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14 戦端

戦争の始まりですね


 街中で、50名ほどの記憶喪失者が見つかったという報告が上がってきた。50。


 昨夜浮かんだ光の玉の数と同じだ。


 その中には例の王子も混ざっていたようだ。


 顔を知っていた文官が驚いて全員国へ強制送還したそうだ。


 僕が祈った内容的に多分彼らはもうこの国に入ることは出来ないだろう。


 戦争はあちらから既に軍隊が出発したと聞く。


 自然と僕は外出を禁じられた。


 寂しい。そしてそれ以上に心配だ。


 国境と接している町は既に戦端が開かれているという。


 どうか、我が国の国民に被害が出ないように…。


「我が国の者がアッサーナの攻撃で傷つかぬよう、殺されぬよう、どうぞ天よ我が国を見守って下さるよう畏み申し上げる」


 ふわりと魔力が天に吸い上げられる。


 この願いは叶えられるのだろうか。


 皆無事で居てくれるだろうか。




 ふわっと自軍が虹色に輝く。


 傷を負って居た者はその傷が急速に癒える。


 重症だった者も今まさに死に逝こうとする者も、直ぐに健康体へと立ち返り、戦闘が可能となる。


「デリル君…?」


 片腕を失ったミルが復活した腕を見て呟く。


 満身創痍だったアズも綺麗に傷が治っている。


 瀕死で倒れていたレンドもむくりと起き上がる。


 思ったより敵軍の先鋒の数が多かったのだ。


 敵軍10万、自軍2万の戦いだった。


 罠を仕掛けて回るだけだったフィーすらも足を矢で撃たれている。


 傷が癒え、刺さっていた矢が押し出されるように地に落ちる。


 死人すらも起き上がる。


 敵軍はおろか、自軍も動揺に包まれる。


 レンドは声を張り上げた。


「神子様の加護ぞある!応援が到着するまでこれなら我が軍には被害はない!押し返せ!!」


 少し戸惑いは感じられるが、自軍から歓声が上がる。


 鎧は血に塗れていても、その中の体は完全に治癒している。


 相手の剣はバリアに弾かれ、自軍には届かない。


 10万の敵軍は2万の軍に押され始めた。


 そこへ、沢山の馬の足音が響く。


「援軍だ!!今だ!押し返せるぞ!!」


 わあっと援軍が押し寄せ、ほぼ同数となった上に一方的に攻撃される敵軍は、ある程度の被害を出した時点で引き上げて行く事となった。


「…デリルが居なかったら皆死んでたな…」


「約束破っちゃうとこだったね…」


「も~ちょ~感謝ぁ~!」


「有難い」


「そもそも先鋒ってあんな数で来るもんじゃないだろ。本陣が動いてなかったみたいだけど、伝令でも走ったか?」


「でも、デリル君の支援ありきで活動する癖が抜けないとまずいよ。ちょっと鍛錬しなおししないと」


「あ~それねぇ~俺ちゃんも思ったよぉ」


「同意」


「それにしても、あれに加えて本陣って、軍事国家なだけあって兵の数が半端ないわねー」


 その分、民が疲弊している事は周知の事実だ。


 国を逃げ出そうにも逃亡者は処されてしまう。


 それでも着のみ着で何も持たずに命からがら別の国へと逃げてくる者も居る。


 大体は隣接している事もあって我が国だ。


 若しくは同じく隣国であるティルザニアだ。


 一旦保護対象として教会に引き取られ、仕事が見つかれば其処から出れる。


 そういった制度を取っている。


 1年以上は教会で生活の保障はしない。


「まあでもデリルが動いたなら、多分負ける事はないだろう」


「バリア掛かってるみたいだねぇ~。でも俺ちゃんたち同士なら普通に障れるのが有難いねぇ~」


「多分戦闘時の支援と違って天に祈ってくれたんだと思うよ。アッサーナの奴らだけ触れられないんじゃない?」


「器用」


「だから、デイスラニアの援軍があるようだとちょっとまずいかもね。そっちもデリル君に頼めばなんとかなるんでしょうけど…」


「なんでもデリル君に頼んで終わり、というのは…いやでもデリル君の身柄の事を考えると伝えておいた方が良くないか?」


「あ~…頼りっきりにしたくもないけど、ターゲットがデリル君だからねぇ~。安全の確保はしておいた方がいいだろうねぇ」


「実利」


「こればっかりはしょうがないかー。でもその位は神殿の文官からも聞いてそう…ぁ」


 ふわあっと虹色の光がまたミル達の体を包む。


