11 戦の臭い
戦争が起こらなければいいのですが。
「今回の魔法はどっちも物凄く汎用性が高いわねぇ!凄いわデリス君!」
僕も、ダイヤモンドシールドは凄く使いやすいと思う。
「ありがとうございます!では、僕は授業に戻りますね」
くいっとまた軽く敵対国へ装身具が動く。
本当になんだろうこれ。
どうやらあの王冠は、王が無事買い取ったようだ。
いつもの王冠ではなく、虹色の王冠を常に被っているそうだ。
授業に出ると、お爺ちゃん先生はちょっと難しい顔をしていた。
「…戦争になるかも知れん。アッサーナの動きがちょっときな臭い」
「……せんそう」
「神子の存在を嗅ぎ付けたようだ。自国にこそ相応しい、という声明が聞こえてきている」
「――僕?」
「…君の所為じゃないが、そうじゃな」
「僕は…そんなんじゃ……まだ神子になった訳じゃ…」
装身具は輝いているが、それ以外特に何もない。
多分まだパーツが足りていないのだと思う。
「………僕は…人間です…」
「…そうじゃな。人間じゃな」
ちょっとしょんぼりしながらも、アッサーナの方角を見遣る。
装身具が反応していたのはどういう事なんだろう。
アッサーナに行きたいのだろうか。
それともアッサーナが危険だと知らせてくれていたのだろうか。
週末、PTメンバーにその事を言ってみると、全員顔を歪めた。
「デリル君をアッサーナなんて野蛮な国に渡すとかありえないから!」
「俺も同じ気持ちだ。あの国は血の気が多すぎて民の事を考えていない」
「俺ちゃんも~。こ~んな可愛いデリル君があ~んな国に行くとか冗談でも許せないねぇ~」
「同意」
「神子とかどうでもいいの。デリル君はずっと私達のPTメンバーなの!」
「メルさん…」
嬉しい。
神子だから、じゃなくて、そんなの関係なく僕を仲間だと言ってくれる事が。
「俺らもさぁ、デリルが神子かどーかなんて、誰も気にしてないからねぇ~」
皆うんうんと頷いている。
――嬉しい!
僕は皆に抱きついて頬を擦り付ける。
皆面映ゆい顔をしていた。
「あのね、僕、皆が大好き…!」
その日のダンジョンは、風靡のダンジョンというダンジョンで、心地いい風が吹いていた。
その風に乗って、砂のように小さな敵が皮膚の下に潜り込もうとする、ちょっと凶悪な仕様だ。
ダンジョンに入る前に掛けた支援で、全員バリアで防げているので問題はない。
「これこれ。これの所為で今まで挑戦出来なかったのよね。バリア凄い助かるよー!」
「盾では防ぎきれない」
「アズ、それは仕方ない事だから気にするな…」
「この敵の所為か、罠が見当たらないねぇ~」
1Fにはこの小さな敵しか居ないようだ。
2Fへ降りると少し風が強くなる。
小さな生物は潰れてしまうのか混ざっていない。
岩の隙間から吹く風に混ざり、ジンと呼ばれる精霊がウィンドブラストを打ってくる。
アズさんが仲間に当たりそうな魔法だけを盾で弾いてくれる。
これは物理は効かない。
「属性変換、聖」
レンドさんに支援を掛ける。
その瞬間レンドさんはジンを一刀両断して回る。
「いつもありがとな!」
「いえ!それより階層ごとに風が強くなりそうなのが心配で…あ」
ふわっとした感覚のまま、魔法を唱える。
「ウィンドシャットアウト」
体を押してくる風の圧力が消える。
これで探索が楽になりそうだ。
「お。罠の解除しやすくなったよぉ~!助かるぅ」
次の階にはシルフィード、と精霊が多めのダンジョンのようだ。
音からするに更に風が激しくなっているようだけれど、ウィンドシャットアウトのお陰で全く感じない。
シルフィードは風で出来た花の花びらを刃にして攻撃してくるが、バリアとウィンドシャットアウトの二重の壁に阻まれて、誰にも傷がつく事は無い。
どんどんとレンドさんとミルさんに倒されていくシルフィードだが、残った3匹が合成した大魔法を撃ってきた。
アズさんが盾で受け止めるが、マジックバリアがガシャンと破壊される音が響く。
ウィンドシャットアウトで軽減された風の刃がアズさんを襲う。
流石の盾捌きで盾に亀裂は入ったが、アズさんは無傷だ。
シルフィードは倒し切ったけれど、アズさんの盾が限界だった。
「どうしよう?帰った方が無難かな」
「ん~、これはしょうがないねえ」
「仕方がない事だ。こういう日もある」
