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13 誘拐未遂

いよいよ狙われ始めるデリル君です。


 噂が流れるのは早かったようだ。


 アッサーナから戦争の声明が上がった。


 そして僕の所属は王宮ではなく、神殿へと変わった。


 王家の保護もある。


 相変わらず閃いた癒術はメルドラーナ様に報告するようだが、神子としての奇跡を起こした際には神殿で管理されるようだ。


 お爺ちゃん先生も神殿で講義してくれる。


 ダンジョンに行くのは全力で反対されたが、僕が泣きそうな顔をすると、渋々認めてくれた。


 ダンジョンに行くのは皆で楽しく冒険したいからであって、お金はもう、一生遊んで暮らしても問題ない程全員稼いでいる。


 このままの僕をいつも通りの対応で受け入れてくれる仲間を、僕は失いたくない。


 何せこの姿になってから、拝まれる。


 平伏される。


 祈られる。


 廊下を歩くと膝まづいた人々が両脇に並ぶ。


「神子様、どうぞこの国に安寧と豊穣を」


「飢餓に苦しむ民をお助け下さい」


 飢餓は苦しいだろう。


 助けたい。


 そう思うのは本当だ。


 シャリン、と軽やかな鈴の音が鳴り、胸のタトゥーが服の上にまで浮かび上がる。


「大地よ豊穣なりて飢える者を病める者を救い給え。この国を潤せ大地よ肥沃たれ!バウンティフルハーベスト!」


 僕から魔力が溢れ出て大気に大地に溶け込んでいくのが解る。


 今まで僕が持っていた魔力の器に、何処かからか尽きる事無く魔力は補充され続け、減る事がない。


 この国の国土に満ちていく魔力が、遠方の枯れた大地にも力を注ぎこんで豊かな土に変わるのが感じられる。


 満ちた、と感じた所で漸く魔力の放出を止める。


 近くに侍り、呪文などを書き留めていた神殿文官が平伏していた。


「あ、あの、僕は自分に出来る事をしただけですから、あの、立ってください」


「み…神子様から溢れる神気が凄くて…た、立ち上がる事など…」


 どうやら物理的に立てないらしい。僕はその気を引っ込め、引っ込め、と必死で念じるがなかなか上手くいかない。


 器にまだ注ごうとする魔力を絞ってなんとかこれ以上の魔力を注がれないよう蓋をすると、神気も薄れたようだ。


 詰めていた息を吐いた文官が漸く立ち上がる。


「あ…良かった。すいません上手く調節できなくて」


「いえいえいえ!!こちらこそ意に添わぬ行動を失礼致しました!全て神子様の意に添いたいのですが、こればかりは…」


「あ…うん、そんなに畏まれられるのもちょっと…もうちょっと砕けた言葉で話して貰えないかな…」


 一番の望みを口にした途端、文官の顔がさあっと青くなる。


 ぶるぶる震えながら首をゆっくり横に振る。


「そ…そればかりはいくらなんでも…ど…努力は致しますが、何卒…何卒猶予を…」


 そのまままた平伏しそうになる文官を、必死で立つように引き止め、僕は嘆息する。


 お爺ちゃん先生だけは以前と変わらない対応でほっとする。


 それでも息苦しい。心が休まらない。


 ほぼ神と同等の目で見られている。



 そして、我が国の大地は肥え、各地の農産物は豊作となり、飢餓に喘いでいた村には、毎日農作物や肉が何かに供えられるようになった。


 ただしそれに甘えて働くことをしない村には供え物は無くなっていった。


 病魔に侵されて居た者は快癒し、神子の奇跡だと国中が喜びに包まれた。




「疲れた顔してんねぇ~どしたんデリル君」


「あー…癒されますー…」


「何か色々大変だったんだね?よしよし」


 くしゃくしゃと金髪を撫でてくれるミルさん。


 こういうフランクな対応が物凄く嬉しい。


「ずっと周りが僕を神様みたいに扱ってくるんだよ…疲れるよ…」


「それは…想像するだに疲れるな…」


「うむ」


 それから、今日は何処のダンジョンに行くかを話し合っていると、剣戟の音が響いた。


 相手が手ごわいのか、影の人が姿を現して相手を牽制し、なんとか意識を奪おうとしている。


「ほお。神子が冒険者ギルドに出入りして冒険者をしているという噂は本当だったようだな?」


 なんだか後ろで煌びやかな鎧を身に着けた見覚えのない男が言う。


 影はなんとかその護衛たちを昏倒させ、その男に向き直る。


「この国からアッサーナへ宣戦布告か?俺は第二王子のデュスリンだぞ」


 ぐ、と影が怯むが、僕を庇う位置から動かない。


「この方は神よりのお使いだ。王族よりも上の地位に位置している。狼藉を働く者には極刑しか用意されておらん」


「王族より上だと?ウチの国では王族の下だな。問題ない」


「此処は我が国の領地!適用されるのは我が国のものとなる!退け下郎が!」


「…ちょーっと見過ごせないよねぇ~」


「…」


「あたし達のPTメンバーを連れ去ろうっていう気?」


「絶対に見過ごせん」


 PTメンバー達も臨戦態勢になる。


「ハードプロテクション!エリアバリア! リフレクトマジック!体力強化。力増加。速度増加。魔攻増加。エクストラシールド。ソードシャープネス!」


 僕はPTメンバーにフル支援を掛ける。


 そして――


「ハイスロウリー!アンチストレングス!アンチマジックディフェンス!アンチディフェンス!」


 王子と名乗る人物にデバフを掛ける。


 不利を悟ったのか、王子は舌打ちをし、踵を返す。


「今回は顔見世だけに留めておく。今攻撃してきたら国家間の問題になる事は理解しているな?」


「くっ…」


 そのまま悠々とギルドを出ていき、煌びやかな馬車へ乗る。


 倒れた護衛は影が確保済みだった為、牢屋に入れられた。


 結果、やはりあの場で僕を拉致する目的で訪れたようだ。


 暫くギルドには顔を出さないほうがいい、と言われ、僕は項垂れながらも頷いた。


 PTメンバーからは慰められ、メンバーが拠点としている場所を教えてもらった。


 これからはギルドではなく此処で集まってダンジョンに向かわないか、と誘われる。


 僕は笑顔で頷いた。また皆と冒険できる!


