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心の中にいるのは誰…?

タカアキとの付き合いは、たった1ヶ月間という短いものだった。

「1ヶ月…短かったなぁ」思わずポツリと呟き、過去を思い返しながら歩く。


忘れもしない、恋の始まりは2年生の夏、野球部が甲子園出場を果たした時だ。

学校総出で応援に行き、気が付けば試合中ずっと目を奪われていたのがピッチャーのタカアキだった。

投げれば難なくいくつもの三振を奪い、打席に立てば毎打席ヒットを放つ。

同級生だから存在は知っていたけど、野球をしている姿をじっくり見るのはあの時が初めてで…

普段休み時間なんかに見かけるタカアキより、何倍も輝いて見えた。


それからだなぁ、夢中になったの。


募る想いが抑えきれなくて、バレンタインにチョコを作って告白して…

そうだ。

あの時「俺も好きだった」って言ってくれた。

そんな事言ってくれると思ってなかったから、嬉しくて泣いちゃったっけ。


でも、アイツから「好き」って言葉が聞けたのは、それが最初で最後だった。

ひと月後には突然一方的に「別れよう」って言い出して…

それがタカアキの為になるならと思って、私は原因を追及する事も無く「うん」って答えた。

納得なんてひとつもしてないけど、好きだからこそ出した答えだった。


でも気持ちはそんなに簡単に切り替えられなくて。

別れてからも心のどこかでタカアキが私の所へ戻ってきてくれるのを待っていた。


それからそんな気持ちのままズルズルと時間が過ぎて…

ある日、友達からの噂話でタカアキに好きな人がいる事を知った。

ショックだったけど、それ以上に「もう好きでいちゃいけないんだ」っていう想いが強かった。

もうこれ以上私の出る幕は無いんだ…って、自分に言い聞かせていた。


そういえば、友達に誘われて学校の帰りに水族館に通い始めたのもこの頃だっけ。

規模の小さい水族館だけど、ひとつだけ10メートルぐらいの大きな水槽があって…

その中ではカラフルなサンゴが水の流れに乗って踊るように揺れ、色とりどりの魚たちが大空を自由に飛び回るように泳いでいて、一目見た時からあの水槽は私の心を虜にした。

いくら大きな水槽とは言え、海とは違って行き止まりのある限られたスペース。

そんな中でも魚たちは悲観的にならず、今をいかに生きるか、しっかり考えているように見えた。

…なのに私はというと、行こうと思えばどこにでも行ける環境にいながら、ひとつの事(タカアキとの別れ)に囚われてどこにも行けずに立ち止まっていた。

「いつまでも立ち止まってちゃダメだ。もっと視野を広げて周りを見なくちゃ」そう思えるようになったのは、あの魚たちのおかげだ。


そして「あのお兄さん」の笑顔にも、タカアキの事を考えて凹んでしまった時に救われた。

いや、今思えば、凹んでない時も「あのお兄さん」に会えば心が弾んでいたような気がする…。

初めはお気に入りのあの大きな水槽が目当てで水族館に通っていたけど、途中から「あのお兄さん」に会うのが目的で通っていたのかもしれない。


タカアキの存在が限りなく薄らいだ今…

私の心の中には「あのお兄さん」がいるような気がする。

さっき電車の中でノリちゃんに言われたように、自分に正直になってみたら、急にそんな気がしてきた。

だから名刺をもらった時にドキドキして嬉しかったんだ。





「よし…」


何かを決断したかのように麻衣はポケットの名刺を手に取り眺め、呟いた。


「康弘さん…か」


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