 多分デイスラニア対策なのだろう。


「…悩んでたの、無駄だったみたいね」


 ぷ、と苦笑するミル。


 仲間達も苦笑している。


「デリル君、心配性のお母さんみたいだねぇ~」


「っはははは!違いない!いつでも過保護なくらい支援掛けて尚まだ心配してくれるからな」


「同意」


 合流した自軍は境界全体に駐留する。


 アッサーナがあの一度きりで諦めたとは思えないからだ。


 その間に報告を受けたアッサーナは次の手を考えるのだった。




 ふわふわと光の玉がまた飛んでいく。


 ここ数日、定期的に光の玉が体から出て飛んでいくのだ。


「…記憶喪失の人がまた増えたのかな…」


 ふうっと僕はため息をつく。


 アッサーナから忍んで来た誘拐要員に違いない。


 彼らは自分が誰かも分らず、何故此処に居るかも分らず、途方に暮れた顔で警邏に引っかかる。


 そして、記憶喪失でそれなりの腕を持っていそうな人間はアッサーナからの差し金である事は周知されているので、牢屋に放り込まれる。


 訳の解らないアッサーナの人間は、牢の中で途方に暮れている。


「皆無事かな…最初からデイスラニアの人間が最初から混ざってたりしないよね…?」


 次の日、全員が無傷だという報告を聞いて、デリルは笑顔になるのだった。




■家族


「白い羽が生えて全身が光ってるらしいのよ」


「そらみろ!やっぱり化け物じゃないか!!」


「お兄ちゃんを奪おうとして戦争が起きてるらしいよ」


「疫病神の化け物か!碌なもんじゃない!」


 母と妹は薄々デリルが尊い存在となった事に気づいている。


 しかし、父親は一切の意見を聞き入れる気がないようだ。


 自分が間違っていたと認めたくないようだ。


 認めてしまったら、王より尊いと言われる存在に暴力を加え、何度も刺した自分の行動が許されないと解っているようだ。


 だから否定する。


 自分に罪などないと跳ねのける。


 まるで認めた瞬間に官吏に捕まるとでも言わんばかりの必死さだ。


 認める認めないに関わらず、国からこの家族の心証は最低に近い。


 デリルが『関わらなくて良い』と言ったから放置されているだけだ。


 デリルがその言葉を覆したならば、罪に問われる事は間違いない。


「ねえ、お父さん…デリル、王様より偉いって…」


「デマを本気にしてるのかお前!」


「あなた…今回の戦争、味方に傷一つなく終わったのもデリルのお陰だそうよ」


「デマだ!皆デマに振り回されすぎじゃないのか!」


 母子はこっそりため息をつく。


 子に会いたい。


 兄に会いたい。


 叶えられることはないだろうが、そう望んでしまう。


 会ってせめて謝りたい。


 抱きしめたい。


 父は神子への言動の所為で近所から煙たがられている。


 僅かに見つかっていた仕事先でも煙たがられ、そろそろ仕事がなくなってしまいそうだ。


 元々貧民層であったが、より困窮した家族は、3人揃って出来る仕事を探す。


 今の稼ぎ頭は母だ。妹は幼い為、森の入り口で食用の虫を採取してくる程度の事しか出来ない。


 キノコは沢山生えているが、食べられるキノコがどれなのか、妹には見分けがつかなかった。


 運が良ければ太ったトカゲを捕まえる事が出来る日もある。


 食べられる野草はある程度見分けがつくので、それも採って帰る。


 そして、母の仕事で漸く買えたパンでご飯にするのだ。


 薪は父が拾ってきて割ってくる。


 野草と虫はそれでなんとか火を通して食べられる。


 せめて父が外では言動を慎んでくれないかと母子は思う。


 民にそれだけ慕われているのだ。


 実際貧民街のどろどろした土地が畑に起こせる程に豊かになり、全員が其処で野菜を育てて収穫物を持ち帰っている。


 だが、父はデリルが関わったというだけでその農地を忌避し、畑作業に行かない。


 勿論其の所為で分け前はない。


 本当は代わりに母が行こうとしたが、殴られて止められた。


 どうしようもない。


 貧民街の人々の顔色が良くなり、やせ細った体にそれなりの肉がついていく中、デリルの家だけが取り残されている。


 母子の目が潤んで地に染みを作った。



数の差が圧倒的だっただけで、レンドさん達はちゃんと強いです。

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