「申し訳ない」
ふわっとした感覚。
僕はアズさんの盾に手を翳した。
「元の姿を取り戻せ、リワインドタイム」
きらきらした光が盾を包み、1日時を巻き戻した姿に戻った。
「お…これは」
「凄いじゃない!盾の傷も癒せるなんて!」
「感謝する」
「癒術万能過ぎぃ~」
「で、でも、1日時を巻き戻せるだけだから、使いどころは限られるかなと」
「いや、剣が折れたり鎧が壊れても対応出来るって物凄く有難いよデリル君」
「えへへ。ありがとうございます」
バリアとウィンドシャットアウトをアズさんに掛け直す。
その後も風属性の精霊が階層ごとに違う種類で出迎えてくれたが、今度は盾も壊れず、ミルの範囲土魔法が風に流されながらも活躍した。
「ボスも精霊だったら、以前の精霊用魔法で一発だね!」
「これだけ精霊ばっかり出て来てるんだから精霊だろう」
「そう思わせといてマッドピエロみたいなイレギュラーかも知らないぞぉ~」
「…」
ボス層、魔法での遠隔攻撃ばかりで気疲れしたアズさんの為に休憩を取る。
僕はお爺ちゃん先生に貰った飴玉を配った。
少しでも疲労回復になればいいんだけど。
「…さて。飴玉ありがとうなデリル」
「うん、気力回復!」
「まあ~僕は扉開けるだけなんだけどねぇ~」
「我に苦難を耐える力を!ストロングディフェンシブストレングス!」
アズさんがスキルを発動させると共に扉を開ける。
広いフロアの奥には風竜が居た。
「うわ、精霊じゃないとか詐欺っぽい!!」
ギロリとこちらを睨んだ竜は、振り向きざまにブレスを放つ。
「ダイヤモンドシールド!」
あれは盾では防げない。
直観的に思った僕はシールドで相殺する。
ガシャン、と音がして、ブレスの消滅と引き換えにシールドが壊れる。
ガァッと口を開いて襲い掛かってくる竜を盾でいなして顎を上へカチ上げるアズさん。
その隙に斬りかかろうとして尻尾で弾かれて壁に激突するレンドさん。
「爆ぜよ滅せ我が敵を!エクスプロージョンロック!!」
ミルさんの魔法は激風に流され、竜に届かない。
「我に害なす敵を滅せよ!エクスカリバー!」
刃が形成され、落ちて来るまでの間、アズさんが時間を作ってくれる。
魔力を根こそぎ持って行かれながら、風竜の首を切断し、その体もどうっと横に倒れる。
必死でMPポーションを呷って意識を保つ。
「レンドさん!大丈夫!?」
「あてて…バリアのお陰でちょっと背中打った程度だ…」
「ひーる」
「お、すまないな」
「アズさんも平気?」
「俺は大丈夫だが、盾が…」
上にカチあげた時に出来た凹みがくっきり残っている。
「元の姿を取り戻せ、リワインドタイム」
その呪文で盾が元通りになったのを見たのが最後に、僕はMP切れで意識を失った。
気づいたらギルドの片隅のソファで寝かされていた。
マスターはこちらをのぞき込んで魔力具合を確かめると、起き上がらせてくれた。
「すまんが、鞄から素材を出してくれないか。出せるのは坊主だけだからな」
「あ、はい…」
まだふわふわした動きで雑魚も竜も全部取り出してもう一度ぱたりと横になる。
あれこれと売却の話をしているのを他所に、半刻ほど眠ってしまった。
やっと動ける程度にMPが回復した。
「あ、起きた?綺麗な竜の素材、白金貨3000で売れたから、一人600ね。あと雑魚の分」
じゃらじゃらとお金を僕の鞄に突っ込んで、メルさんは僕を抱っこしてギルド酒場まで移動する。
「あ、あの、もう動けます」
「まあまあ、偶には甘やかされてちょうだい」
ご馳走の並ぶテーブルの椅子に座らされる。
「あーんもしたげよっか?」
「え、遠慮します!」
食と睡眠は魔力の糧だ。僕は丸焼きにされたチキンの足に噛り付いた。
いつも通り、皆でわいわい言いながらお腹いっぱいに食べる。
今日は後ろで消えるビゼットの気配はない。大人しく食べているようだ。
――と、思ったら、帰りがけに後ろから人に紛れて近づいて来たらしく、昏倒させられ、消える気配がした。
「あの執念を癒術に向ければ大成しそうなのに…」
「ほんとそれな~!」
僕もなんだか残念な気持ちになりながら、ミルと魔術棟へ帰った。
そして背に片翼が生えているのを見て卒倒しそうになった。
片翼って中二っぽいですね。せめて両翼揃えたいですよね。




