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嘘つき

辺りが薄暗くなってきた午後7時半。

待ち合わせたコンビニの駐車場からゆっくりと走り出した車の中は、なんとも言えない不思議な空気が漂っていた。

これまで麻衣と会っていたのは水族館の中だけで、麻衣はいつも友達と来ていたから二人きりになった事なんて今までに無い。

今日が初めての二人きり、しかもその初めてが車という狭い空間…という状態がお互いをモジモジさせたのだろう。


三十路が目前に迫る男が運転する車の助手席には、制服を着た女子高生。

「援助交際に見えなくも無いな…」などと思いながら目尻の下がったオッサンとなった康弘は、車を走らせながらも話題探しの為頭の中をフル回転させていた。


「今日は学校、遅くまでお疲れ様。疲れてるのにありがとうね、俺の為に」

まずは当たり障りの無い話題から始まった。


「あ…ううん、部活って言っても運動部じゃないから体は疲れてないし、全然大丈夫です♪」

麻衣も狭い車内に二人きりという状況に少し緊張していたせいか康弘を直視できず、流れる窓の外の景色を見ながら答える。


ぎこちないながらも麻衣の学校での事や康弘の職場の事など、何気ない日常会話をしながら車を走らせ続ける事30分。

麻衣の家の近くにある光ヶ丘というJRの駅に着く頃にはようやくお互い緊張もほぐれ、車内に充満していた不思議な空気は穏やかな空気に変わっていた。


「ところで麻衣は歳いくつ?見た感じ15歳ぐらいだけど(笑)」

駅の駐車場に車を停めてエンジンを切り、康弘は何気なく気になっていた質問を口にした。

…が、麻衣の返事を聞く前に内心「しまった」と後悔する。

こんな事を聞けば、絶対に「あの質問」が返ってくるに違いない。


康弘にとって「麻衣に彼氏がいるのか?」という不安の次に不安な事…

それは年齢差だった。

麻衣は29歳をオッサンだと思っているに違いないと決めつけていた康弘は、自分の年齢を明かすのが怖かったのだ。

しまった、あの質問が返ってくる…と後悔したのは「康弘さんは何歳ですか?」という質問返しを見通しての事だった。

しくじった…という想いの康弘に気付かず麻衣は答え、そして予想通りの展開となる。


「よく言われます、幼いって。でもさすがに15歳って事はなくて、18ですよ。康弘さんは何歳なんですか?」

やっぱりそう来たか。

でもここで動揺しちゃまずい。


「そっか、18か。若いなぁー!俺は………25歳だよ」

康弘の口からとっさに出たのは、中途半端に4歳サバを読んだ嘘の年齢だった。

言った途端に後悔と罪悪感が襲う。


「えぇーっ、22〜3かと思ってました!若く見えますねぇ♪」

康弘の年齢を聞いて麻衣は驚いてそう言った。嘘にも関わらず。

しかしそれ以上に驚いたのは康弘だった。

…若く見えますねぇ???

実際は29歳。それを明かしたくなくて嘘をついて25歳と言ったのに、それよりまだ若く見えると言われるなんて思っていなかったからだ。

若く見られて正直嬉しい。

しかし嬉しい気持ちよりも、嘘をついてしまった事で心がチクチクと痛み、罪悪感のほうが幾分か大きかった。

康弘の中の「善」が囁く。

『今ならまだ間に合うぞ。とっさに嘘をついてしまった事を正直に言うんだ。こんなちっぽけな嘘なんてついてもなんの特もないんだから。ひとつの嘘がたくさんの嘘を生む前に、正直になるのが自分の為だし相手の為だろ?』

そして「悪」も囁く。

『正直に言って、オッサンだってドン引きされたらどうするんだ?相手は嘘の年齢より若く思ってたんだし、少々の嘘ぐらいつき通せばいいんだよ。今「嘘でした」なんて言ったら嘘つきだと思われて嫌われるのがオチだぞ?』

康弘は独りもんもんと「善」「悪」と闘っていた。

そんな様子を知ってか知らずか、麻衣が言う。


「それより康弘さんがまだ時間大丈夫なら、ちょっと移動しませんか?ここだと親が通るかもです…」


それを聞いて康弘は、ひとまず頭をリセットし「了解!」と再び車のエンジンをかけ、近くにある海辺に向かった。

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