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12 神子

片翼じゃなくなります。

 翼は正直だ。嬉しいとぱたぱたと動き、緊張するとピーンと上に伸び、癒術を使うとふわりと広がる。


 感情がダダ漏れだ。


 恥ずかしい事この上ない。


 メルドラーナ様に新魔法をお伝えしに行くと、翼にまず瞠目していた。


 それから柔らかく微笑む。


「今回の魔法も凄く汎用性が高いわね。凄いわデリル」


 褒められた僕の羽がぱたぱたと羽ばたく。


「ありがとうございます」


「ふふ。犬の尻尾みたいで可愛いお羽ね」


「あ…あう…恥ずかしい…です…」


 へにょんと恥ずかし気に翼が垂れる。



 お爺ちゃん先生は相変わらず顔色が優れない。


 戦乱の臭いが近づいてきている気がするのだという。


 まだ正式な宣戦布告は為されていないのだというが、それも時間の問題だという。


 神子ってなんだろう。


 何をさせたいのだろう。


 戦争などという民が疲弊するような事を何度も精力的に起こすような国が、神子などを手に入れて何をさせる心算なのか解らない。


 土地や民を潤したいならばそもそも戦争などせずに、内政に力を注げばいい。


 今日の授業内容はなんだか上手く頭に入らなかった。



 相変わらず王宮でビゼットに遭遇する事は無い。


 僕としては有難い事ではあるけれど、ビゼットはきっと、僕の所為でかなりの行動制限を受けて居るだろう。


 その事でビゼットは更に悪意を募らせている気がする。


 どうしても顔を合わせなければならない事があれば憂鬱だ。


 だが、ビゼットは、僕も考えつかない方向へ思考を回していたのだった。



「さて、今日は緑巌のダンジョンだね。宝玉を落とす敵と、珍しい植物の種を落とす敵が出るんだよ。金策ダンジョンの1つだねー」


「ま~俺ちゃんらは金策する理由はないんだけどねぇ~。色んなとこ回る方が楽しいしね~」


「まあ、本来のボスはグリーンセンチビードなんだけど…何が出るだろうな?」


「…」


 ダンジョンに入る前に、全員に支援魔法を掛ける。


「ん~エルダードライアドクイーンとかかな。前と同じで緑竜とか」


「あー。どっちも有り得るな」


「うへぇ~罠まみれ~」


 ヴァイオレットイグアナなどの小さめの敵がぴょこぴょこと出てくるのをレンドさんが露払いしながら、フィーさんが罠を解除しながら進む。


 1m置きに設置されているくらいの頻度であっちこっちで手早く罠を解除して回る。


 その所為でイグアナから採れる小さな宝玉が僕の鞄にひっきりなしに放り込まれる。


「うへぇ~やっと1Fの罠クリア!」


 飛び掛かってくる魔物をさくさくと倒し、2Fへ移動する。


 フィーさんの顔が情けなく歪む。


「さっきよりは減ったけどぉ…多いよ罠ぁ…」


 ダンジョンのオブジェと見紛う岩に絡む蔦が襲い掛かってくる。


 アズさんは盾で弾こうとするが、蔦は盾に絡もうとする。


「ストーンエッジ!」


 ミルさんとレンドさんが蔦を切り裂いており、アズさんは下がらざるを得ない。


 2m程のグリーンリザードが襲い掛かってくる。


 アズさんがメイスの攻撃を捌く。


 それをレンドさんとミルさんが連携して蔦と共に撃退していく。


 蔦からは何にも素材は取れないが、リザードからは少し大きめの宝玉が出た。


「罠、解除終わったぁ~!」


 どうもこのダンジョンは罠が多いが、階層を経る毎に罠の量は減るようだった。


 7階層くらいまで降りた辺りで大分罠が減った、とフィーさんが一息ついていた。


