表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
15/16

15 加護

やっと自国の名前が出てきましたね。敵国と友好国の名前の方が先に出ているという。


 次にアッサーナが攻めて来た時は、デイスラニアの兵が混ざっていたらしいが、僕の加護が掛かっている自軍の兵には通用せず、あっさりと撃退できたようだ。


 そこでアッサーナは標的を変えた。


 我が国レナイーアの友好国メルラロリルへ攻め入ったのだ。


 自国の国土を広げる目的ではなく、占領下に置くつもりのようだ。


 メルラロリルの兵をこちらに向ければ、と思ったのだろうか。


 勿論我が国は友好国のピンチに軍を割いて援護する。


 前に出るのは我が国の兵。後ろにメルラロリルの兵を配備する。


 僕の力は所属する国の者や土地にしか働きかける事が出来なかったのだ。


 なるほど、アッサーナが僕を所属させたがる訳だ。

                                                                                                                                                                                                                                                                                                                 

 僕を大事に扱った国に寄与されるギフトなのだとしたら、僕を粗雑に扱った家族は今どうなっているのだろうか?


 今でもトラウマになっている程、良かった事が思い出せない。


 正直に言うと二度と会いたくない。



 メルラロリルに兵を割いてから、僕の体から出る光の玉の量が凄い。


 牢はもう足りなくなってしまうだろう。


 だからと言って、この状況でアッサーナに戻すわけには行かない。


 アッサーナの記憶喪失者専用の留置用の建物を新築している、という噂を聞いた。


「メルラロリルの民を護る事は出来ないけど…せめて、派遣されたうちの国の者達が、常の10倍くらい強くなれば…お願いします神様…」


 いつもの様に、ぶわりと魔力が立ち上り、メルラロリルの方角へ飛んでいく。


 メルラロリルとアッサーナとの国境は大きい。


 全体をカバーすることは到底無理だ。


 空いた陣の隙間から、どんどんアッサーナの兵がメルラロリル国内に雪崩れ込んでいく。


 最後の砦である王宮前には我が国の兵の半分が割かれて隙なく配備されている。


 民衆は一旦うちの国が引き受けている。


「大変です神子様!」


 慌てた様子で文官が僕に駆け寄る。


「アユントが落ちました!同時攻略していた様子で…傘下に入れただけで、アユントの国の名は残ったままです。もしアッサーナがアユント兵にこちらを攻めるよう命令を下せば…」


「…加護を…どうか加護を我が国の者たちへ…誰から攻撃を受けても傷つかない加護をどうか…!」


 そう祈った瞬間、僕の体から膨大な魔力が立ち上がった。


「あ…ああ…あああああああ」


 僕という管を通して、注がれる魔力が全て吸い上げられる。魔力枯渇で倒れそうになるが、注がれる魔力がそれを許さない。


「ぐ…うぁああ!苦し…くぅうううう」


 ずっと魔力枯渇と微回復を秒刻みで僕の体は繰り返す。


 耐え切れずに膝を折る僕を、文官が受け止めてベッドに寝かせてくれる。


 僕はベッドの上で体を捩る。


 祈りの内容に見合った魔力を必要とされているのだろう。


 汎用に過ぎる願いを口にしたのだからこれは妥当な消費なのだろう。


 その苦しみは半刻程も続き、終わった頃には僕はぐったりとして意識が朦朧としている有様だった。


 女官たちが水と布を持ってきて、汗まみれの体を清拭してくれる。


 汗が拭かれる心地よさにそのまま僕は意識を飛ばした。




■アッサーナ


 神子とは神の使いなのだとは聞いていた。


 けれど、ここまでとは。もうすぐ攻略可能だと思っていた敵軍の傷が治る。


 死人までもが起き上がる。


 ギリィッと後方から指揮を執るアッサーナ第一王子ヴェリウェルドは歯ぎしりをする。


「後退しつつ攻撃の手も緩めるな!」


 神子の加護が思っていたより手強くて太刀打ちできない。


 こちらの攻撃は全て弾かれ、相手の攻撃は普通にこちらにダメージを与えてくる。


 神子とはただ大地を潤したり傷を癒す存在だと思っていた。


 甘く見ていたツケがこれだ。


「こんな能力があるだなんて聞いてない…っ!さっさと誘拐班が仕事してくれればウチがこの恩恵を受けていたのに!使えねえ!!クソ、撤退戦だ!これ以上兵を減らすな!」


 じりじり後退しつつも、少しづつ兵が失われていく。


 ヴェリウェルドは焦りながらも指揮を飛ばす。


 それなりに多くの犠牲を払いながら、自国へと戻ることが出来た。



「あの効果はあの一戦のみなのか?アッサーナの兵全体にこれからも作用するのか?別の国の者ならどうだ?…クソ、解らん。神子め…一旦デイスラニアをぶつけてみるか…」


 考えたヴェリウェルドは友軍を頼んで混成軍を組み、レナイーアに再戦を挑む。


 どちらの攻撃も通らない事をグラスで確認したヴェリウェルドは、直ぐに撤退を指示する。


 最低でも敵国相手の対策はこれからも継続で続く事は確認できた。


 ならば長居をするだけ兵を摩耗するだけだ。



「クソ、本当に鬱陶しい加護だ。ならば友好国ならどうだ?友好国相手にこんな加護は付けないだろう…?メルラロリルを囮にしてアユント本命で攻め落として傘下にして、アユントの兵のまま攻め込ませれば…ま、取れそうならメルラロリルも貰っとくか」