 ギルドからこっそり出て、影さんに誰かに見張られていないか確認する。


 現在見張りは居ないとの返答に、僕達はいつも通りダンジョンに向かう。


 お金は特に必要ないのならば、事態が落ち着くまでギルドで換金をしなければいい。


「試練が終わったんなら、敵が変わる事はもうないのかな?」


「そうだと思うんですけど…」


「此処だったら確かキングレイスだった筈だけど」


「背伸びせずに済むならそれが一番いいよねぇ~。いつもデリルに世話になりっぱなしだからなぁ~」


「そうだな」


 ダンジョンはランク相応の場所を選んだそうだ。


 グレイブダンジョンと呼ばれる此処は死霊の巣だ。


「ピュリフィケーション」


 フロア全体に浄化を先に掛けておくと、明らかに死者達の動きが鈍る。


 聖属性を付与しておいたレンドさんの剣がすぱすぱと死者達を斬り捨てていく。


 ミルさんも範囲魔法で敵を倒している。


 盾を擦り抜けてくる敵に苦戦しているアズさんの盾にも聖属性を付与する。


 すると今まで通り抜けていたレイスを盾で叩き返してダメージを負わせる事が出来るようになった。


「いつも支援でガードされてるから、ほんと誰も怪我しないよね~。ヒールするデリル君の姿殆ど見れない~」


 罠の解除をしながらフィーさんが苦笑する。


「そんなの見れないほうがいいでしょうよ」


「そうだ。誰かが怪我するって事じゃないか」


「不穏」


「うん、皆が苦しんだり痛がったりしてるとこは僕も見たくないな」


 ふわ、と思い浮かんだ魔法を口にする。


「ホーリーボール」


 敵に聖属性の攻撃をする魔法だ。


 攻撃が当たった敵が浄化されたように消えたり塵と消えたりする。


「わー。成仏させた感が凄い!」


「同意」


「死者も本望な魔法だね~」


「ああ、凄いな」


 そこからは、僕も攻撃に参加しながら進んでいく。


 皆と一緒に敵を倒すのは楽しい。


 凄く楽しい。


 盾で殴り飛ばすアズさんの攻撃も加えてサクサクとダンジョンを進んでいく。


 ダンジョンを進んで行くと段々と敵が手強くなって行くが、ホーリーボールを受けた敵は例外なく一発で消えていく。


 聖剣も同じく。


 魔法と盾は2~3発撃ちこめば敵がやっと倒れる。


 リッチは防御も魔法防御も高く、唯一の弱点が聖属性のようだ。


 事前にピュリフィケーションで弱らせているが、それは変わらなかった。


 それでもそれなりにどんどんと進み、ボス部屋まで其処までの苦労もなく辿り着けた。


「ん。ちょっと待ってねぇ~少し面倒な罠が………んしょ、これでOK。解除できたよぉ~」


 ガヂン!という罠が空振りする音が響いた後、フィーさんが扉を開いた。


 フロアの奥にはキングレイスが居る。


 こちらに気づいたレイスはふわりとこちらに向かってふわふわと移動してくる。


 アズさんが聖属性の盾で受け止め、その隙にレンドさんが胴を分断するように斬りつけ、僕はホーリーボールを頭に向かって撃つ。


 ミルはアースランスで下から頭までレイスを貫いた。


「グギィイイイイ!!」


 腹から下を失い、頭部の半分を失ったレイスは、それを補填しようと僕達から精気を吸い取ろうとする。


 その為に翳された手をレンドさんが叩き切り、僕は残りの頭をホーリーボールで消滅させる。


 初めて皆共同で力を合わせて敵を倒したような高揚感があった。


 嬉しい。


 背伸びした敵を無理矢理思いついた魔法で捻じ伏せるのはなんだかこういう手ごたえがなかったのだ。


 達成感でにこにこしながらドロップの杖を鞄に入れる。


 ギルドに行けるようになったら売却しよう。


 …あれ、でも…。


「ミルさんの杖とこれ、どっちがいい?」


「え?…そうね、ドロップ品の方がかなり良さそうかな?」


「じゃあ、これ、ミルさんが使いなよ…あ、待って。キュア」


 呪いなどが掛かっている可能性もあるので浄化してからミルさんに渡す。


 他のメンバーも異議はないようだ。