 敵は段々と手ごわくなっていて、固い敵が多いのか、レンドさんとミルさんの攻撃1発では少し足りなく、2発叩き込んでやっと沈む。


 その分アズさんが抱え込む敵の数が増える。


「…オフェンシブハード」


 ふわりと降りて来た魔法をレンドさんとミルさんに掛ける。


 すると、トロールを1発で屠れるようになり、アズさんは新しい敵だけを抱え込めば済むようになった。


 トロールは結構大き目の宝玉を落とす。


 全て僕の鞄に詰め込められる。


 ボス層に近づくにつれ、罠は殆どなくなっては居たが、トロールとグリーンゴーレムが襲い掛かってくる。


「以前来た時は固くて処理しきれなくてこの辺で帰ったんだよな確か。デリルの魔法でガンガン倒せるから有難い!」


「あたしの魔法も威力上がってるから範囲魔法で敵が倒せるの嬉しいよ!」


 それ以降は罠で時間を取られる事もなく、ごろごろと大きい宝玉が鞄に詰め込まれていく。


 最後のマンイーターを倒し、ボス部屋の前までやってくる。


「罠解除OKぇ~開けるよん」


 ボスフロアの奥に非常に綺麗な女性が居る。


 が、人間ではない。3mはあろうという身長に足元から延びる蔦。


「ハイスロウリー!アンチストレングス!アンチマジックディフェンス!アンチディフェンス!」


「うわ初めて見た。ほんとにエルダードライアドクイーンじゃん…」


 クイーンという名の通り、その頭には華奢な王冠が乗っている。


 にこりとその綺麗な顔を綻ばせ、薔薇の咲く足元の蔦が先頭に居るアズさんへと飛ぶ。


 蔦と盾は相性が悪い。


 レンドさんが飛び出してその蔦を両断するが、次々と蔦が伸びて来る。


「爆ぜよ滅せ我が敵を!エクスプロージョンロック!!」


 ミルさんがクイーンの足元の茨を爆裂させ、散り散りに分断する。


 3度目を打ち込む頃には薔薇ごと蔦を全て破壊されたボロボロのクイーンの足元。


 蔦は再生しないようで、クイーンの背に巨大な薔薇が咲く。


 ふわっとした感触のまま、僕は魔法を発動させる。


「テンプテーションシャットアウト」


 どうやら背後の薔薇から香るきつい香水のような匂いは魅了の香りだったようだ。


「ナマイキ…コロス」


 魅了も通じていないのが解ったクイーンは片言で呟き、煌びやかな剣を取り出した。


 今度こそアズさんが前に出て、剣を受け止める。


 その隙にレンドさんがクイーンの頭を斬り飛ばす。


 が、足元の薔薇と違い、頭がすぐに再生する。


 腕を斬り落として剣を落とさせる事にも成功したが、腕も剣も再生する。


「弱点誰か知らないか!?」


「ええっ知らない!」


 アズさんは上手く斬撃に盾を合わせてその剣を折るが、やはり再生する。


 ふわりと魔法が降りて来る。


「枯死せよその緑を魔力と化して我に捧げよ ウィザリングトゥデス」


 まるで生命力を吸い取っているようだった。


 みずみずしい緑の肌がカサカサの茶色に枯れていく。


「ヨクモ…!!ヨク…モ……」


 クイーンの足元から枯死が始まり、じわじわと全身に広がる。


 身動きが取れるのはもう頭部のみだ。


 それも直ぐに茶色にしなびた。


 パリパリ、と茶色のクイーンの表皮にヒビが入り、粉のようになって剥がれ落ちる。


 其処には1周り小さくなった、最初の姿のクイーンの形をした、芸術品のような緑の翡翠のようなものが現れた。


「うわぁ綺麗…」


「芸術品としても売れそうだな」


「材質、何だろうねぇ~?」


「…」


「…ぅ、あ?」


 ばさりと両翼揃った翼と共に、声が降ってくる。


『我が神子。良く神具を揃えた。今より人から解脱して神の子として認める。世を平和に潤し、人々の安寧を我は望む。その為に必要な力を振るえるよう、我から其方に力を授けよう』


