居ない。
刺されたりしない。
「あ、ありがとう…」
王はデリルの家族の顛末を影からの報告で耳にしている。
家族全員が、恐らくデリルに振るったのであろう傷を負って生活をし、父はその際の刺し傷で亡くなっている。
死を迎えるほどの傷を神子に与えたのだ。
天の与えた試練であるに違いない。
これ程酷い事を神子様にしていたとは信じられない程、家族全員が酷い状態だ。
それを神子様に伝えるべきかどうか。
…もう少し、神子様が周りの環境に緊張せずに済み、打ち解けて下さってから言うべきだと王は思う。
――友人のように…か。
心許せる相手が今、戦争に出ている。
その事で神子様が心労を患っている事も想像に難くない。
代わりにはなれないかも知れないが、此処に居るものをもっと身近に感じて頂ければ少しでも安らかに過ごして頂けるだろうか。
王は心を決める。
「デリル、皆家族だと思ってはくれぬだろうか。皆お主に感謝し、酷い事などしない。大事にお主を育ててくれる」
「が…学校…行っても、いい…かな」
「あぁ、友達と言えば学校だったな。少し学校を選ぶ時間をくれないか?保護者は儂と神殿長の2人だ。きちんと通えそうな所を探そう…戦争が終わってからで良いだろうか?」
「あ…はい!勿論!」
デリルにはお爺ちゃん先生がついており、学ぶ環境には困っていなかったが、学友などと触れ合う機会がなかった。
しかし、普通の友人が出来るかと言えば、難しいだろう。
薄っすらと光る姿、其処からは神気が漏れ出ている。
誰しもがつい膝まづいてしまいそうになる。
此処へ勤めている者はなんとか耐性を身に着け、それをせずに済んでいるが、学友達にはそれを期待する事は出来ない。
せめて膝を折る機会の少ない上級貴族の通う、評判のいい学校を探そう。
そうすればきっと少しはましに違いない…先に学生たちへ通達が必要だな。
「いい学校を探しておこう。友達が出来ると良いな、デリル」
「はいっ」
レナイーアに攻め込むアユントの兵は、物凄く不本意そうな顔で、顔に済まない、と書いてある状態で攻め込んでくる。
家族の身柄を抑えられているんだろう。
レナイーアの守備に回った兵は、アユントの兵を気絶させ、敵国の兵のみを斬り捨てる。
「友好国の攻撃も通じないだと!?何をした!神子め、何をしたんだ!!?」
ヴェリウェルドは顔を顰める。
兵のみならず、ふらりと出てきてしまった市民の一人すらも傷を付けられなかったのだ。
「全国民を全てから保護!?あり得るのか、そんな大技…っ!?クソ、影が帰って来ないのも何かの力を使ったからなのか!?――撤退しろ!」
馬首を返して自国へと去っていくアッサーナ。
そして自国の王都、その門扉前に、ほぼ同数の半透明な騎士団が待ち構えていた。
「な…なんだ…なんだこれは!?」
襲い掛かってくるその騎士団に応戦し、自国へと戻ろうとするが、騎士達は自分たちとほぼ同じ腕を持っており、且つ負った傷を物ともせずに攻めかかってくる。
そして透明な騎士に加えた傷が負わせたものに跳ね返るのだ。
痛みも疲れも見せず門に陣取る騎士団に、ヴェリウェルドは歯噛みする。
――このままだと全滅する。
王都付近の町、リグラまで退くと宣言して馬首を返す。
が、逃すまいと騎士たちは追ってくる。
疲労したヴェリウェルドの馬は、疲れを知らない半透明な騎士団に追いつかれ、1人残らず惨殺された。
半透明の騎士団はそれを見届け、ふわっと光が散るように宙に溶けた。
デイスラニアの神殿。其処にビゼットは居た。
アッサーナは自分の手に余ると考え、友好国では干渉される事を嫌って敵国へ迎えてもらったのだ。
癒術師の数は少ない。
デイスラニアには癒術師はおらず、物凄く歓迎され、皆に崇められるような対応を受けて、漸く心からの愉悦を味わっていた。
「やっぱりあのチビが邪魔だったんだ。あいつさえ居なければ俺の価値を解ってくれる人がこんなにもいる。皆が俺に額づいて尊敬する。これが通常だったんだ。は…はははは!」
それなりにデリスとメルドラーナ様から魔法を習得していた為、ビゼットは国から非常に尊重されていた。
高価な品に囲まれ、衣類やアクセサリも非常に高価なローブを着て、高級ワインを呷りながら美女だけを選別して付けた女官を侍らせている。
これがビゼットの理想だった。それが叶った今、ビゼットは美酒に酔いしれながらにやにやと笑う。
冒険なんて行かずともいいんだ。
危険な場所に貴重な癒術師が行くだなんて考えられない。
天に見る目がないのか俺には神子の試練とやらもなかった。
なら行く必要性を感じない。
「なんであんなチビが神子なんかに…チッ」
それでもやはり、自分ではなく貧民が神子に選ばれた事には不満しかない。
ビゼットは女官を乱暴に抱き寄せ、その胸に顔を埋める。
きゃっと驚いた声は上がるが、非難する声はない。
「…魔法だ。魔法さえ覚えてしまえば、神子なんかに負ける筈がない…レナイーアとデイスラニアの書物やメモにあった魔法を、全て使いこなしてやる…エクスカリバー、だったか。あれもな」
アッサーナは第一王子が戦死、第二王子はレナイーアの地を踏むことが出来ない、となかなか大変な様子ですね。これからどう動くのでしょうか。