「えっ…貰っちゃって本当にいいの?――ありがとう!」


 にこにこしながら新しい杖を腰に下げるミルさん。


 嬉しそうな姿を見ると僕も嬉しい。


 ダンジョンを出ると、ギルドではなくて皆の拠点へ帰る。


 アズさんがエプロンをしてキッチンへ消えていく。


「アズさんが料理を…?」


 すると、罰の悪そうな顔で、ミルさんが言う。


「私…料理すると全部黒焦げにしちゃって…」


「俺も男料理って感じの大雑把な料理しか出来ない。アズが料理上手なんだ」


「あは~僕は女の子にあげるスイーツなら作れるんだけどねぇ~。食後のデザート作ってくるよぉ」


 少しするとアズさんの手料理がテーブルに並び始める。


 ギルド食堂に負けない豪華さだ。


 仕込み終わったフィーさんが戻るのを待って乾杯する。


 アズさんの料理はビックリするほど美味しかった。


 ギルド酒場の料理も美味しいが、もうちょっと家庭的な美味しさだ。


「美味しいですアズさん!凄いです!」


 わいわいと楽しく食べている間に、影の人がスッと現れる。


「影の増員が決定しました。お邪魔にならないよう、今までの私と同じく皆気配を消して侍りますのでお気になさらず。戦争、と言いながら個別にちょっかいを掛けてくるやり口に危機感を抱いた王家・神殿両方の決定です。戦争は戦争でやる気がある様子ですので、戦争になったら絶対に前線にも後衛にも出ず、王家の秘密の部屋で警護されていて下さる事を望みます」


「僕は支援と相手の弱体化が出来ます、お役に立てると…」


「いえ、目的の人物が戦線に出られてしまうと味方も動きづらいのです。申し訳ありませんが、隠れていて下さい」


「………はい……」


「では、お伝えしたい事は以上です。失礼します」


 言いたいことを言い終わると、影の人はスッと消える。


 わいわいしていた雰囲気が一気に静かになった。


「…あの…皆、戦争になったら…戦うの…?」


「――そりゃデリル君を狙ってきてる国なんて、叩き返しに参加するけど」


「…俺も参加するな。そもそもギルド員はほぼ参加を促されると思うぞ?」


「同意」


「俺ちゃんも参加ぁ~」


「…………………うぅ…っ」


 ぽろ、と涙が零れた。


 泣いたところでどうにもならないと解っていても、戦いに行く仲間を守りに行けない事が悔しくて悲しくて涙が零れた。


「み、皆が死んだら…っ僕…僕は…っ」


 皆が慌てたように僕を囲んで頭を撫でてくれる。


 4つの手がもしゃもしゃと動くものだから髪はぐしゃぐしゃだ。


「…あ――実感湧かないようだけど、俺たちはかなり強いんだぞ?」


「そうよ。特に私は後方支援部隊の方だから危険は少ないわ」


「俺ちゃんも工作部隊だからあんまり危険じゃないよぉ~」


「俺とレンドが前線だな。だが今なら最高級の装備に買い替える事も出来るし、デリルとの冒険で腕も更に磨けたんだ。俺たちを信頼してくれないか」


「絶対…絶対死なないで!ポーション一杯買ってケガしたらすぐに使って!僕もそばに行きたいけど…行けないみたいだから…」


 多分抵抗しようとしても、王族や神殿の人々が集まって僕を部屋に閉じ込めるだろう。


 なんとも出来ないに違いない。


「僕は皆が大好きだから!!!無事でいて!!!」


「うんうん。約束するよ」


「ていうか、まだ招集掛かってもないんだからまだ心配するのは早いよ」


「デリル君と今後もず~っと冒険するんだからねぇ~!無事に戻るに決まってるさぁ」


「無論」


 皆と握手をして、少ししょっぱくなったフィーさんの美味しいデザートを食べた。


 帰りは皆が神殿まで送ってくれた。


 帰り際に襲われたりはせず、無事に自室まで戻れた。


 今日の王子のような者が、もう関わってこないように祈った。


 すると体から50くらいの光の玉が浮かび、何処かへ飛んで行った。


 ――何だったのだろう……。



光の玉は何処に飛んだのでしょうね。

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