 僕の胸元がぱぁっと光り、ペンダントではなく、胸に直接神々しい光を放つタトゥーが刻まれる。


 体の組成が1から書き換えられるような離人感。


 魂が体から浮いて宙で構成しなおされる。


「あ…あ…ああ…ぅあああ」


 周囲からは僕が光の繭に覆われているように見えたそうだ。


 下手に手を出して僕に変な後遺症が残ったらどうしようと惑っているうちに、手を出しそびれていたそう。


 天からの声は皆にも聞こえていたらしく、見守ろうということになったようだ。


 体に魂が嵌まった時にはびっくりするほどしっくりした。


 今まで何故あんなに不自由な体で我慢出来ていたのか解らない程に。


 繭が解け、皆の前に姿を現した僕は、ふわりと宙に浮いていた。


 重力という軛はもう僕を縛らない。


「で…デリル君…?なんか…凄く神々しいんだけど…」


「気を抜くと膝まづきそうだな…」


「神子…」


「気づいてるか解んないけどさぁ~、全身金色に微妙に発光してるよぉ、デリル君」


「え…?」


 一先ず地に降り、自分の姿をあちこち確かめる。


 光がまるで微細な金粉を纏ったような状態になっている。


 腕を動かすとその軌跡に沿うように金粉が舞って消える。


 …これ、風呂に入ったらどうなるんだろうか。


 茶色だった髪は金髪に変わり、こげ茶だった目もルビーのような赤に変わってしまったと言われる。


 目立つ。


 悪目立ちしまくりである。


 一目で人ではないと解ってしまうだろう。


 がくりと僕は膝をついた。


「僕は…人間…じゃなくなったの…?」


「まぁそうかも知れないけど、デリル君はデリル君だから、あたし達は気にしないんだけどね」


「まあな。俺らはそうかも知れんけど、デリルの周りは変わるやつも多そうだな…心配だ」


「そうは言っても、帰らない訳にもいかないじゃんねぇ~」


「…」


「……そう、ですね。此処に居ても仕方がない…帰りましょう…」


 クイーンの像を鞄に入れてダンジョンを出る。


 暗くなりつつある時間に、僕の発光は一際目立つ。


 街に入った瞬間から注目の的になった。


 恥ずかしい。


 ギルドについても、マスターが目を瞠って僕を見る。


「――これが神子か。多分お前さんが歴代で初の神子だ。…奪い合いにならねばいいが。…じゃあ素材を出せ」


「あ、はい」


 マスターは概ね通常運転でほっとする。


 山のような宝玉とクイーンの像を出すと眉間を抑えて呻く。


「樹精霊の核だ…これほどのものは…以前のイフリート以来だなオークションに出す。宝玉の分だけ支払おう。…白金5、金80だな」


「んじゃ皆白金1枚づつ、金はデリル君で!」


「異議なし」


「いいよん」


「うむ」


 また多めに貰ってしまったけれど、お金は皆足り過ぎてて今更金貨でどうこう言う気も起きない。


 ギルド酒場で打ち上げに行くと、僕の姿を目にしたビゼットが行き成り立ち上がり、昏倒させられて消えた。


「今日は早かったね…」


「目立つから目に入っちゃったんだろうね…」


 注目が集まる中で、いつも通りの空気で食事を楽しむ。


 因みに翼を含めた装身具全て、僕以外の人間には触ることが出来ない。


 ふわりと手や体をすり抜ける。


 外すことも出来ない。


 僕の体を軸に固定されているようだ。


 取りづらい位置の料理を取ろうとすると勝手に体がふわりと浮き上がる。


 見ている他の人から歓声が上がる。


 み…見世物みたいだな僕。


 それでも美味しくご飯を食べ終わり、いつも通りミルさんと魔術棟に帰る。


 帰り道は何時ものように暗くなく、僕の体が道を照らしていた。


 眠れるだろうか、と一瞬不安になったが、風呂に入ってベッドに入るとすうっと光が消えていく。


 僕は安心して眠った。



神子の誕生と迫る戦争。そろそろ声明が出そうですね。

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