 王子はニヤリと笑みを浮かべる。


 敗戦続きでかなり苛々していたのだ。


 この辺で一つや二つ勝利しておきたい。


 どうせレナイーア国内の兵はメルラロリルに割かれる事だろう。


 その隙にレナイーア内に偽装させた兵を仕込んで置けばいい…。


 影は何故か帰ってこないのが気にかかるが、兵に捕まったのだろう。


 だが、こちらからも手練れを送り込めば神子を攫うことも出来るかも知れない。



「あれだけの力を持つ神子だ。ウチの所属になればここら一帯の国は全てアッサーナの物になるだろうな」


 ふ、と口元に笑みを浮かべ、ヴェリウェルドは月を眺めながらワインを口に運んだ。




■家族


 最初は腕だった。急にナイフで刺されたような傷跡が現れた。


 その次は腹だった。


 死ぬかと思ったが、刃渡りが短かったことでなんとか命を取り留めた。


 しかし治ったかと思えばまた傷が現れる。


 体のあちこちに暴力を受けたような痣も現れ始める。


 何本か折れた歯を吐き出す事もあった。

 妻や娘にも痣が現れ、痛そうだったり苦しそうだったり、誰も食料などを調達出来る状態じゃない。


 理不尽な透明な暴力に、ふと気づく。


 これは自分たちがデリルに与えた暴力と同じものだと。


 そう。最初に自分は腕から刺した。


 その後は執拗に腹を狙った。


 そして最後に――。



 ゾクリ、と父親は身を震わせる。


 そう、胸を狙ったのだ。


 カクン、と一瞬力を失ったデリルの姿が脳裏に蘇る。


 その後すぐに息を吹き返して治癒されていったが。


 あれは一瞬死んだのではないのか?自分が今負って居る怪我は自然治癒を待つしかない。


 膿んだ箇所も幾つかある。


 なら自分が胸を刺した番が回ってきたら、自分は死んだままになるのではないか?


 ぶるぶると体が震えだす。


 嫌だ。


 何故俺が。


 あんな悪魔を退治しようとしただけでこんな目に。


 死にたくない。


 胸を刺した場を見ていた妻と娘がハッとそれを思い出したのか、何とも言えない顔で俺を見る。


「…や、やめろ、そんな目で俺を見るな。こんな目に合わせてくるという事は、あいつは悪魔で間違いなかったという事だろう!俺は間違ってなかったんだ!」


「……天罰、じゃなくて?」


「バ、馬鹿な事を!こんな陰湿な仕返しを天が許す訳がない!」


 勢いで妻を殴りそうになるが、そんな隙間もないくらいに妻の頬は腫れ上がっている。


 ぐっと拳を握りしめて耐えた。


「……そう。どちらにしても貴方はもうすぐ終わるのね…」


 比較的今軽傷である娘は、森の入り口に食料を取りに行った。


「……何故…何故俺が終わらなければならない?悪魔を退治しようと頑張ったんだ。褒められても良いだろう!?」


「――ねえ、神子の祈りで兵も市民も、この国の者は誰一人怪我を負うものが居なくなったというのよ」


「はぁ!?俺たちは怪我塗れじゃないか!デマも良いところだ!」


「そう。私達だけ、あの子にやった事が返ってきてるの」


「――何が言いたい」


「いいえ、天にとっては私達は庇護下に入れる価値はない、と審判されたのだという事ね」


「~~~~~~~~~!!!!」


 駄目だ、これ以上傍に居ると、青痣まみれの妻に更に傷をつけてしまいそうだ。


 俺はドスドスと足音を立てて自室に籠る。


 何故、俺が死なねばならない!


 理不尽にも程がある!!


 薄い布団に拳を叩きつけた瞬間、俺は胸に鋭い痛みを覚えて布団に倒れこむ。


 溢れる血液で呼吸がままならない。


 指先が冷たい。


 痛い。痛い。痛い。


 誰か。


 ガバリと開いた口から大量の血液を吐き出しながら、父親の体は冷たくなっていった。



 最後まで、彼の思考は何故自分がこんな目に合うのか、という事で埋め尽くされていた。



自分がデリルにやった事が正確に返ってきているだけなので、まさに父は自業自得としか言いようがありませんね。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